その日。空は良く晴れ渡っていた。
「ふうん。ここが抽選会場?」
 アルスが見上げる先には、白いブロックを積み上げた建物がある。
 王立多目的ホール。イベント事を行うのに最も適した、様々なタイプの会場を備える建物である。
 本日、全国学生デュアル大会の組み合わせ抽選会が、この王立ホールで行われるのだ。
「アルスはここ、初めて?」
「そうだね」
「なら、覚えておくといいでしょう。これから毎年来ることになるのです」
 アルスの後ろには、学生服に身を包んだセリルと、メイド服に身を包んだヤバイ人がいる。
 周囲からも奇異の視線が集まっているが、このメイド、一切気にしない。
 三人揃って会場に入ると、すでに他の選手たちも集まりつつあるようだった。
「……」
 女性のペア、男性のペア、男女のペア。見た目でわかる要素だけでは強いも弱いもないがーー。
「こいつら、強いね」
 まとう気配は明らかに違う。
 そして、それが分かる程度には、レベルアップしている。
「……ッ!!」
 直後。周囲を見渡していたアルスは、後ろを振り返った。
 明確な殺気。
「よう、ガキじゃねえか」
「ユーバ……!!」
 邪悪なる勇者は、今日もパートナーと二人だけだった。全身から漂う殺気は、地区大会の時と同じ。いや、あの時よりも強く感じる。
「テメエを殺せるのを楽しみにしてたぜ。俺様と当たるまで負けるんじゃねえぞ」
 そう言い放ち、ユーバはすたすたと歩き去ってしまう。と、その後ろを歩いていたエルフが立ち止まった。
「……?」
 ユーバのパートナーであるエルフ。その名もオリーヴ。
 とはいえ、前回の地区大会では、彼女は何もしていない。というか、何かをする前にアルスが負けてしまった。
 だから、ほとんど初対面に近いのだが、彼女の瞳はまっすぐアルスとセリルを捉えていた。
「ユーバには」
 形の良い唇が開く。
「敵がいないの」
「そのくらいは知ってる、けど」
「そうじゃない。セト・シアンには魔王がいた。でも、ユーバ・ガリアスには魔王がいないの」
「……!!」
「あなた達は、ユーバの魔王になってくれるかしら」
 アルスが答えられずにいると、
「おい、オリーヴ! 何してんだ!」
「今行くわ」
 すう、と音も立てずにユーバの後を追うオリーヴ。
 なんともつかみ所がない少女に、けれど、アルスは緊張していた。
「アルス?」
「セリルは、オリーヴの言っていた意味、理解できた?」
「え? ううん、なんだかよくわからないけど」
「セト・シアンーー勇者には、魔王という敵がいた。勇者としての力を存分に発揮し、死力を尽くす相手がいた。でも、ユーバと並ぶことのできるプレイヤーはいない。つまり、あいつは自分の全力を出したことがないんだ」
 常に力を余らせている状態。
「それは、とても退屈なんだ」
 だから、彼は邪悪を気取る。
 敵を増やし、せめて自分の退屈をまぎらわそうとしている。
「少しだけ、あいつのことを理解できたよ」
 アルスはぐっ、と拳を握る。
「いいじゃん、なってやろうじゃん。魔王ってのに」
 アルスの言葉にセリルは目を丸くし、ルーナは目を細めた。
「アルフォンス。この国で、魔王を名乗るという意味を理解していますか」
「もちろん」
 魔王の侵攻があったのは、たったの50年前だ。まだ戦時の記憶を持つ人だって生きている。
 当時は魔王軍の魔導兵器が各地を襲い、魔物たちに殺された人間は今も数えきれていない。
 そんな彼らのいる中で魔王を名乗るというのは、不謹慎などという次元ではない。下手すれば、その発言だけでも出場停止を食らったっておかしくないほどのもの。
「実際に魔王を名乗るわけじゃないさ。でも、言いたいことはわかる。そういう存在になればいいんでしょ? 勇者と対立する者。魔王って言葉がダメなら、新しい概念でもあればいいんだね」
「言葉遊びをしているわけではありませんが」
