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その後、アルスとセリルは順調にグループリーグを勝ち抜いた。 結果は全戦全勝。もっとも、初戦のアバリ・ホリエペア以上の相手がいなかったのだから、アルスがいる限り負けることなどありえない。 グループリーグでそれぞれ1位が決定すると、今度はリーグ1位同士によるトーナメントが始まる。闘技場の脇にある掲示板には、トーナメントの組み合わせ表がすでに張り出されていた。 二人は並び、トーナメント表を眺めている。他の観客たちは、どうやら闘技場の席取りに行っているようで、あまり人通りが多くなかった。 「最初の相手はバンビ・ショーネペアか。まあまあの相手ね。グループリーグよりは強いかもしれないけど、アルスの相手じゃないわ」 「ふうん」 トーナメント表を見たところで、アルスは誰も知らない。 セリルは反対側のブロックに指を運び、 「……決勝戦の対戦相手は間違いなくこいつらになるでしょうね。ったく、今回は真面目に出てきちゃったか」 そこには【ユーバ・ガリアス】と【オリーヴ・キュリー】の名前がある。 「ユーバとオリーヴ。”史上最強のプレイヤー”よ」 「おれより?」 「強いと思うわ」 かもしれない、とさえ言わなかった。アルスの強さを間近で見ているセリルをして、断定するほど。 「ユーバはね、勇者の孫よ」 「……ふうん」 50年前。魔物たちを統率していた邪悪なる王を、たった一人の青年が打ち倒した。 その男は国に戻った後に結婚し、一人の娘をもうけた。彼は、そんな勇者の血を引く男なのだという。 「勇者の孫とはいっても、性格はどっちかというと魔王寄り。邪悪そのものよ。鍛練だって真面目にやらないし、なんだったら試合をサボることさえあるわ。素行は最悪、学生ではあるけど、学校が彼を退学にできないってだけ。彼にとって、自分以外の全ては格下なのよ」 「どのくらい強いの」 「負けたことないわ。誰にも、一度も」 「一度も?」 セリルはうなずき、 「強いとか弱いとか、そういう次元じゃないわ。勇者の血は本物ね。圧倒的な敏捷性、こちらの攻撃を見てから反応できてしまう反射神経。なにより、勇者にしか使えないという雷の魔法を使えてしまう。スピードも、一撃の威力も、誰にも負けない」 「おれよりも早い?」 「風より早いわ。雷速だもの」 「なるほどね」 「正直、この大会では負けても仕方ない相手だと思うわ。でも、全国に行けば絶対にぶち当たる壁だし、どこかで対策を考えないと」 「負けても仕方ない相手?」 くすりとアルスは笑う。 「デュアルに負けても仕方ない戦いなんてないよ。どんな戦いでも絶対に勝つ。勝利以外に価値なんてない」 「……へえ」 セリルはにやりと笑った。 「言ったわね。ユーバを相手に勝つって? それがどれほどのことなのか、知りもしないくせに」 「どれほどの相手かは知らないけど、どんな相手にも負けちゃいけない。負ける前提で戦うのは戦いって言わない」 「はん。いいこと言うじゃねぇかガキ」 ぞくり、と背筋が震えた。 振り替えると同時、半身をそらす。一瞬の後、頭があった場所を拳が通り抜けていた。 わずかでも遅ければ、頭を割られていた。そう思えるほど、殺意の乗った拳だった。 「よう、俺様がユーバだ」 身長は180セチほどだろうか。背の低いアルスと比べると頭ひとつ以上も大きい。ガッチリとした、それでいて引き締まった体躯。タンクトップにズボンというシンプルな服装だが、二の腕の筋肉そのものがひとつのアクセサリーにも見える。 だが、それらの印象を全て霞ませてしまうのは、その笑顔だった。 「……」 一言で表すなら、なるほど、”邪悪”だ。 ただの笑顔なのに、悪意や殺意や、負の印象を与えるあらゆるものを練り込んだような表情。 見ただけでわかる。この男は、存在してはいけない。 「お前が最年少でグループリーグを片付けたやつだって? 面白ぇじゃん。ここんとこ、デュアルもつまんなくてな。殺し甲斐のあるやつがとんといねえんだ。けど、お前なら十分だ」 「そう簡単にいくといいね」 「あぁん?」 「おれは誰にも負けないよ。もちろん、あんたにも」 「……なるほどな。俺様を前にして、そんな口をきけるんなら大したタマだよ。そういうガキは嫌いじゃねえ」 ユーバはきびすを返すと、そのまま歩き去っていく。彼が立ち去って、ようやく周囲の空気が凍りついていたことに気づいた。 「あれがユーバか」 「あんた、あいつに喧嘩売るって……。バカか頭おかしいか、どっちかよね」 ふとセリルのことを見上げると、顔中に冷や汗をかいていた。 「完璧に目をつけられたわよ。決勝戦、覚悟しておきなさいね。あいつは、防護なんて関係なく殺しに来るわ」 「あいつを倒しちゃえば、死なないで済むんじゃない」 「それができる相手なら苦労しないっての」 「苦労なんか関係ないんだってば」 そう、勇者の孫だかなんだか知らないが。 誰かに勝てないなんて言う奴は、あいつに勝てるはずもないのだ。 最強を目指すこと。そこまでやって、ようやく手が届くほどの高み。 それが、アルスが目指す場所なのだから。 |