|
普段は封印階で過ごし、魔力を鍛える。日々地上までの階段(実はこれもかなり長く、10階分はゆうにある)を昇り降りする。 軍に通ってはシン・ガルドから剣術を習い、キャロ・メカクスから遅延魔法やアイテムに魔力を込める理論を習う。 強くなれているのだろうか。そんな疑問が頭をよぎることもある。だが、今はやるしかないのだ。 しかし、それだけのトレーニングを積んでも、最終的には”賢者の魔法”が見つけられない限り、ユーバに届くわけではないだろう。 その事実が、日々をトレーニングで過ごしていても頭から離れない。 「……」 今日も今日とて剣術の指南を受け、セリルと共に歩く帰り道。 夕日に照らされ、町が燃えている。 「ねえ、アルス」 「ん?」 「アルスはさ、なんでデュアルをしているの?」 セリルはふと、そんなことを聞いてきた。アルスはセリルを見上げ、首をかしげる。 「なんでって?」 「理由よ。なんでそこまでして、ユーバに勝ちたいわけ?」 「デュアルは勝つことが理由だよ。負けて意義なんかるわけないじゃん」 「それはそうだけどね。でも、普通の人ならユーバに勝てるかも、なんて思わない。あいつはそういう存在だよ」 彼と同世代になったこと、それこそが不運と言えるほど異次元の存在。 そんな彼に挑もうと思うデュアルプレイヤーなど、いまだかつて一人もいなかった。セリルとて、そんなことは考えたこともない。 だが、アルスは事実を知ってなお、ユーバに挑もうとしている。 「……そうだなぁ。おれ、爺さんに育てられたんだ」 「セト?」 「そう。ま、勇者うんぬんなんてのは知らなかったんだけどさ」 「ご両親は?」 「いないよ。爺さんが言っていたけど、おれが小さい頃に死んじまったんだって。孤児だったおれを拾ったのが爺さんらしい」 「……そうなの」 「別に、悲しい話ってわけじゃないよ。今は知らないけど、50年前は孤児なんてたくさんいたって、爺さんも言ってた」 それはそうだ。 魔王時代。今よりも魔物がずっと強かった時代。亡くなる人間は、今よりもずっと多かった。 天寿を全うできる人間など、いくらもいなかった時代だ。孤児など、それこそいくらでもいた。 「だからまあ、孤児ってのは別にいいんだけどさ。ショナイ山で過ごして、たまに魔物を狩ったりしてさ。おれにとってはそれが日常だったんだけど、娯楽なんてなくて。爺と剣でやりあうのだけが娯楽らしいもんだったんだよ」 「あのセトと?」 「そ。でも、どうしても爺さんには勝てなかったんだ」 それはそうだ。 老いたりとはいえ、魔王を討伐せしめた伝説の勇者。入学前の子供が勝てるような相手ではない。 「ムカついてさ。爺さんに、どうしたらあんたに勝てるって聞いたんだよ。そしたら、デュアルをすればいいって」 「それでデュアルを?」 「ああ。デュアルってのは、もともと爺さんが考えたらしいんだ。魔物と戦う訓練にちょうどいいって。それで強くなれたら、本当の戦いでも強くなれるって言われてさ。で、オニクスなら面白いデュアリストもいるから、そこに行けばって紹介状を貰ったんだよ」 勇者セト・シアンの紹介状ともなれば、学校の試験など受けるまでもなかっただろう。 「それでデュアルをしているの……」 「ユーバはちょうどいい相手なんだよ。勇者の再来。おれが勝ちたい相手そのものだ」 「確かにね」 現役当時の勇者と遜色ない力を持つユーバ・ガリアス。 彼に勝てるようなら、間違いなく現役最強を名乗ることができる。 「……強いね、アルスは」 「もちろんつえーよ。当然だろ?」 生意気な笑顔を見せるアルス。その横顔に、セリルもつられて微笑む。 「そういえば、セトと知り合いなら、伝説の賢者は知らないの?」 あのセト・シアンと共に戦場を駆け抜け、魔王討伐に一役買ったと言われる伝説の賢者。 魔王消滅後は姿を消したとされ、彼女の行方は知られていない。 「爺さんは一人だったし、おれも他に爺さんの知り合いなんて会ったことないしなぁ……。賢者の魔法なんて言われても、なんのことやら」 「じゃあ、勇者の魔法とか」 「雷魔法は生まれながらの才能なんだ。四色魔法は四大精霊に呼びかけて使うものだけど、雷魔法は神様に呼びかけて使うって言われてる。誰でも使えるものじゃないんだ」 「ふうん。ユーバは神様と対話ができるんだ」 「そういうことだな。まあ、あいつが話せる神様なんて邪神そのものじゃねーかって気はするけど」 「ふふっ。