《作戦の説明は以上だ。何か質問は?》
 侵略軍総長は、集まった数人の兵士を見渡す。
 そこは、宇宙船内に作られた、集中会議室ブリーフィングルームだった。入れるのはせいぜい10人ほど、座る場所さえない狭い部屋だが、大型のボードが設置され、各自に説明ができるようになっている。
 その部屋には、総長と副官、それに兵隊が3人ばかり。集まった兵士は、いずれも強い戦力となりうる、エース級ばかりだ。
 その中の一人、ラーゼリアが手を挙げた。
《なんだ、お前が質問なんて珍しい》
《この作戦だと、私はあいつと戦えない》
《その通りだ。だが、我々には必要な作戦と判断した》
《嫌よ。私はあいつとやり合いたいの》
《なに、お前が活躍すればするほど、あいつも必ず戦場に現れるだろう》
《そんなことより、連中が拠点としているところを叩くべきだわ。私は連中と戦えるし、連中だって移動した拠点を潰されれば大きなダメージになる》
《却下だ。枝を払ったところで本体へのダメージは限定的だし、こちらの戦力も限られる。損耗が大きすぎる》
《でも……》
《いいか、これは総長として命じる。お前も軍人なら、たまには命令を聞け》
《……了解》
 しぶしぶといった体でうなずくラーゼリア。総長は他のメンバーも見渡し、
《では、作戦開始は日暮れと同時。総員、それまで体を休めておけ》
 了解、という短い返答が、部屋に響いた。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 18時10分。敵機確認。
 その連絡が入った時、紅はそっとコーヒーカップを置いた。
 やる気は満ちている。気持ちでは、もう負けない。
 立ち上がり教室を飛び出すと、体育館に向かう。臨時の工廠では、荒野たちがギリギリまで整備をしていた。
 前回の出撃で、比較的ダメージがなかった紅の装備は、調整も必要なかった。ハンガーにかけられた自分の装備を手に取り、手早く装着していく。
 腕、足、鎧。そして、新たな装備は、腕のハードポイントに接続。
「……これが」
 新型実験ユニット。通称【ストライクブレイカー】。
 ごくりと喉を鳴らし、紅は宙を舞う。
 小学校の校庭から飛行を開始し、市街地を抜けていく。目指すは山間部。
 すぐに、後ろからハナダとミドリが追いついて来る。
 耳元で、ハナダの声が聞こえる。
「おい、コウ。無理をするなよ、うちの班はサポーターがいないんだ」
「今回はECCMも最低限だからね!」
「うん。でも、たぶん大丈夫! 行こうよ、ハナダ! ミドリ!」
 ぐっ、とストライクブレイカーを握り、紅はまっすぐ飛んでいく。
 すでに日没の時刻。徐々に暮れていく世界で、空は血を撒いたように赤い。
「これ以上、やらせない……!!」
 紅がぐっと奥歯を噛んでいると、正面から黒い影が現れた。敵機発見。
「……」
 紅は銃を取り出すと、迷いなく撃った。バイザーの向こうで、敵機のレティクルが次々と消えていく。
「お、おいコウ。大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫だよ。あれは無人機だから」
 そうだ、迷うことなどない。
 無人機か有人機かなど、見ればわかる、、、、、、
 無人機を5体ばかり撃墜すると、その中に有人機が混じっていた。
 紅は知るよしもないが、サポートタイプのユニットだ。各無人機の操作を担当している。
「ふっ」
 息を吐きながら、一気に距離を詰めていく。
 エールタイプのユニットを装備している紅は、飛行速度は早い部類だ。時折、無人機が邪魔をしに来るが、紅の前では相手にもならない。
 こちらの存在に気づいた敵機が回避行動に移るが、重めの通信装置を装備したサポートタイプでは、回避速度が遅い。
 エールタイプなら、それを捉えられる!
