学校の部室にて。
 アルスとセリル、それにルーナのデュアル部3人は、組み合わせの決定したトーナメント表を眺めていた。
「初戦の……ハルト・リンペア? って強いの?」
「私も知らないわ。全国大会は初出場ね」
「ふうん」
 セリルはトーナメント表の名前を見ている。各ペアの横には、所属している学校の名前も記載されていた。
「それにしても、ダースラング魔法学校、か」
「そこが何か?」
「何ってほどじゃないんだけどね。ダースラング魔法学校は、3年前まで男子校だったのよ。3年前に共学となった」
「あの二人は女子生徒だね」
「そうなのよ。元男子校のデュアル部なら、絶対ではないけど、男子部員の方が多いはずでしょ? なのに出場している選手は女子のペア。しかもあの二人、三年生なのよね。つまり、共学になって最初に入学した女子ってこと」
「それが関係するわけ?」
「関係するかもしれないし、しないかもしれない。ただ、あんたにも言っていたんでしょ? ”男には負けない”って」
「……そういえば」
 元男子校に入学し、男に対抗意識を燃やす女子生徒。
「なんとなく手強そうね」
「実際、それなりに強いでしょう」
 そう言ったのは、顧問のルーナだった。
「彼女の筋肉は一朝一夕で身に付くものではありません。相応に鍛練を積んでいる証拠です」
「でも、特訓なら私たちだって……」
「そんなものは全国大会に出場しているペアなら全員やっています。あとはどれほど本気になっているかという問題」
 その点、とルーナは続ける。
「彼女たちは、瞳に強い意思を感じました。男子には負けないという言もある。彼女たちには、特に男子相手に対して強い対抗意識があるのでしょう。明確な目標となる敵がいるペアは、おおむね強くなります」
「……じゃあ、やっぱり強いんだ。ルーナ先生はどういう対策をしたらいいと思います?」
「そうですね。見る限り、ハルト・キッスが前衛なのは間違いないでしょう。リン・シャンは完全な魔法使いタイプですし」
「それはそうですね」
「典型的な前衛後衛スタイルですが、これは特徴がないかわり、隙もありません。搦め手が通じにくく、自力の勝負になりやすい。一般的には、リン・シャンが魔法を完成させる前にハルト・キッスを落とす必要があります」
「でも、ハルトの筋肉を見ると……」
「そうとう鍛えています。もともと火力不足のあなたたちでは落としきれるかどうか」
「ですよね」
「それも、あの特訓で改善はしたはずです。特訓の成果を試すちょうどよい相手とも言えるでしょう」
 それはそうだ。
 ハルト・キッスを落とせないようでは、ユーバ・ガリアスを落とすことなどできるはずもない。
「あなたたちは、デュアルの頂点に挑もうというのです。あの程度で足を止めるようでは困ります」
「もちろんだよ」
「もちろんです」
 答えた二人の瞳には、闘志が輝いていた。

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 試合当日。
 ハルト・キッスは、選手控え室でごくりと水を飲んだ。
 手のひらを見つめる。戦いに明け暮れた手は、ごつごつとしていた。
 と、ガチャリと扉が開き、小柄な少女が顔を出す。
「ハルト」
「リン」
 少女はとてとて歩いてくると、ハルトの腕にぎゅっとしがみつく。その細腕はいかにも女の子らしく、手は綺麗だ。
 そんな、自分にはないものを持つ少女を前に、ハルトは頬を緩める。
「ハルト、とうとうここまで来たわ」
「そうさね。でも、まだまだ。全国一位になって、あのユーバって男も倒して、証明してみせるのよ」
「うん。ハルトは強いわ。誰よりも強い」
「ありがと。リンのことはアタイが絶対に守るから」
「えへへ。信頼してるわ」
 そのままリンは目を閉じた。ハルトはそんなリンにそっと口づける。
 幾ばくかを経て、二人は離れた。
「ハルト、行こっか」
「ああ」
 リンは大きな杖を、ハルトは手甲を装備する。そしてもう一度だけキスを交わすと、そのまま控え室を出ていった。

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『お集まりの皆さま!! いよいよ、全国学生デュアル大会!! トーナメントの開幕です!!』
 実況の男が叫ぶ声が場内に響き渡る。その歓声に、アルスは顔をしかめた。
「やかましいね」
「しょうがないわ。戦いになれば、雑音なんて気にならなくなる」
「それもそうか」
 そこは、選手入場口の手前。目の前は入場ゲートであり、そこから一歩でも踏み出せば、もう戻ることなどできはしない。
「アルス」
 セリルが手を差し出す。アルスはそれを黙って握り返した。
 二人の体温が、手のひらを通じて混ざり合う。
「あんたがいなきゃ、全国大会なんて出場できなかったわ。感謝している」
「出場なんてスタートラインでしょ。勝たなきゃ」
「もちろんよ」
 デュアルとは勝利が全てだ。敗北から得るものだのなんだの、そんなものはただ誤魔化しているに過ぎない。
 勝敗がつく競技とは、およそ全て”勝つこと”だけが唯一なのだ。
「行こうか、アルス」
「そうだね、セリル」
 そして。二人は一歩を踏み出した。