祝日の朝。
 学院の闘技場にて、アルフォンスとセリルは向かい合って装備の具合を確認していた。
「どう? きつくない?」
「まあまあだね」
 デュアルに決まった服装があるわけではないが、激しい接触は常のスポーツだ。
 もちろん防護魔方陣があるので致命的なダメージは防げるが、それでも生傷はできる。ましてや練習中は常に防護魔方陣をまとうわけにもいかないので、どうしたって怪我をしがちだ。
 そのため、特に練習は練習用のウェアを着ることになる。上半身、特に首をガチガチに固め、肘当てや膝当てがついた特別な服を着る。
 今日はアルフォンスもセリルも同じ格好だ。さらに武器として、アルフォンスはいつもの剣を、セリルはガントレットを装備している。
「さて。今日はフォーメーションの話をしなきゃなんだけど」
「どっちがどう動くかって話?」
「そう。私は君が来るまで、先輩と組んでいたんだけどね」
「あのおっさんと?」
「誰がドルゴーなんかと組むか。卒業した人よ。ちなみに女性」
 ぺっぺっ、と手で払う真似をするセリル。アルフォンスも気持ちはわかる。
「で、その先輩はちょっと特殊だけど、魔砲キャノンタイプだったのよね。で、私が前衛フロント
「ふうん?」
「私は他人より魔力量が多いのね。だから魔方陣をめっちゃ強く展開して、とにかく接近戦で相手の動きを押さえるの。でもって、先輩が私ごと相手を撃ち抜いてリードを取るって作戦」
「……けっこー無茶じゃん、それ」
「でも、まあまあ強かったのよ。私が相手に密着しているもんだから、相手の後衛は動けないしね」
 でも、とセリルは続ける。
「君は万能だけど、完全な前衛職。私との相性は正直、あまり良くないわ」
 もちろん、前衛と前衛の組み合わせもないわけではない。二人で突っ込んで相手を挟み撃ちにし、そのまま撃破するスタイルも存在する。
 だが、セリルとアルフォンスではスピードに差がある。風や重力操作で加速できるアルフォンスと違い、セリルは風系魔法も地系魔法もそれほど得意ではない。
 つまるところ、二人で突撃しても、セリルは置いていかれるのだ。かといって、セリルに合わせてアルフォンスまでゆっくり攻め込んでも意味がない。
「本当は私が相手を押さえている間に、君に強い魔法を使って欲しいところなんだけど……。君、実は強力な攻撃魔法って使えないでしょ」
 セリルが言うとカチンときたらしく、
「使えないわけじゃないよ」
「1発だけ?」
「……」
「図星みたいね。でも、普通のことよ、それ」
 強力な魔法は、当然それだけ多くの魔力と長めの詠唱を要求される。
 アルフォンスのスタイルは、出足の早い魔法を状況によって使い分けながら、剣でフィニッシュを決めるもの。魔法で決めるタイプとは相反する。
「……正直、魔力量はそれほど多くないよ、おれ。平均くらいだって聞いてる」
「上等ね。それであれだけ多種類の魔法が使えるなら十分だわ」
「でも、種類を増やすとそれだけ消費も多いんだよ。だから防護魔方陣は最低限しか使えない」
「私とは真逆ってわけね」
 ふむ、とセリルは頷く。
「そうなると、君に相手を止めて貰いながら、私は強力な魔法を用意するってのが筋なんだけど……。私も魔力量はあるんだけど、コントロールがそれほど上手じゃないのよね。だから強めの魔法を使うと失敗することもある」
「じゃあダメじゃん」
「ダメじゃないわ」
 にやりと笑ったセリルは、ちょっと待ってて、と闘技場の端まで歩いていく。
 よくよく見れば、そこに不自然なほど大きな包みが置いてあった。セリルはその包みを担ぐと、中央まで運んでくる。
 ずしん、と地面に置くと、包みを開いた。
「これを使おうと思うの」
 それは金属で作られた大きな筒に見えた。手前と後端に掴めるような取っ手がついている。
「なにそれ」
「先輩が特殊な・・・魔砲キャノンって言ったでしょ。これは先輩が作った武器なの。その名も『ガトリング』」
「ガトリング?」
「魔力を固めて打ち出す武器よ。一発の威力は弱めのストレートパンチくらいなものだけど、連射速度はピカイチ。見てて」
 よいしょ、と抱えたセリルは、トリガーを引く。

 ガガガガガガ!!!

「っ!!」
 轟音が響き、魔力弾が発射される。弾丸は少し先の地面に当たり、えぐり取られた。
「……なるほどね」
 確かに、弾丸一発の威力はたいしたこともない。防護魔方陣を削るには心もとない威力だろう。
 だが、連続する攻撃だ。正面から撃ち込まれれば耐えきれない。
 デュアルは武器も魔力を用いたものなら持ち込み自由。極端な話、勝てればいい。
「これは先輩が発明した”銃”って武器のひとつなの。持ち主の魔力を吸って打ち出す。これを作ったから、先輩は卒業してすぐ軍に入隊して、今も研究してるらしいわ」
「大発明じゃん」
「そうでもないけどね。とにかく魔力を消費するから、拠点で交代しながら使える時はともかく、遠征の時には使えないから」
「ああ、なるほど……」
「でも、試合の時は別。時間の限られた試合なら魔力を思いきり使えるもの。大会ともなると一日で2試合くらい戦うから、魔力が持たないんだけど」
「けど、1試合だけなら完璧に使える」
「そういうこと」
 セリルは頷き、
「私は先輩からこれの使い方を教わってるし、先輩も今は研究で忙しいから、これをくれたの。これなら、君が突っ込んで相手の動きを止めてくれれば、一気に削り取れるわ」
「なるほどね」
「ただ、これって結構重いの。あんまり機敏に方向転換したりはできないから、それは注意して。それに逃げたりもあんまりできない」
「つまり……。おれがあんたを守ればいい、ってことでしょ?」
「そういうこと。理解が早くて助かるわ」
 ぱちりとウインクしたセリルは、
「あなたが前衛フロント。私が後衛バック。今日は動きの練習よ」
「任せて」
「ああ、それと……」
「……?」
 少し頬を赤くしたセリルは、
「アルフォンスって長いし、アルスって呼ぶわ。いいわね?」
 ちょっとした勇気が必要だったらしい言葉。アルフォンスはーーアルスはきょとんとした後、
「ああ。よろしくな、セリル」
「ふふっ。こちらこそ」