ハルト・キッスは、海辺の町で生まれた。
 彼女の家は代々、町の顔役だった。表向きは町長のような役目を勤めているが、裏では海賊業を営んでいた。
 そう、ハルトの生まれた町とは、海賊の町なのだ。
 とはいえ、彼女たちは高潔で、誇り高い海賊として活動していた。狙う獲物は法律ギリギリで蓄財した相手だけ。河川の秩序を守り、魔物を相手に戦うことも多い。
 辺境の土地では、いくら王都といえど守りが行き届かないところはある。そういう領主の目が届かない土地を守る、言うなれば義賊だった。
 海賊には男も女もいたが、やはり基本的には男社会だった。力が強い者、戦闘力の高い者が発言力を有し、必然的にパワーが求められた。
 そんな海賊の娘として生まれたハルトは、自然、鍛えることが日常となった。女性でありながら才能を持っていたハルトは、徐々に男にも負けない筋肉を備えるに至った。
 そんな彼女が、パートナーとなる少女ーーリン・シャンと出会ったのは、5年前のことだ。

『あなた、誰?』

 最初に出会った時、リンの放った言葉だ。
 リン・シャンは、ハルトと対照的に裕福な家の子だった。家の中から一歩も出ることなく、指先ひとつで大抵の願いを叶えられるような生活だった。
 その日、リン・シャンは珍しく散歩に出掛け、そして誘拐された。噂を聞きつけ、リンを救出に行ったのがハルトの一家だ。
 アウトローであるハルト一家だったが、人を傷つけるような悪事は認めていない。余談ではあるが、誘拐犯たちはハルト一家によってボコボコにされ、そのまま根性が直るまで海賊の仲間にさせられた。
 一方でハルトは、今まで見たことのないような少女に、とにかく目を奪われた。
 雪のような白い肌。天使のような邪気を知らない顔。その全てに心を奪われた。
 一方で、リンもまた、ハルトに心を奪われた。
 彼女の周囲では一切存在しなかった、力強い女性。男性社会の中にあって、己の力だけで存在感を示すような生きざま。
 互いにとって互いは未知の存在であり、それぞれが影響しあうようになった。

『えへへ。また来ちゃったわ』

 深窓の令嬢だったリン・シャンはたびたび家を抜け出し、ハルトたち海賊一家に会うようになった。
 ハルトもまた、リンと出会うことで、儚い存在を守るという目標ができた。
 その後、魔法使いとしての才能を見出だされたハルトは進学先を選ぶこととなる。そして彼女は、進学先として男子校を選んだ。

『男に負けねえ女にならなきゃいけねえんだ』

 その言葉に感動した父は学校長を説得・・し、共学化させた。本来なら女子の入学者はハルト一人となるはずだったが、二人目の入学者が出てしまった。

『ハルト一人なんてずるいわ』

 超お嬢様学校への進学を蹴飛ばし、親と生まれて初めて喧嘩までして、リン・シャンはほぼ男子の学校に入学することになった。
 二人はずっと、二人でひとつだった。それは、これから先も変えたくない日々だ。
 だからこそ、ハルト・キッスは己の力にこだわる。男に負けない、それが彼女の目標だ。
 そして、リン・シャンは、そんなーー大好きな彼女のために、力を尽くすと決めている。

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 一の太刀が失敗した。
 出力を上げて一気に決めるか。それとも細かい手数で魔力を削るか。
 一瞬の迷い。だが、迷っている間に、セリルが叫ぶ。
「来るわよ!! 大魔法!!」
「ッ!!」
 瞬間。アルスは後ろに下がっていた。セリルと共に二人で背中を合わせる。
「行きますわよー!! 【氷塊弾雨スノウシスター】!!」
 空が凍る。
 生まれるのは巨大な氷塊。それは船ほどの大きさで、ゴーレム化したハルトさえも凌駕する。
「バッ……!? 冗談じゃねえ!?」
「防御なんて意味ないわ!! わたくしの全力!! 受けてくださいまし!!」
 杖を振り下ろす。
 号令を浴びた氷塊は、全方位に容赦のない氷弾を撒き散らす。
『うひゃあああああ!? リン・シャン選手の大魔法だー!! 会場中を容赦なくぶち壊す、氷の嵐!!』 
 降り注いだ氷の弾丸はフィールドを削り、砕き、打ちのめす。
 時間にしてほんの1ミニほど。氷の嵐が消え去った後は、フィールドの気温が明らかに下がっていた。
『これは勝負あったかー? というか、アルス選手たちは無事なのか? 審判の確認が……おーっと!?』
 実況の声が驚愕に変わる。
『無事! 無事です! アルス選手とセリル選手、共に氷弾の雨をかわしきりました!! 奇跡です!!』
 実況のやかましいアナウンスを尻目に、アルスはセリルを抱え、頭上の傘・・・・から逃げ出す。
「やっぱな。あんたらは仲のいいコンビだから、味方ごと、なんて無茶はしねえと思ったぜ」
「……テメエ」
 ハルトの瞳に怒りが宿る。
 氷が降り注ぐ瞬間、アルスはセリルを小脇に抱え、ハルトに向かって突撃していた。
 巨大なハルトのゴーレム。その下は、氷弾が降り注がない唯一のスペースだ。事前に打ち合わせしているハルトもまた、少しでも動けば氷弾に巻き込まれてしまうため、動くことができなかった。
 結果。アルスたちは、相手の下に飛び込むという無茶のおかげで、なんとか生き永らえたのだ。
「アタイにリンの邪魔をさせるなんて……!!」
「勝てばいいんだろ」
 アルスの言に、ハルトは怒りの眼差しを返す。
「ちっ。後半はこうはいかない」
 同時、審判のホイッスルが鳴り響く。前半終了の合図だった。