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「ヤバい! もう工廠が破られてる!」
「ちっ!」
 全力で飛ばしてくれた輸送機は、確かに早かった。兵庫から東京までわずか30分。
 だが、それだけの時間があれば、敵も動く。むしろ被害があれだけで済んでいるのは奇跡と呼ぶべきかもしれない。
「あいつ!!」
 すぐさま敵機が飛び出して来る。HUDに表示される姿。
 有人機といえど、見た目にたいした違いはない。だが、紅は確信していた。
 あの時のエースだ。
「中央の一人はあたしが! 残りの二人はハナダとミドリ、お願い!」
「わかった!!」
 散開。敵機がこちらをにらんでいる。
《お前と戦うのを心待ちにしていたぞ》
 通信音声。何を言っているのかわからないが、わかる気がした。
 だから、紅もまた、頷き返す。
「今度こそ、終わりにするよ!」
《ぬかせガキめ!!》
 紅の言葉も通じるはずはない。だが、気持ちが通じているのは容易に感じ取れた。
 笑顔を浮かべ迫るラーゼリア。対する紅も、【ストライクブレイカー】を構える。
 ラーゼリアは銃で狙う。牽制の射撃をかわす紅に対し、さらに距離を詰めてくる。
 接近戦は、紅も望むところだ。
 互いに間合いを詰めていく。射撃をしながら、自然に、狙いは隠すように。
「……ここ!!」
 先に仕掛けたのは紅。絶妙のタイミングで残った間合いを食いつぶし、ストライクブレイカーを起動させる。
《遠いぞ!!》
 だが、狙いはラーゼリアも感じていた。そもそも、先の戦いで銃しか持っていなかった相手が、接近戦用の武器を持っているのだ。無策で距離を詰めるはずもない。
 ギリギリまで詰めたーーその次の瞬間には、反転していた。開いていく距離に、ストライクブレイカーがかわされる。
 剣を振るうことで生まれる、体の開き。それがラーゼリアの狙い目。
《消えろ!!》
 銃口を向け、射撃。至近距離からの弾丸は、紅を容赦なく引き裂く。
 溢れる赤い液体。よろめく姿。
 それこそが、ラーゼリアが求めていたもの。
《はッ! このまま終わりなんて言うなよ、クソが!!》
 喜色を浮かべながら、ラーゼリアは剣を振るう。
 
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 ハナダの武器は、剣一本。
 他の武器はサブであり、彼女にとっては剣以外は武器ではない。
 その姿は、敵から見てもすぐさま意図が理解できたのだろう。相手は射撃武器に切り替えると、なんとかハナダから間合いを取ろうとする。
 詰めたいハナダと、逃げたい敵。互いの動きが交錯するように集い、離れ、また近づく。
「……」
 だが、この敵はラーゼリアほどではなかった。
 ハナダとて、この世界で何年も生きてきた。剣道を始めた年月で言えばさらに長い。
 それだけの年月、一度も死ぬことなく生き抜いてきたのだ。
 そのハナダにとって、この程度の敵を倒すことなどーー造作もない!!
「面!!」
 右からと見せかけた、正面からの突撃。相手の銃弾が左腕をかすめるが、まったく止まらず、全力で剣を振りかぶる。
 真っ向からの斬撃。敵もロールして回避しようとする。
 その瞬間、ハナダはかすかに剣を振るわせた。コアユニットによる、横からの、、、、薙ぎ。
 まったく予想していない軌道の剣は、相手の頭を殴り飛ばす。
 よろめく敵のユニットを剣で断つ。そのまま、敵はよろめきながら落下していった。

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 ミドリは普段、接近して敵と戦うことはない。
 面で制圧することが役目のミドリにとって、個々の敵は倒さなければいけない対象ではないのだ。
 だから装備も重いし、そのぶん機動力も犠牲にしている。
 けれど今は、この敵を紅のところに行かせてはならない。
「……やるか」
 ミドリはAFSAWを起動させた。
 彼女にしか取り扱いができない、使い所を選ぶ装備。
 両肩についていた銃が切り離され、浮かび上がる、、、、、、 。
 コアユニットを搭載し、自立飛行・狙撃が可能な、ミドリにとっての伸びる手。
「そらッ!!」
 3方向から面を押さえる射撃。敵機はたまらず逃げに徹するが、それをさせては重火力は名乗れない。
「逃がすか!!」
 誘導ミサイルを発射。同時に距離を詰め、斥力キャンセルを発生させる。
 相手はミサイルを回避する。よく動く機体だがーー自分以外を狙う銃弾は、止めようがない。
 AFSAWによる、死角からの射撃。それすらかわす敵機ではあったが、ミサイルは銃弾をかわせない。
 内部で点火し、爆発する。空中で四散した爆風は相手を破壊し、速度を落とさせる。
「そこだ!!」
 狙い済ました射撃。弾丸は敵の横腹を貫き、動きを止める。
 なんとか逃げようと背中を見せる敵。その速度はにぶい。
 だから、たいした速度が出せないミドリでも容易に追いつき、ゼロ距離からコアユニットを撃ち抜くことも、簡単にできていた。

