デュアルの大会は大きく分けて2つある。
 1つは野良大会。デュアルそのものは人気のあるスポーツであるため、大会も定期的に開催される。たいがい1日限り、参加者は地域の人間が多く、大会そのもののレベルはさほど高くはない。
 そして、もう1つは全国学生デュアル大会だ。四人の領主ロードが治める地域から、それぞれ2組の代表が選出され、優勝を目指して競い合う。
 デュアルでいう『大会』といえばこの全国大会のことで、ここでの優勝者はそれだけで将来をも左右する。
 そんな大会の会場に、アルスとセリルの姿があった。二人とも試合まではまだ間があるものの、戦闘用の衣装を着装している。
 アルスの装備はいつもの剣に、麻の服。肘と膝には鉄のガードを仕込んでいるが、比較的軽装の類だ。黒めの色合いはさながら暗殺者アサシンである。
 一方でセリルの服装は、制服にも似たブラウスとスカート。一応、スカートの下は見えてもいいような下履きがあるそうだ。アルスが『ひらひらしすぎじゃない?』と聞いたら『女子はオシャレも大事なの』と怒られた。
 ちなみに顧問のルーナは来ていない。『所用がある』とは彼女の弁。大会に顧問が来なくて意味あるのかとか思うが、メイドに来られてバカ目立ちするよりはマシかもしれない。
「……それにしても、人が多いね」
「まあ、こんなもんじゃない? 地区予選とはいえ、この中から誰かが優勝するかもしれないんだし」
 会場を歩く二人は、パートナー同士というより、姉と弟に見える。それだけ微笑ましい姿だ。
「アルス、あなたは大会って初めてよね?」
「んー、まあ、そうなるのかな」
「じゃあ、まずは雰囲気をつかんでおきなさいね」
 会場となるのは国立公園だ。公園の脇にデュアルにも使える広場がある。今回の大会では、この広場を4つに区切って試合を行う。
「今日の試合は地区予選。赤・青・緑・白のグループにわかれての総当たり戦よ。各グループで成績1位のペアが地区トーナメントに進出するわ」
「で、地区トーナメントで勝てば全国トーナメントに行ける、と」
「そういうこと。この地区予選リーグは1敗してもただちに負けるわけじゃないけど、やっぱり全国トーナメントまで行くようなペアは、予選リーグでも無敗なとこが多いわね」
「要するに、こんなところで負けているようじゃ話にならない、ってわけだ」
 周囲を見渡す。
 各校の参加者たちが入り乱れ、それらを観戦する人々が行き交い、熱気がすごい。ちらちらと見える参加者は、誰も彼も一癖ありそうな人物ばかりだ。
 と、方々で歓声があがった。
「試合が決まったみたいね」
「ふうん」
 こうして見ると、なるほど、デュアルに参加する選手といえど、色々な人間がいるのだとわかる。
 ほとんどヒューマンではあるが、中にはエルフや獣人の姿もある。エルフは魔法に長けるし、獣人やドワーフはヒューマンより身体能力で優れる。そういう相手はえてして勝ち抜いている様子だ。
「もともとデュアルは2人1組。ヒューマンの強みは人数が多いことだからね」
「なるほどね」
「あなた、他の種族は知らないの?」
「あんまり関わっていないな。興味もないし」
「そういうものかしらね。じゃあ、うちのリーグにいる相手くらいは覚えておきなさい」
 セリルの視線を追いかける。
 そこにいたのは、男女の二人組だ。ナックルガードを装備した、明らかに前衛タイプの男。大きな杖にローブという、これまた古典的なほど魔法タイプの女性。
「男の方はアバリ・イリキ。女の方はホリエ・キューコ。教科書通りの前衛後衛だけど、そのぶん隙がなくて強いわ。全国トーナメントを経験したこともある、代表候補」
「ふうん」
 向こうもこちらに気づいたらしい。つかつかと歩み寄ってきた男は、間近で見るとかなり大きい。
「なんだ? そっちの選手は一年生かよ。数合わせかぁ?」
 男はのんきに笑っている。後ろで女もくすくすと笑っていた。
 アルスは男を見上げ、
「あんまり人を舐めない方がいいよ」
「あ?」
「試合で間違って怪我しても困るでしょ。ただでさえ良くない顔が悪化するよ」
「……テメエ」
 ギリ、と怒りをこらえた男は、
「もうすぐ試合だ。後悔するなよ」
「そっちこそ」
 そう言って、アルスもまた、壮絶な笑みを浮かべた。

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 闘技場に入ったアルスは、ふう、と息を吐いた。
「……ようやく」
 ここまで来た。
 デュアルの大会。パートナーと共に戦う、正真正銘、本物の大会。
 戦闘経験はある。訓練だって積んでいる。だけど、パートナーと組んで、対人相手にやり取りをするのは、実は彼にとって初めての経験だ。
 今までずっと一人だった。まともな試合はほとんどしたことがない。ずっと、ずっと目標にしていたのだ。
 もちろんこれは通過点に過ぎない。だが、ここを通らなければ、辿り着けない。
「いつかはあいつを倒す……。それまで、負けてる場合じゃないんだよね」
 ぐっ、と剣を握り直す。片刃の特別な剣は、すんなりと馴染んでいる。
 正面から対戦相手が入ってきた。分かりやすいほどの前衛後衛ペア。
「アルフォンス・セリルペア! 対! アバリ・ホリエペア! レディ!!」
 審判の声が高らかに響く。見上げる空は青い。
 どこからか、嫌いな・・・ジジイの声が聞こえる。
『さあ、連中のド肝を抜いてやれ』
「るせえ、クソジジイ」
 右足を前に。親指に力を。
「ファイッ!!!」
 審判が号令を入れると同時、アルスは飛び出した。
 風と共に走る感覚。相手前衛さえも追い越し、一気に後衛に迫る。
「ふぇっ!?」
 突如として姿が消えたアルスが、目の前に。後衛の彼女からすれば信じられない光景だろう。
「失礼」
 剣を返し、一撃。みぞおちに打ち込んだ一撃は、的確に相手の防護魔方陣だけを削り取る。
 そのまま、くん、とえぐる。
「砕」
 ぱん、と魔方陣が弾けた。これで一人。
「えっ、え?」
 まだ敗北したことにさえ気づいていない女は捨て置き、アルスは前衛の男に迫る。
「ヤロウ!!」
 振り上げられた半月刀シミター。それが振り下ろされるより早く、
「遅いよ」
 アルスの剣が男の顎を打ち上げていた。いくら防護の結界があっても、あらゆる衝撃を受けきれるわけではない。
 顎を抜かれ、頭を揺さぶられると、人間は立っていることさえできない。
「あ……」
 一瞬にして意識を刈られた男。アルスは剣を逆手に握り、結界を貫く。
 ぱりん、と結界が割れた瞬間、審判のコールが走った。
「い、一本!! 勝者、アルフォンス・セリルペア!!」
 ふわりと風が吹き抜け、前髪を揺らす。
「これで全国区? たいしたことないね」
「あんたが早すぎるのよ」
 あきれ半分、苦笑するセリルが片手をあげる。
 その片手をパシンと叩いた。
「……ふん」
 デュアルの試合といえど、この程度。これでは鍛練にもならない。
 けれども、初めての学生大会で、初めての勝利だ。わかりきっていた結果ではあるけれどーー。
 なんとなく、胸のすく思いだった。