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☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ HUDの暗視表示に映り込む無人機。 それを、紅は持ち替えた小銃で撃ち落とす。下は山間部、明かりがないので、日も暮れた中では確認できない。 周囲を警戒しながら敵機を撃墜していく紅の耳に、通信が入る。 「っ……コウ、ハナダ!」 それは、最も後ろに陣取っていたミドリからの通信だった。彼女は、アサルトの紅やハナダよりも装備に余裕がある関係上、強めの通信機を備えている。 「緊急事態!! 東京の本部が強襲されてる!!」 「えッ!?」 「くそッ! そういうことか……!!」 ハナダの声が耳元で響く。 「どうも連中の動きがにぶいと思ったら! あいつら、最初からこっちは陽動だったんだ!!」 「今、本部に戦える人って……」 「ユニットの修理中だったミクと、体調が悪かったレミだけだ!」 「2人……!? 敵の数は!?」 「わかんない! そこまで情報が来てない! すぐに帰還命令って……」 「間に合うはずないだろう! ここは兵庫だぞ!?」 ストライカーユニットの飛行速度は限界がある。なにせ、着ているのは人間なのだ。 航空力学に則った戦闘機ならばともかく、この形状では、音速すら遠い。最大で飛ばしても、東京までは何時間もかかる。 「でも、帰還しないと! 自衛隊は!?」 「九州に人を取られて手一杯だって……」 「そんなこと言ってる場合か! 本部がやられたら工廠を失うんだぞ!!」 「そんなことわたしに言われても!」 ハナダたちは知るよしもないが、そこには幕僚長の意思が関わっている。 元より組織に対して理解のない彼は、基本的に組織のサポートなどしたくないのだ。 むしろ、ここで潰れてくれた方が好都合ーー。 状況を見えていない幕僚長の意思は、自衛隊全体の動きをにぶらせている。 「くそっ……っと!?」 そうこうしている間にも、敵機は無人機を飛ばしてくる。 こちらも集中を削がれれば撃墜される。時刻はすでに夜。バイザー越しならばかろうじて暗視もできるが、それにしても限度はある。 一瞬の思考。その中で得たひらめきを、紅は口にする。 「……ハナダ、ミドリ。あたしたちは東京に戻ろう」 「も、戻る!?」 「うん。この戦場には、あいつがいない」 紅の脳裏によぎる影。 それは、本物のエース。 「ハナダを落とせるほど強い人なら、強襲に加わっていると思う。あいつを倒せれば、とっても有利になれる」 「あいつか……。だが、東京まで戻るといっても足がない」 ハナダが言った直後。バイザーにアラート音が響く。味方機の信号、所属はーー自衛隊。 『生きてるか! 組織!』 たった一機だけで現れた【C-2】輸送機。鳥取に常駐しているはずの自衛隊機だ。その白鯨のような巨体が戦場を通過する。 「自衛隊!? なぜここに!?」 『単なる命令違反だ!』 その通信に、ハナダは口をあんぐりと開け、紅はくすりと笑った。 『守らなきゃいけないお前たちに守られているのに、のうのうとしていられねえだろう! 命令違反だし裁判もんだが、それでも、ここで逃げるわけにはいかない! ほら、乗れ! 東京まで送ってやる!!』 「でも、この場が……」 迷うハナダ。そうこうしている間にも、巨大な的に過ぎない輸送機に、次々と無人機が向かっていく。 『おい、早く乗ってくれ! このままだと撃墜される!』 「し、しかし……」 「行ってハナダ!!」 輸送機を守るように舞うブルーメタリック。別のASUーーあれはランの班だ! 「ハナダ、このままじゃクロエさんたちもやられちゃう! 急いで戻って! ハナダたちなら、1班でもやれるから!!」 「こっちは残る私たちでキープするわ! お願い!」 「ラン……。ルルまで……」 ごくりと喉を鳴らし、ハナダは決心した。 「わかった。行こう」 対するミドリと紅も頷き、そのまま輸送機が開いていた格納庫に乗り込む。 三人を乗せ、輸送機は最大速度で飛び出した。 目指すは、東京。 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ いつも通り装備を整え、いつも通りに外へ出た。 闇夜にまぎれる光学迷彩。高いステルス性能のおかげで、目視で敵にバレることはない。 侵略軍士官兵ラーゼリアは、片手に剣を、片手に銃を握り締める。 軍に所属して10年。軍には刺激を求めて入隊した。 他国との戦争は楽しかったが、刺激はさほどでもなかった。相手が弱すぎたのだ。 単独で100もの敵を撃墜せしめたエースパイロットにとって、ただの敵を落とす作業など、まさに作業以外の何物でもなかった。それでもまだ、戦っている間だけが生きがいだった。 そんな彼女は、5年前に惑星統一が成された時ーー絶望した。もう戦う相手がいない。それは、彼女にとって人生を奪われたに等しい。 