闘技場のフィールド。
 アルスとセリルは準備を整え、相手ペアが来るのを待ち構えていた。
「……まずはおれが様子見するよ」
「一発でかち割られなきゃね」
「させない」
 周囲にはすでに観客が集まっている。奇跡の一戦を見学しようと、皆が集まっているのだ。
 かたやは大会無敗の一年生、アルフォンス・スター。
 対するはーー邪悪なる勇者。
『来たぞ! ユーバだ!』
 観客の誰かが叫ぶ。
 正面、結界の入り口から入ってきたのは、殺意に満ちた大男。
「よう、ガキ」
 邪悪なる勇者イービル・スターユーバ・ガリアス。
 地区トーナメントを勝ち抜いたアルス達に待っていたのは、高すぎる壁だ。
 ユーバのパートナーは、どうもエルフの女性らしい。細身で、なんと学校の制服そのままでフィールドに入ってきた。表情が薄く、氷のような印象を与える。
「こいつは俺様のパートナーだが、戦うのは俺様だ。手ぇ出すなよ」
 そう言って、ユーバはニヤリと笑う。
 アルスは剣を引き抜き、
「構わないよ。あんたを倒せばおれ達の勝ちってことでしょ?」
「正解だ」
 そう言って、ユーバは指をパキリと鳴らした。
「……? あんた、武器は?」
「ああ、俺様に武器はねえよ」
「武器が、ない?」
「そうさ。どんな武器も俺様の力についてこれねえ。使ったところで一撃しかもたねえ。そんな武器を使うくらいなら、拳で戦った方がマシってことよ」
「事実よ。あいつは、今まで武器を使ったことはない」
 ぼそりとセリルが耳元でささやく。
 そう、ユーバは今だかつて、武器もなしに・・・・・・無敗を保っているのだ。
 それが、どれほど異常なことであるか。
「いいじゃん」
 ぞくりと背筋が震える。それは、殺意に対する反射ではない。武者震いだ。
 と、ユーバはアルスの剣に目をとめた。
「ガキ。その剣、どこで手に入れた?」
「おれに戦いを教えたジジイから貰った」
「……ふうん。なるほどな。あいつの教え子ってわけか」
 ゴキリと首を鳴らしたユーバは、軽く構えた。
「面白ぇ。今までで一番かもしれねえ。あいつの弟子ってわけだ。道理で、バンビなんかじゃ相手になんねえわけだ」
「そっちこそ。勇者の孫、ね。相手に取って不足はない」
「はッ! 舐めてくれるじゃねぇかオイ!!」
 お互いの殺意が最大まで膨れ上がった瞬間、戦いのゴングが鳴り響いた。
「ファイッ!!」
「疾風!!」
 開幕と同時、アルスはユーバ目掛けて突っ込んだ。
 地面をえぐるほどの突撃。それはユーバも予想だにしないスピードではあったが、
「そんなもんか?」
 アルスの突きを、ユーバは軽く体をひねってかわした。そのままアルスの腕をつかみ、地面に叩きつける。
「ッ!?」
 確かに、間違いなく、先手はアルスが取った。先に動いたのはアルスだ。
 なのにユーバはアルスの攻撃をかわし、あまつさえ反撃してきた。
「まだまだァ!!」
 重力を操作して飛び上がったアルスは、空中で反転。めちゃくちゃな軌道でフェイントを織り混ぜつつ、ユーバに肉薄する。
「ふっ!!」
 アルスの斬撃。それは死角から迫る必殺の一撃。
 だのに、
「何かしたか?」
 ユーバはこの攻撃も回避すると、アルスを殴り返した。二転三転したアルスは、そのまま後衛のセリルが構える位置まで吹き飛ばされる。
「……なるほどね。これが雷速の敏捷性か」
 暴風のごとき速度でも、瞬間の速度はせいぜい20〜30メート程度。
 対してユーバは、同じ単位時間で340メートという速度を叩き出す。10倍どころの話ではない。
 もちろん、フィールドの広さには限度がある。ユーバのスピード、その全開を出せるほど広くはない。
 そう、これでも手加減しているのだ。それでなお、アルスのスピードは軽く凌駕する。
「これが勇者ってやつか……!!」
 【奇跡の御子】【魔の悪夢】【雷の化身】。数多ある二つ名は、いずれも勇者を称えるもの。
 ユーバは、そんな人の形をした奇跡の生き写し。誰も彼に勝つことなどできない。否、勝とうと思うことさえおこがましい。
 それがユーバ・ガリアスという男。
「やってくれるじゃん」
「一人じゃ無理ってわかった?」
「わかったけどさ。セリルの武器、当たるわけ? あいつに?」
「下手な魔法弾でも! 数打ちゃ当たるでしょ!!」
 マシンガン、その銃口はユーバに!
点火ファイア!!」

 ガガガガガ!!

 轟音と共に魔力弾が打ち出される。正面からのそれを、
「はん」
 なんと、ユーバは手で弾いた。とてつもない敏捷性と反射神経で、魔力弾をひとつ残らず弾き落としていく。
 まさにユーバ以外には不可能な、圧倒的な回避方法。だが、その代償として、ユーバは身動きが取れなくなる。
「ッ!!」
 今しかない。
 アルスは剣を手に飛び出す。大きく回り、サイドからユーバへ肉薄する。
「烈火!!」
 燃え盛る炎を剣身に這わせ、そのままユーバに斬りつける。いかにユーバといえど、弾丸を弾きながら剣を受けられるはずがないーー。
 そう、思った。それが、甘かった。
 驚くべき速度でアルスの剣、その根本をつかむユーバ。そのままアルスをセリルに向かってぶん投げる。
「ッ!?」
 アルスの姿を見て、セリルは咄嗟に銃口を上へ向けた。弾丸がそれて保護結界にぶち当たる。
「きゃっ!?」
「くっ!!」
 セリルに激突したアルスは、二人でもんどり打って壁に激突した。