「これはただの遊びだよ。でも、本気でやってる遊びだ」
 デュアルプレイヤーにとって、勝ち以外の全ては存在価値がない。
 勝利、ただそれだけのために、全てをなげうてる者。
「おれが勝つ」

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「ようこそ、全国デュアル大会の組合せ抽選会場へ!!」
 報道志望だという、王立学校の女生徒が明るくアナウンスする。
 会場の正面にはステージがあり、そこに白いボードが置かれていた。
 ボードにはトーナメント表がすでに書き記されているが、各ブロックの出場選手欄にはまだ名前がない。今から、各選手がランダムにくじを引き、どこのブロックに収まるかを決めるのだ。
「それでは組合せ抽選の前に、全国大会のルールを説明いたします! 常連さんはいつもと同じなので、聞き流してもらって結構でーす!」
 前置きし、アナウンサーの少女は続ける。
「全国大会はトーナメント戦! 一敗でもしたら即失格! 優勝したければ一度も負けられない、厳しい戦いです!」
「負けたら終わり……」
「負けなきゃいいんだろ」
 わかっていても青ざめるセリルと、最初から負けるつもりなどない勝ち気なアルス。対照的ではあるが、セリルにとって、これほど頼もしいパートナーもないかもしれない。
「また、ひとつの試合は制限時間がつきます! 前後半にわかれ、前半10ミニ、後半10ミニ、合計20ミニの試合です! なお、前半と後半の間には15セクの休憩時間を挟みます!」
 これも地区予選の時にはなかった概念だ。休憩を挟むとはいえ、その間に魔力をチャージする時間はない。体力はいくらか休んで回復できるだろうが、魔力の削り合いになれば、前半終了を待たずに決着がつくだろう。
 特訓で魔力量を増やしたとはいえ、アルスの魔力量は決して多い方ではない。配分も重要ということだ。
「特徴的なルールはこれだけ! それ以外は一般的なデュアルのルールに則ります! 皆さん、理解できましたか? 理解できなくても大丈夫! 出場者にはルールブックが渡されますので、そちらでご確認ください!」
 そういえば、抽選会場に入る際に小さな冊子を渡された。あれがルールブックということか。
「はーい! それでは組み合わせ抽選を開始いたしまーす! それでは代表の方! 前に集まってください!!」
「行ってきなさいよ」
 セリルに促され、アルスは前に出る。
 男女の選手たち。その中でも、アルスの目を引くのはユーバだけだ。
 ユーバもまた、アルスを見つけ、にやりと笑った。首を親指で指し、横切らせる。
「……」
 アルスも黙って、彼をにらみ返した。
「では、みなさん抽選箱に手を入れてください!」
 8つの穴が空いた抽選箱にそれぞれが手を入れる。中では8つのボールが風の魔法で渦を巻いている状態だ。 
「はい、では選手のみなさん、箱の中に浮かんでいるボールをつかんでください! ひとりひとつですよー!」
 ふわふわと浮かび上がるボール。その中のひとつを掴みとる。
「はい、全員取れましたかー? では引き抜いてください!」
 アナウンサーに促され、全員がボールを引き抜く。引き抜いたボールは4色に塗り分けられていた。
「赤ブロックはサナ選手とレイド選手! 黒ブロックはガリアス選手とインディ選手! 青ブロックはリーパー選手とミルタ選手!」
 アルスは手に掴んだボールを見つめる。白。
「そして、白ブロックはスター選手とキッス選手! 以上の組み合わせに決定でーす!!」
 同じく白いボールを握っているのは、女性選手だった。女性とは言っても、アルスより頭ひとつ大きく、男性のようにしっかりとした筋肉を備えている。
「お前が対戦相手か。アタイは、男なんかに負けないよ」
「おれは誰にも・・・負けないよ?」
「……言うじゃないか」
 こうして。アルスの全国大会は、ここから始まった。