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 どこかを泳いでいた。
 そこがどこなのかーーよくわからない。暗く、どこまでも深い、海のような場所。
 光が届かないのだろうか。自分の手さえ見えない世界を泳いでいく。
 その中に、何かが見えた。
 青い星だ。どこまでも真っ青な星。
 その星は、活力が失われているようだった。からっぽの器のような、本来ならば入っていた何かが欠けているような。
 そうだ、そこには何かがあったのだ。美味しい料理か、わくわくするデザートか、喉を潤すドリンクか。それは分からないけれど、何かがあったのだ。
 それを、食べ尽くされたのだ。だから、からっぽ。
 何もなければ、満たされない。だから、何かで満たさなければいけない。
 そうしなければ、人は生きていけない。
 だが、そこには何もない。ならば。だから。

 ーー奪うしかないんだ。

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 紅は目を開く。
 そこは、壊れた工廠だった。気を失っていたのはほんの数秒程度だったろう。ぱらぱらと降る埃や、ぎしぎしと鳴る設備がそれを物語っている。
 目を開けた紅の周囲に、すぐさまハナダたちが降りてくる。
「大丈夫か、コウ!?」
「生きてる!?」
「……うん。大丈夫」
 答えた紅は、自分の下で気絶している異星人を見つめる。
 砕けたバイザーの下に覗くのは、自分たちとたいして変わらないように見える、人間の顔。
「あなたたちは、餓えているんだね」
 だから奪う。奪うしか方法がない。
 彼らが欲しているものが、紅には見えていた。顔をあげる。
 ラーゼリアたちが破壊した工廠。その地下。
 そこは、当然ながらただの地面があるだけだ。だが、紅の目には、それが映っていた。
 現在の人間が開発した技術では、観測さえできないエネルギー。星の中心で生まれ、星の中からわき出す存在。
 それが、日本にあった。だから、日本人には、適合者が多かった。
 いまだ名前もないそれを、彼らは欲している。彼らは、このエネルギーを使って、コアユニットを稼動させているのだ。
「でも。エネルギーだけじゃ意味がない」
 エネルギーは、適切に運用できる何かが必要になる。
 電力だけで車は動かない。駆動させるエンジンがあり、タイヤがあり、それで初めて車は走る。
 同じことだ。このエネルギーを咀嚼し、活力に換えられる存在が必要だ。
 きっとそれは、人間の意思。
 だから、エネルギーを搭載しただけの無人機は、たいして強くない。動きはするが、意思がないからエネルギーを効率的に使えない。
 ストライカーユニットは、人間が着て、初めてその力を発揮できるんだ。
「コウ?」
 ぼーっとしている紅が心配になり、ハナダは首をかしげる。
 紅はそっと目元をぬぐい、
「大丈夫」
 そう答え、力に手を伸ばす。
 コアユニットはエネルギーを変換する装置だ。だが、本当ならば、そんなものは必要ない。
 人間には意思がある。エネルギーをかき集め、活用するには、意思さえあればそれでいい。
 強い意思があれば、当たるものは当たるし、ぶち抜くものはぶち抜ける。
 それは、当然のこと。
「終わりにするんだ、ハナダ。地球、救っちゃうんだから」
 そう言って、紅はにこりと笑った。

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《やったか……》
 総長は戦艦のエネルギーゲージを見つめる。
 今まで減りつづける一方だったそれは、急激に増加していた。ラーゼリアたちが採掘に成功したことで、大気中のエネルギー濃度が増しているのだ。
《ようやく起動できるな。私も出る。これで決めるぞ。艦の指揮はお前がとれ》
《了解しました》
 副官が頷くのを確認し、総長は席を立った。

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 戦艦の後部が開き、それが姿を現す。
 全高は9メートルほど。形状は人型だが、顔に当たる部分は十字の切れ込みがあるのみだ。
 全身は無人機と同じような機械の体つきで、右手にはマシンガンのような武器を、左手にはコンバットナイフのような形状の武器を持っている。
 とはいえ、ASUから比べれば規格外の大きさを持つ敵だけに、持っている武器の大きさも規格外だ。銃弾ひとつで、きっと人間はミンチになるだろう。
「っ……て、撤退!!」
 それまで持ちこたえていた組織のメンバーも、その機体を目にした瞬間、撤退行動に入った。
 無理をしようとか、粘ろうなどという意識を根こそぎ持っていくような、見た瞬間に敵わないと思わせるバケモノ。
 巨大なユニットは、他のユニットと同じように空を飛ぶと、銃をこちらに向ける。
「ッ!!」
 轟音。それはただの発砲だったが、巨体が誇る爆音は、それだけで体がビリビリと震える。
 射撃で、山肌の一部が消し飛んだ。その光景に、組織の少女はひやりとする。
 あれが人間に当たったらーー。
「逃げ……」
 言葉は最後まで聞こえなかった。
 再びの発砲。必死で回避機動を取るが、完全にはかわせない。
「っぅ!?」
 風圧で体が持ってかれる。バランスを崩し、そのままきりもみ落下した。森の中に落とされながらも、空を見上げる。
 ゆうゆうと舞う巨体。敵うはずがないーー。
 機体が動こうと、体を縮める。それはさながら、獲物を狙う前の肉食獣。
「あっ……」
 直後。ガアンと鐘が響いた。
 遠くから現れた、流星のような何か。それが、巨体を蹴り飛ばしたのだ。
「あ、あれ……。紅?」
 そう。それはブルーメタリックの機体を輝かせる、人型ユニットだった。