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 ラーゼリアが振るう剣で、上に弾かれる。
「ぐっ、ぅううううう!!」
 銃弾を浴びても、ストライカーユニットはただちに持ち主を死なせるわけではない。
 仮にも鎧。至近距離とはいえど、そのまま即死するようでは鎧の意味がない。
 紅は痛みを噛み締め、銃を振るう。さながら鈍器。当たるはずのない攻撃だが、ラーゼリアは回避行動を取った。
 直後、銃弾が雨のように降り注ぐ。ぶんまわすだけと見せて、どこまでも冷静。
《そうだ! そうこなくっちゃな!!》
 敵の反撃に、ラーゼリアはむしろ嬉しそうだった。さらに距離を開きつつ、こちらも銃を構える。
 射撃。だが、3次元に動くストライカーユニットを、何の誘導性能もない銃弾で切り裂くのは難しい。
 縦横無尽に飛び回る紅。それでも、その狙いが剣とわかっているのであれば、そもそも近づかなければいい。
《はっはっ!! どうした英雄!! その程度で落とせると思ってるの!?》
 弾幕で近づけないようにしつつ間合いを開くラーゼリアに対し、紅は敵をしっかりと見据えている。
「痛い……」
 全身を銃弾で叩かれたのだ。鎧越しとはいえ、痛いに決まっている。即死しないから、かえって痛みも長引く。
「痛い、けど」
 それでも紅は空を飛ぶ。
 だって。
「誰かが死ぬより、全然マシだからッ!!」
 全力飛翔。
 しかし、いくらエールタイプの飛翔速度でも、ラーゼリアを捉えられるわけではない。
 それがわかっているから、紅は右手に握るストライクブレイカーをーー投げつけた。
《何!?》
 それがどういう装備か、ラーゼリアは理解していたわけではない。
 それでも、敵が持ってきた切り札らしきもの。それは投げても有効なのか、、、、、、、、、、一瞬だけ判断が遅れた。
 その一瞬だけが、紅が欲した時間。
「当たる!!」
 紅の狙撃。銃弾はまっすぐ、ラーゼリアが銃を握る左腕を貫通する。
《ぐう!?》
 慣れぬ痛みに、思わず銃を取り落とす。すかさず紅は左手の銃も投げつける。
《っ!?》
 両手の武器を捨てるという暴挙。その意味がわからぬまま、それでもラーゼは反射的に回避軌道。
 紅は空いた両手をそのままに、さらに加速する。わずかな荷重の差ーーそれだけでも、ストライカーユニットの加速速度はコンマ何秒か変化する。
《くそッ……!!》
 ラーゼリアは、常に紙一重での回避を得意とする。それは、反撃する時間を作るための癖。
 その変化は、コンマ数秒の時間でもずれてしまうほどの、まさに紙切れ1枚分の時間。
 修正するため、ラーゼリアは体を開いて減速した。互いの動きがずれ、また間合いがずれる。
「見えてたよ、その動き!!」
 それを、紅は勘で先読みした。
《ッ!!》
 くるくると落ちてくる剣が視界に入る。
 そこに飛び込む青いユニット。

「ここだ!!!」
 
 ユニットに弾かれながら、重力と共に突撃する。それはさながら、ラーゼの挙動を再現するかのよう。
 全力で振り下ろされたストライクブレイカーは、ゼロ距離で動作する。これほどの無茶をしても、星の設計はきちんと生きていた。
《ぐおっ!?》
 がくんと落ちる、ユニットのパフォーマンス。逃げる間もなく、蹴り飛ばされる。
 そのまま二人揃って工廠の中に飛び込み、クレーンをへし折りながら地面に激突した。
《がっ、ぐぅ……ナメるな!!!》
 ユニットの出力が低下してなお、ラーゼリアは起き上がる。振り抜く剣は、紅のヘルメットをかすめる。
「終わりだよ!!」
 そこは工廠だ。
 紅は近くに転がっていた銃を引っつかみ、ラーゼをぶっ叩いた。
 ユニットのパワーアシストもついた純粋な打撃は、かえって振動を中まで伝え、ラーゼの頭をぐらりと揺らす。
《あ……れ……》
 ふわりと浮かび上がるように、ラーゼリアは倒れ込む。
「や、やった……」
 直後、紅もぶっ倒れた。
 気絶した両者の上に、壊れた工廠の欠片がぱらぱらと降り注いでいた。