それだけ腐っていた時期だから、2年前の侵略事業開始には、すぐさま立候補した。 大勢を殺せるチャンス。他星を侵略し、資源を奪うという目的。 その全てが、ラーゼリアの心を打ったのだ。 だから、今日も同じことをする。 たくさんの敵を殺し、奪い、そうして自分が生きていると実感する。 それこそが、ラーゼリアにとっての、生きるということなのだ。 小型船から飛び出し、そのまま侵略目的地へ向かう。 目指すはあの建物。ーー”組織”の本部だ。 《ふん……》 ぱらぱらと敵機が出てきた。その数2。 《雑魚がッ! ナメてんじゃないッ!!》 銃弾を使うまでもなく、一挙に間合いを詰め、斬り伏せる。 トドメは優先しない。今回は、早くあの建物を制圧する必要がある。 電撃戦だ。時間を置けば、本隊が危なくなる。それまでの間に、ここで資源を奪い、離脱しなければいけない。 大きめの建物ーー工廠の上に降り立つ。アタッカーであるラーゼリアは探査用の装備をしていなかったが、検査などしなくてもはっきりわかった。 《匂う》 ぷんぷんと匂う、”力”のにおい。 間違いない。ここだ。 ラーゼリアは後続が来ていることを確認し、工廠の屋根に剣を突き立てる。無理やり引っぺがすと、大量の工具が視界に入った。 そのまま降下しようとして、 《ッ!!》 かすかに感じた殺気。それがなければかわせなかった。 「やりますね」 現れたのは、黒いユニットだった。いつも相手にしているブルーメタリックのユニットと違い、全身が闇のような黒色に塗られている。背中のブースターは大きく、両腕に銃口らしきものが見える。 《新手か》 「なるほど、有人機。とはいえ、遠慮はしませんよ」 たった一人。だが、感じる。 色が違うとか、そういう問題ではない。こいつはもっと厄介な敵だ。 弾丸のように飛び上がる敵機に、ラーゼリアもまた空へ戻る。後続に通信。 《敵機確認! 手を出すなよ!!》 なるほど、総長の言うことは正しい。 敵ならいるものだ! 敵が展開する弾幕を、ラーゼリアは剣で弾きつつ避ける。加速と射撃が得意なようだが……。 《浅い!!》 ひとつひとつは、たいした威力のある弾ではない。 覚悟して突っ込む。致命傷になりうる正面からの弾幕だけを弾きつつ、前へ! 「ほう」 相手はそれでも焦ることなく、背中のブースターを展開する。 肩口から覗く銃口。 《ふッ!!》 見えた瞬間にロール。大型の弾丸を紙一重でかわす。 《遅い!!》 そのまま一気に間合いを詰める。剣の間合い。 「……甘いですよ」 斬れる。思った時には、敵は上半身を大きく反っていた。 ユニットは、天地を逆転させても、すぐさま落下することはない。重力をキャンセルしているからだ。 立体軌道で回避した先ーーそこに、もう一機いた。 「落ちて貰うぞ!!」 クロエの機体。その手から伸びる大型の刃がラーゼリアを襲う。 確実に取れる間合いだった。相手がラーゼリアでなければ。 《……》 ラーゼリアは静かに体を沈ませる。紙一枚の、さらに10分の1ほどの隙間を開けて、攻撃を回避する。 まさに神業。ほんのかすかなスペースを狙っての、最低限の回避。 そのぶんで浮いた時間で、ラーゼリアは剣を跳ねさせる。相手の刃を弾きーー槍のような武器だったようだーーそのまま剣を放棄。空いた手で敵機を引き寄せる。 《ばぁか》 そのままクロエ機をぶんまわし、アリサ機にぶつける。空中で回転している剣をひっつかみ、そのまま降下。 落下よりなお早い加速により、2体の敵機をまとめて蹴り抜く。工廠の屋根をぶち破り、コンベアを粉砕しながら落下する。 「うっ……」 ストライカーユニットを装備していても、物理的な衝撃を全てキャンセルできるわけではない。鎧を着ていようが何しようが、痛いものは痛いのだ。 即死しなかっただけ、運が良いと言うべきか。あるいは不運かもしれない。 《息は合ってるけど考えが甘い。その程度で隙を突いたと思うなんてね》 圧倒的な戦闘力。その神髄は、なんとなくで敵の考えを読み、挙動を把握し、回避せしめてしまうーー動物的な勘。 戦えなくなった敵には興味がない。ラーゼリアは周囲を見渡し、様子を窺う。 他に敵影はない。なら、問題はない。 すぐさま味方が降下してきた。一人は巨大なテーブルのようなものを運んでおり、もう一人が護衛をしている。 運搬班は、工廠のど真ん中にテーブルを置いた。それは、彼らの装置だった。起動させると、テーブルの中央が割れ、中から銃口が覗く。 次の瞬間、ひゅんと音がなり、地面に穴が開いた。湧き出る力の量が増える。 《ここの土中か。だから、ここの国は強い奴が多いのね》 感心していると、ユニットが音波を感知した。近づいて来る騒音。 この状況で近づく騒音など、敵以外にはありえない。 装置はその場に残し、ラーゼリアたちは空へと舞い戻る。工廠の屋根を抜けると、巨大な白い飛行機が視界に入った。 飛行機から、ぱらぱらと人影が飛び出す。三つのブルーメタリック。 《……来たか》 嬉しくてたまらない。それが、ラーゼリアの本音だった。 ようやく、敵と戦える。 |