そうね」 そう、雷の魔法は彼にしか扱うことはできない。 一子相伝というわけではないが、勇者の血族だけが扱うことができる魔法だ。圧倒的な速度とパワーを備えるあの魔法を越えねばならないとしたら、確かに四色魔法では分が悪い。 「速度も破壊力も桁違いだもんなぁ」 「さすが光の御子よね」 「……? 光と雷は違うぞ」 「そうなの? でもあいつ、光の御子って二つ名もあるわよ」 「それは勇者だからだろ。雷は電気ってエネルギーを扱うんだ。雷雲と太陽は別だろ?」 「言われてみればそうね。なんとなく近いイメージがあったけど……」 「まあ、雷も光るから、イメージが近いのは仕方な……」 ふと。アルスは足を止めた。 「光、か」 「え?」 「それが、共通できる……か?」 ぶつぶつと呟いたアルスは、急に駆け出した。 「ちょ、アルス!? どこに行くの!?」 「学校! 闘技場!!」 「と、闘技場!? 何か思いついたの!?」 走るアルスは、ちらりと後ろを見返す。 「賢者の魔法!! わかったかもしんねぇ!!」 「……えっ!?」 「とにかく試したいんだ!! 急ぐぞ、セリル!!」 「ちょっと待ってー!!」 ★ ★ ☆ ☆ ★ ★ 学校の闘技場まで走り抜けた二人。セリルは息も絶え絶えだが、さすがに特訓の成果なのか、アルスはまだ余裕があるようだった。 闘技場のフィールドに入ったアルスは、自身を中心に魔法を展開する。 「まずは炎。……熱の力」 ぼっ、と炎が燃え上がる。 「続いて水。定まった形を持たない波の力」 生まれた水球は、ふわふわと浮かびながらもさざめいている。 「さらに風。目には見えない、力を伝える力」 風が巻き、埃がくるくると浮かび上がった。 「そして地。小さな粒を操る力」 砂が浮かび、ぎゅっと固まって小さな石になる。 「それぞれを抽象化して……。共通する点を導く」 「共通する点?」 熱と不定形、力を伝える小さな粒。 「その四つに共通するものなんてあるの?」 「あるんだ。四つの性質を持つ、魔法の根元。そうだ、爺さんに聞いたことあったんだ……。なんで忘れていたんだ……」 ぶつぶつと呟くアルスの周囲を四つの魔法がくるくると回っている。 「あったかくて、でも目には見えなくて、けどきちんと”熱”という力を伝えられて、それでいて本当は形のある存在。そう、全部、光のことなんだ……」 「光?」 「お日様の下ならあったかいだろ。でも光は見えない。それでいて波のように力を伝え、つかむことができる存在。そう、全部光なんだ」 集中。 魔力を集め、練り、合わせる。 「見えたぜ、合体魔法。光の魔法だ!」 カッ、と閃光が走った。セリルは思わず目を閉じる。 おそるおそる目を開くと、アルスの前に小さな珠が浮かんでいた。 ふんわりと白く輝くそれは、握りこぶしほどの大きさしかない。なのに、圧倒的な存在感がある。 「これが、光の魔法?」 「合体魔法だ。四色の魔法、それぞれを合わせ……っ!?」 バチン! と光が弾けた。霧散した余波で風が吹き荒れ、熱を感じる。 「これ、コントロールがめちゃめちゃ難しいな……。でも、できる。理論的には」 「よくわからないけど、見つけたのね。賢者の魔法を」 「ああ! こいつ、小さいのにすっげーエネルギーだった。これをユーバにぶつけられれば……!」 「ようやく見つけたようですね」 気付けば、フィールドの外にルーナが立っていた。 「あ、先生……。すみません。申請もしていないのに」 「構いません。それよりも、見つけたようですね、賢者の魔法を」 「ああ、わかったっす。光のことなんだ」 ルーナはこくりと頷き、 「それを見つければ、あとは身につけるだけです。光という共通点を使えば、どんな魔法をも組み合わせられます。まずは二つから試すといいでしょう」 「うすっ」 「少しずつ段階を踏むことで、四つの魔法を合体させられるようになるはずです。あとはそれをユーバにぶつけるだけ。とはいえ、回避力の高い彼にぶつけることは至難ですが、そのあたりの対策はシン・ガルドとの特訓で見つけましたね?」 頷くアルス。 ルーナはくすりと笑い、 「結構。これで最低限です。これをどこまで高められるかによって、ユーバに届きうる牙になるかが決まります。セリル、あなたの魔力量ならアルスのサンドバッグになれるでしょう。対人相手ならば魔力の精度はより高まる……。二人で、あの最強をぶち殺しなさい」 アルスとセリルは顔を見合わせ、頷き合う。 「はい、わかりました! 先生!!」 |