「ふう」
 セリルはベッドの上に寝転び、息を吐いた。制服がシワになってしまうが、気にならなかった。
 学生寮は2人で1部屋。だが、相方が先日卒業してしまったので、今はこの部屋に1人きりだ。
 ベッドが2つに、机が2つ。書棚が1つ。それしかない部屋だった。
 コチコチと時を刻む音が響く中、セリルは天井を見つめていた。
「……すごい」
 剣も魔法も、彼はすごい。
 展開が早く、しかも色々な魔法を使い分ける。ひとつひとつはそれほど強力なものではない。だが思いきって詠唱を破棄し、高速の剣技と合わせることで、威力の低さを補っている。
 すばらしい技術で、学生で彼に並ぶほどのオールラウンダーはいないだろう。
 だが、惜しい点もある。
「デュアルの戦い方じゃないのよねぇ」
 二人一組の名前が指し示す通り、デュアルとはコンビの技術を組み合わせるものだ。
 前衛が相手を防ぎながら後衛が強力な魔法で決めるタンクキャノン。
 支援魔法の使い手が味方をガンガン強化するフォースアサルト。
 素早い二人がかりで一人の相手に速攻を仕掛けるダブルストーム。
 様々な戦略はあるものの、いずれもコンビネーションが物を言う。お互いがお互いの欠点を補うことで有利を作るものだ。
 だが、彼はオールラウンダーであるがゆえに、大きな欠点らしいものを持たない。また、自信からか、協調性にも若干欠けている様子がある。
 教えた人間がそういう気質だったのかもしれない。デュアルが生まれた当初ならいざ知らず、現代のデュアルで勝ち抜いていくつもりなら、それでは甘いのだ。
 彼の欠点はーー相方が補わなければ。
「私、か」
 他に選択肢はない。
 今の部活に他のメンバーはおらず、彼と組まなければ大会にさえ出られない。
 彼も、ソロで戦うぶんにはかなり良い線まで行くだろう。だが、デュアルでは緒戦敗退もありうる。
 そうさせないためには……。
「やらなきゃ」
 ぐっ、と拳を握りながら、セリルは一人で呟いた。

★ ★
 ☆ ☆ 
★ ★


「……」
 学校の裏側は坂状の草原になっている。その少し先は林だ。夕日に染まる草は、さながら燃え盛る野原のようだった。
 アルフォンスはそんな草っぱらに寝転がりながら、自分の剣を眺めていた。
 刃こぼれひとつない美しい剣。無茶な扱いをしてもついてきてくれるそれは、アルフォンスが師匠から貰った唯一の武器だ。
「アルフォンス君」
 そうしていると、影が差した。視線を上に向けると、メイドが立っていた。
「なんすか、先生」
「あなたに聞いてみたいことが」
「……?」
 アルフォンスの隣に座ったルーナは、
「単刀直入に。あなたの師匠は誰ですか?」
「それは学院に来る前の?」
「もちろん。あなたの身のこなし、魔法の発動、それにその特徴的な剣。いずれも覚えがあります」
「ふうん。じゃあ答えなくてもよくないっすか?」
「あなたの口から聞きたいのです」
「そうっすか」
 起き上がったアルフォンスは、ルーナの質問に答える。
「セトっすよ。セト・シアン」
「やはりそうですか」
「先生、あのジイサンと知り合いなんすか?」
「ええ、まあ」
「……いくつっすか、先生」
「女性に年齢を問うものではありません」
 ぴしゃりと答えたルーナは、そうですか、と呟く。
「あの人が弟子を取るとは意外です。自分の娘や孫にさえ戦いは教えなかった人だというに」
「偶然、かもしれませんけどね。おれは孤児だから」
「なるほど。彼とはどこで修行を?」
「ショナイ山」
「ほう。あの山は魔物も出ますが」
「魔物にやられるくらいじゃ、デュアルなんかできないでしょ」
「くすっ。その通りです」
 元来、デュアルとは”魔物と戦うための訓練”だった。
 真剣を使って戦いの訓練をしなければ魔物相手に戦うことなどできないが、真剣を使って訓練をすれば万が一もある。
 そこで、怪我をせずに真剣を扱う方法として、防護魔方陣という考えが提案された。画期的なそれは軍の訓練方法に採用され、それが発展して今のスポーツデュアルへと進化している。
「いいでしょう。あなたは特別に鍛えてあげます。国内には、あなたが戦うべき相手がいますから」
「誰っすか」
「ユーバ・ガリアス。【勇者の再来】と呼ばれる男です」
「……。なるほどね」
 一瞬だが、ルーナは見逃さなかった。
 クールな少年の瞳に写った、熱い炎の色。
「よい気概です。ユーバを倒せれば、世界最強を名乗ってよいでしょう」
「当然、倒すっすよ」
「そうこなくては」
 すっくと立ち上がったメイドは、アルフォンスを見下ろす。
「アルフォンス君。かつて、勇者は仲間たちと共に魔王を討ちました。あれから50年。多くの人々は平和に慣れてしまい、戦いというものを忘れつつあります。あなたはそんな日常に旋風を巻き起こしなさい。みなの心に闘争心をたぎらせるような、熱い戦いを見せるのです」
「ふうん」
 同じく立ち上がったアルフォンスは、剣を掲げる。
 夕日に照らされた刀身がきらりと赤く輝いた。
「悪くないっすね」?