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 HUDの暗視表示に映り込む無人機。
 それを、紅は持ち替えた小銃で撃ち落とす。下は山間部、明かりがないので、日も暮れた中では確認できない。
 周囲を警戒しながら敵機を撃墜していく紅の耳に、通信が入る。
「っ……コウ、ハナダ!」
 それは、最も後ろに陣取っていたミドリからの通信だった。彼女は、アサルトの紅やハナダよりも装備に余裕がある関係上、強めの通信機を備えている。
「緊急事態!! 東京の本部が強襲されてる!!」
「えッ!?」
「くそッ! そういうことか……!!」
 ハナダの声が耳元で響く。
「どうも連中の動きがにぶいと思ったら! あいつら、最初からこっちは陽動だったんだ!!」
「今、本部に戦える人って……」
「ユニットの修理中だったミクと、体調が悪かったレミだけだ!」
「2人……!? 敵の数は!?」
「わかんない! そこまで情報が来てない! すぐに帰還命令って……」
「間に合うはずないだろう! ここは兵庫だぞ!?」
 ストライカーユニットの飛行速度は限界がある。なにせ、着ているのは人間なのだ。
 航空力学に則った戦闘機ならばともかく、この形状では、音速すら遠い。最大で飛ばしても、東京までは何時間もかかる。
「でも、帰還しないと! 自衛隊は!?」
「九州に人を取られて手一杯だって……」
「そんなこと言ってる場合か! 本部がやられたら工廠を失うんだぞ!!」
「そんなことわたしに言われても!」
 ハナダたちは知るよしもないが、そこには幕僚長の意思が関わっている。
 元より組織に対して理解のない彼は、基本的に組織のサポートなどしたくないのだ。
 むしろ、ここで潰れてくれた方が好都合ーー。
 状況を見えていない幕僚長の意思は、自衛隊全体の動きをにぶらせている。
「くそっ……っと!?」
 そうこうしている間にも、敵機は無人機を飛ばしてくる。
 こちらも集中を削がれれば撃墜される。時刻はすでに夜。バイザー越しならばかろうじて暗視もできるが、それにしても限度はある。
 一瞬の思考。その中で得たひらめきを、紅は口にする。
「……ハナダ、ミドリ。あたしたちは東京に戻ろう」
「も、戻る!?」
「うん。この戦場には、あいつがいない」
 紅の脳裏によぎる影。
 それは、本物のエース。
「ハナダを落とせるほど強い人なら、強襲に加わっていると思う。あいつを倒せれば、とっても有利になれる」
「あいつか……。だが、東京まで戻るといっても足がない」
 ハナダが言った直後。バイザーにアラート音が響く。味方機の信号、所属はーー自衛隊。
『生きてるか! 組織!』
 たった一機だけで現れた【C-2】輸送機。鳥取に常駐しているはずの自衛隊機だ。その白鯨のような巨体が戦場を通過する。
「自衛隊!? なぜここに!?」
『単なる命令違反だ!』
 その通信に、ハナダは口をあんぐりと開け、紅はくすりと笑った。
『守らなきゃいけないお前たちに守られているのに、のうのうとしていられねえだろう! 命令違反だし裁判もんだが、それでも、ここで逃げるわけにはいかない! ほら、乗れ! 東京まで送ってやる!!』
「でも、この場が……」
 迷うハナダ。そうこうしている間にも、巨大な的に過ぎない輸送機に、次々と無人機が向かっていく。
『おい、早く乗ってくれ! このままだと撃墜される!』
「し、しかし……」
「行ってハナダ!!」
 輸送機を守るように舞うブルーメタリック。別のASUーーあれはランの班だ!
「ハナダ、このままじゃクロエさんたちもやられちゃう! 急いで戻って! ハナダたちなら、1班でもやれるから!!」
「こっちは残る私たちでキープするわ! お願い!」
「ラン……。ルルまで……」
 ごくりと喉を鳴らし、ハナダは決心した。
「わかった。行こう」
 対するミドリと紅も頷き、そのまま輸送機が開いていた格納庫に乗り込む。
 三人を乗せ、輸送機は最大速度で飛び出した。
 目指すは、東京。

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 いつも通り装備を整え、いつも通りに外へ出た。
 闇夜にまぎれる光学迷彩。高いステルス性能のおかげで、目視で敵にバレることはない。
 侵略軍士官兵ラーゼリアは、片手に剣を、片手に銃を握り締める。
 軍に所属して10年。軍には刺激を求めて入隊した。
 他国との戦争は楽しかったが、刺激はさほどでもなかった。相手が弱すぎたのだ。
 単独で100もの敵を撃墜せしめたエースパイロットにとって、ただの敵を落とす作業など、まさに作業以外の何物でもなかった。それでもまだ、戦っている間だけが生きがいだった。
 そんな彼女は、5年前に惑星統一が成された時ーー絶望した。もう戦う相手がいない。それは、彼女にとって人生を奪われたに等しい。
 それだけ腐っていた時期だから、2年前の侵略事業開始には、すぐさま立候補した。
 大勢を殺せるチャンス。他星を侵略し、資源を奪うという目的。
