昨日ぶりの闘技場。
 アルフォンスはやはり学生服のまま、片刃の剣に手をかける。一方のセリルは体操服に着替え、左手に銀色のガントレットを、腰には大型のダガーを装着していた。
 対するルーナは、なんとメイド服のままだ。一応、手には長柄の武器ーーハルバートを持っているが、これがメイド服と奇妙にマッチする。
「そんな格好でデュアルをするつもりですか? それも、二人を相手に」
「そうですね」
 ルーナは足元にぐるりと円を描いた。
「わたくしをこの円から出してみせなさい。5手以内に」
 ほんの一歩分の円。その形に、アルフォンスはカチンときた。
「あんまり舐めない方がいいよ」
 剣を引き抜く。あそこまで舐められて、黙って帰れるほど大人じゃない。
「本気なの?」
 そう言いながら、セリルも構える。
「行くぞ!!」
 先手を切ったのはアルフォンス。剣を手に、正面から突っ込んでいく。
 激突する、その直前。
「疾風!!」
 一瞬だけ姿がブレた。気づいた時には姿が消えておりーー。
「1手」
 ガツン、と馬車が激突したような衝突音が響いた。背後に回ったアルフォンスの剣を、ルーナの槍斧ハルバートが受け止めたのだ。
「やるじゃん」
 弾けたアルフォンスは飛び跳ねながら距離を置く。身軽な少年を、当然ながらルーナは追いかけない。
「なら、これならどうだ!!」
 ぼっ、とルーナの周囲が燃え盛った。
 炎の魔法だ。円形に描かれた炎の壁は、陽炎と共に人の姿を隠してしまう。
 もちろん、これではアルフォンスからもルーナを見ることはできない。だが、壁の中にいることは間違いないのだ。ならば、
「ふっ!」
 アルフォンスは強く地面を蹴った。同時に風を操り、そのまま高くジャンプする。
 炎の壁ーーその上からならば、相手の姿を捉えられる。しかも、相手は壁のむこうにいる敵へと警戒している!
「っ!!」
 息を吐きながら突撃。疾風の斬撃、かわせるはずが……。
「狙いが甘い」
 そう、かわせるはずがない。
 その攻撃を、ルーナは読んでいた。上空からの突進を斧で引っかけ、ぐるんと一回転。
「2手」
「うわわ!?」
 投げ飛ばされたアルフォンスは炎の壁を突き破り、ごろごろと転がされた。セリルの足元まで転がって、ようやく起き上がる。
「ちっ。勘が良いね」
「当たり前でしょう、先生よ。……まあ、あなたがあそこまで簡単にやられるとは思っていなかったけど」
「やられてない!」
 ぶん、と風切る音が響く。ルーナがハルバートの一振で、炎をかき消したのだ。
「どうしましたか。もう降参で?」
「まだまだ!」
 突撃しようとするアルフォンスを、セリルが止めた。
「待ちなさい。たった今、抜けなかったでしょうが。私も協力するわ、デュアルだもの」
「……」
 少年は不満そうだが、セリルは構わずに駆け出した。その後をアルフォンスが追う。
「アルフォンス! 支援!」
「……!!」
 アルフォンスは剣を地面にかすらせる。ギギギと軌跡が直線を描く。
「岩突!!」
 揺れる地面。まるでイルカが水面から飛び出るかのごとく、岩塊がセリルの足元からせりあがる。
 岩によって射出されたセリルは、勢いそのままルーナに突っ込む。
「勢ッ!!」
 ガントレットをつけた左ストレート。スピードも乗ったその一撃に対し、ルーナは半身をそらした。
「ッ!?」
「3手」
 通過するセリルの左腕をつかみ、そのまま向きを変える。
 直下へ変わったベクトルは、セリルの体を地面に叩きつけた。
 同時。ルーナはハルバートを一回転、石突きで突っ込んできたアルフォンスを弾き飛ばす。
 だが、アルフォンスも弾かれることは想定していた。左手一本で受け身を取って反転、剣で地面を切り取る。
「これならどうだ!!」
 削れたブロックを持ち上げ、蹴り出す。質量の大きな岩塊だ、受けるもかわすも容易ではない。
 ルーナはハルバートを思いきり振りかぶり、
「インパクト」
 全力で振り抜く。フルスイングされた先端の斧は岩塊にぶち当たり、粉々に粉砕した。
「……」
 そんな、砕けた岩の陰。そこに、アルフォンスが潜んでいた。
 殺した気配。そのまま、相手の顔面目掛け剣を突き出す。
 その一撃を、ルーナは2本の指で挟み止めた。
「6手目。ルール違反ですよ、アルフォンス・スター」
「……わかってますよ」
 寸前で剣を引いたアルフォンスは、そのまま鞘に収めた。
「確かに、強いっすね。先生」
「当然です」
 そう、強い。
 あれほどフィールドを高速で動き回れるアルフォンスに対し、ルーナは最初の位置から動いてもいない・・・・・・・
 手数を制限したのは、おそらく気持ちを逸らせるため。慌ててしまえば攻撃は単調になりがちで、守る側が有利になる。
 動かないという制限もこちらの心を操り、動きを制限しようというものだろう。冷静かつ冷徹な戦闘のプロだ。
 だが、それだけでアルフォンスの攻撃を全てかわすというのはおよそ現実的ではない。スピードだけでも並ではないのだ。読んでいたところでかわせない程度には自信がある。
 なのに、彼女は回避した。
「ふうん。やっぱ、人里に出てくると面白いね」
 アルフォンスはそんなことを呟き、ぐっ、と背伸びした。