「はぁ!!」
 ストライクブレイカーを振るう。それは、さながら振動する名刀。
 ヒットの直前に引き金を引く。コアユニットが震え、敵機目掛け、力を放つ。
《ッ!?》
 剣はかすめただけだ。だが、敵機の動きが目に見えてにぶる。
「そこッ!!」
 その瞬間、紅は敵ユニットの背中を撃ち抜いていた。飛翔ユニットが破壊されてしまえば、彼らもまた、重力から逃れる術はない。
《くそッ!!》
 よろよろと降下していく敵機。そこに、ハナダが襲いかかる。
「はッ!!」
 ハナダが持っていたのは、いつもの刀ではなかった。さすまたのような、二股に分かれた槍だ。
 敵機を押さえ込むと同時にロック。そのまま、電圧をかける。
《ぐッ!!》
 一種のスタンガンだ。コアを通すことで、相手の鎧を貫通して電撃を喰らわせることができる。
 ぐったりとした敵機を、山中に落とす。すぐに自衛隊が回収する手筈だ。
「イケる。イケるよ!!」
「なかなかどうして……。最初は非殺傷なんて狂ったかと思ったが」
 ハナダも実感に驚いているようだった。
「ようし、どんどん行くよ!!」
 紅は右手に持っていた銃を足のハードポイントにマウント、腰に装備していたハンドガンに切り替えた。
 テーザー銃にも似たこのハンドガンは、言うなれば射撃するスタンガン。ハナダが使用している電撃さすまたと近しい装備だ。
「このまま全員、あたしが落とす!」

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 組織のリーダーである関野は、パソコン画面と睨み合っていた。
 いつもの執務室。日の光が入らないこの部屋は、昼も夜も関係がない。今日も関野と秘書のアリサがキーボードを叩く音だけが響いている。
 関野はキーを叩く手を止め、
「……アリサ」
「はい、なんでしょうか」
「現状をどう見る」
「どうとは?」
「今まで連中は、本隊をアメリカに置いたままで各国を襲撃していた。それが、突然、日本に来たんだ。それは何故だと思う?」
「彼らの動きは読みにくいところがあります。それは、彼らの目的を、我々が認識できていないからかと。なので、日本が強襲された理由も、判断しようがありません」
「ふむ。それはその通りだが」
「……通常で考えれば、侵略とは土地か資源のいずれかを求めるものです。けれど、彼らは支配をしない。つまり、土地には興味がないということです」
「では資源ということになるが」
「ですが、彼らは侵略した土地でも、何かの採掘をしている様子がありません。さすがに給水くらいはしているようですが、鉱山を採掘するわけでも、石油プラントを襲うわけでもない」
「そう、それが不可解なんだ。連中が資源を欲しているのは間違いないだろうに、連中が欲している資源がわからない。だが、もしそれが日本にあるとしたら?」
「確かに、日本を襲う理由にはなりますね。けれど、資源にとぼしい日本に、そんなものがあるでしょうか」
「もちろん、我々が認識している資源とは別のものだろうが……。あるいは、それがASUの運用に関わっているのか?」
 ストライカーユニットのコアについては、いまだにはっきり判明していない部分が多い。
 現状、生産されているコアユニットは、連中を破壊して手に入れたコアを、そのままコピーしただけだ。そこから抽出されているエネルギーが電力に変換できているのはわかるが、何を抽出しているのか、観測装置がないので判明しない。
 人類の科学がまだ到達していないブラックテクノロジーの塊。それがコアユニットだ。
「コアユニットを動かすのに必要な資源、ですか。確かにそれは存在するのでしょうが、それが日本に?」
「だとすれば辻褄を合わせることはできる、というだけだ」
「そうですね。実際、彼らの言語体系さえ不明のままでは、捕虜さえ意味がありませんけれど」
「尋問か。できるものならとっくにしているよ」
 関野はため息ひとつ。パソコンの時刻表示を見た。
 現在時刻は18時58分。
「そろそろ休憩にするか」
「はい。……ん?」
 それは、かすかな違和感だった。二人同時に立ち上がった時、ほんのわずか、空気が揺れた気がした。
 虫の知らせ、とでも言うべきか。嫌な予感。
「……おいおい、まさか」
 次の瞬間、ふぁんほんふぁんほんと悲鳴のようなサイレンが響く。
『緊急事態!! 敵襲!! 本部上空!!』
 放送に、ぞくりと背筋が震えた。
「本隊を集めさせておいて、こっちを奇襲してきたか……!!」
「この場所がバレていたようですね。どうされますか、主だった班は兵庫です」
「我々でやるしかないだろう」
 冷や汗を浮かべながら、関野クロエは苦笑する。
「参戦するのは久しぶりだな、アリサ」
「お任せください、クロエさん」