 その全てが、ラーゼリアの心を打ったのだ。
 だから、今日も同じことをする。
 たくさんの敵を殺し、奪い、そうして自分が生きていると実感する。
 それこそが、ラーゼリアにとっての、生きるということなのだ。

 小型船から飛び出し、そのまま侵略目的地へ向かう。
 目指すはあの建物。ーー”組織”の本部だ。
《ふん……》
 ぱらぱらと敵機が出てきた。その数2。
《雑魚がッ! ナメてんじゃないッ!!》
 銃弾を使うまでもなく、一挙に間合いを詰め、斬り伏せる。
 トドメは優先しない。今回は、早くあの建物を制圧する必要がある。
 電撃戦だ。時間を置けば、本隊が危なくなる。それまでの間に、ここで資源を奪い、離脱しなければいけない。
 大きめの建物ーー工廠の上に降り立つ。アタッカーであるラーゼリアは探査用の装備をしていなかったが、検査などしなくてもはっきりわかった。
《匂う》
 ぷんぷんと匂う、”力”のにおい。
 間違いない。ここだ。
 ラーゼリアは後続が来ていることを確認し、工廠の屋根に剣を突き立てる。無理やり引っぺがすと、大量の工具が視界に入った。
 そのまま降下しようとして、
《ッ!!》
 かすかに感じた殺気。それがなければかわせなかった。
「やりますね」
 現れたのは、黒いユニットだった。いつも相手にしているブルーメタリックのユニットと違い、全身が闇のような黒色に塗られている。背中のブースターは大きく、両腕に銃口らしきものが見える。
《新手か》
「なるほど、有人機。とはいえ、遠慮はしませんよ」
 たった一人。だが、感じる。
 色が違うとか、そういう問題ではない。こいつはもっと厄介な敵だ。
 弾丸のように飛び上がる敵機に、ラーゼリアもまた空へ戻る。後続に通信。
《敵機確認! 手を出すなよ!!》
 なるほど、総長の言うことは正しい。
 敵ならいるものだ!
 敵が展開する弾幕を、ラーゼリアは剣で弾きつつ避ける。加速と射撃が得意なようだが……。
《浅い!!》
 ひとつひとつは、たいした威力のある弾ではない。
 覚悟して突っ込む。致命傷になりうる正面からの弾幕だけを弾きつつ、前へ!
「ほう」
 相手はそれでも焦ることなく、背中のブースターを展開する。
 肩口から覗く銃口。
《ふッ!!》
 見えた瞬間にロール。大型の弾丸を紙一重でかわす。
《遅い!!》
 そのまま一気に間合いを詰める。剣の間合い。
「……甘いですよ」
 斬れる。思った時には、敵は上半身を大きく反っていた。
 ユニットは、天地を逆転させても、すぐさま落下することはない。重力をキャンセルしているからだ。
 立体軌道で回避した先ーーそこに、もう一機いた。
「落ちて貰うぞ!!」
 クロエの機体。その手から伸びる大型の刃がラーゼリアを襲う。
 確実に取れる間合いだった。相手がラーゼリアでなければ、、、、、、、、、、
《……》
 ラーゼリアは静かに体を沈ませる。紙一枚の、さらに10分の1ほどの隙間を開けて、攻撃を回避する。
 まさに神業。ほんのかすかなスペースを狙っての、最低限の回避。
 そのぶんで浮いた時間で、ラーゼリアは剣を跳ねさせる。相手の刃を弾きーー槍のような武器だったようだーーそのまま剣を放棄。空いた手で敵機を引き寄せる。
《ばぁか》
 そのままクロエ機をぶんまわし、アリサ機にぶつける。空中で回転している剣をひっつかみ、そのまま降下。
 落下よりなお早い加速により、2体の敵機をまとめて蹴り抜く。工廠の屋根をぶち破り、コンベアを粉砕しながら落下する。
「うっ……」
 ストライカーユニットを装備していても、物理的な衝撃を全てキャンセルできるわけではない。鎧を着ていようが何しようが、痛いものは痛いのだ。
 即死しなかっただけ、運が良いと言うべきか。あるいは不運かもしれない。
《息は合ってるけど考えが甘い。その程度で隙を突いたと思うなんてね》
 圧倒的な戦闘力。その神髄は、なんとなくで敵の考えを読み、挙動を把握し、回避せしめてしまうーー動物的な勘。
 戦えなくなった敵には興味がない。ラーゼリアは周囲を見渡し、様子を窺う。
 他に敵影はない。なら、問題はない。
 すぐさま味方が降下してきた。一人は巨大なテーブルのようなものを運んでおり、もう一人が護衛をしている。
 運搬班は、工廠のど真ん中にテーブルを置いた。それは、彼らの装置だった。起動させると、テーブルの中央が割れ、中から銃口が覗く。
 次の瞬間、ひゅんと音がなり、地面に穴が開いた。湧き出る力の量が増える。
《ここの土中か。だから、ここの国は強い奴が多いのね》
 感心していると、ユニットが音波を感知した。近づいて来る騒音。
 この状況で近づく騒音など、敵以外にはありえない。
 装置はその場に残し、ラーゼリアたちは空へと舞い戻る。工廠の屋根を抜けると、巨大な白い飛行機が視界に入った。
 飛行機から、ぱらぱらと人影が飛び出す。三つのブルーメタリック。
《……来たか》
 嬉しくてたまらない。それが、ラーゼリアの本音だった。
 ようやく、敵と戦える。