「ん……」
 ハルトが気がついた時、白い天井が見えた。
「ここは……」
 起き上がる。自分はベッドに横たわっており、かたわらには着替えたリン・シャンの姿があった。
「リン」
 その顔を見て、何が起きたかを思い出す。
 そして、結果を知る。
「……悪い、アタイのせいで」
「そんなことないわ。ハルトのおかげで、ここまで来られたんだもの」
「でも」
 言葉を返そうとしたハルトは、口をつぐむ。
 振り向くと、医務室の扉を開くセリルが見えた。
「なんだ。敗者を笑いに来たのか」
「私がそんな人間に見えるの? 心外ね」
 後ろ手で扉を閉めたセリルは、二人の対戦相手を等分に見渡す。
「あなた、男に勝つってことにやたらこだわっていたでしょう。それはなんでかなって」
「なんでそんなの、あんたに教えなきゃいけないんだ」
「知りたいから?」
「ふん。冗談じゃない」
 ごろりと寝転がり、頭からシーツをかぶる。闇に包まれるハルトの耳に、セリルの声が届く。
「じゃあ、そのままでいいわ。なんで男に勝つってことにこだわるのか知らないけど、私はそんなつもりなんてないのよね」
 そんなものわかっている。でなければ男をパートナーなどにするものか。
 内心で毒づくハルト。
「私は男とか女とか関係ないもの。私が私だから、デュアルをするのよ」
「……あなたが、あなただから?」
 これはリンの声か。
 対するセリルは、
「本当に強い女なら、性別なんて理由にしないでしょう? 私はそういう存在になりたいのよ。性別とか、年齢とか、学校とか種族とか、そういう色々なしがらみ……。自分ではどうにもならないものなんかに振り回されず、自分が思うままの自分を通したいの。だから私はデュアルをしている」
「それとデュアルと関係が?」
「もちろん。だってデュアルは、”勝ち”さえすれば、後は関係ないから」
「……ッ!!」
 そうなのだ。
 デュアルにとっては、勝つことこそが全て。裏を返せば、勝ちさえすれば女であっても称賛されるし、どんな身分でも強い力を有することになる。
 それこそがデュアル。
「ま、元気そうだし。お話はまた今度にしましょう、じゃあね」
 セリルが立ち去る足音が聞こえる。扉が閉まる音が消えてから、ハルトはゆっくりと体を起こした。
「ハルト……」
「……負けたな」
 そうだ。勝負にも、心でも。
「リン。今度こそ、勝とう」
 ハルトが言うと、リンは泣きそうな顔で笑った。
「ええ。今度こそ、二人で」

★ ★
 ☆ ☆ 
★ ★

 
 アルスたちの試合は午前中。お昼の休憩時間を挟んで、午後には別の試合が開始される。
 アルスとセリルは、そんな試合を観客席から眺めていた。敵情視察、というほどのものではない。ただ、見たいと思う二人の意見が一致しただけだ。
『この歓声! 実況の声がかき消されてしまいそうです! それもそのはず、これから始まるのは果たして試合か!? それとも一方的な虐殺なのか!?』
 会場の中に入ってくる、一人の男。
『彼こそが勇者の再来! ユーバ・ガリアス選手です!!』
 ユーバは観客席を見上げた。彼の位置からこちらの存在などわかりようもないだろうに、ユーバは明確にアルスを見つめ、そして、首もとで指を動かした。
「……ふん」
「対戦相手も全国常連のベテランだけど……。ユーバが相手だとね」
 すでに入ってきている対戦相手は、ユーバより年齢も上だし、全国出場経験も多い。だが、そんな彼らをもってしても、ユーバが相手では。
 会場全体もまた、ユーバを応援するムード。完全にアウェイだ。
「ユーバみたいな邪悪の塊が、なんでこんなに人気があるの?」
「あいつは負けなしだもの。デュアルは勝利が全て。最強っていうのは、性格関係なしにそれだけで人気が出るものよ」
「そういうものかね」
 割れるような歓声は、それがそのままユーバの人気だ。
 あんな男でも、強ければ認められる。やはりデュアルとは、そういう世界なのだ。
『まもなく時刻です! それでは皆さま、まばたき禁止ですよ!! 審判のコールです!!』
 主審が手をあげ、合図が響く。
「ファイッ!!」
「オラァ!!」
 ほぼ同時。ユーバが動く。
 その動きを追えた者は、会場でも何人もいない。神速の接近。
「ッ!?」
 一瞬にして間合いを詰めたユーバは、そのまま右ストレートを繰り出す。

 パァン!!

 防護魔方陣さえ無視し、対戦相手の選手が殴り飛ばされる。すでに倒した相手には目もくれず、ユーバは次の獲物へ。
「ひっ」
 完全に気圧されている少年相手に、ユーバは構わず体当たりをかました。
 衝突、粉砕。相手のガードさえもぶっ飛ばし、手刀一発で敵を沈める。
 主審が手をあげた。試合終了の合図。
『試合しゅーりょー!! 試合開始からわずか20セク!! まさに秒殺!! 勝者はユーバ・ガリアスだー!!』
「……今の」
「ええ。決して対戦相手が弱かったわけじゃない」
 二人は障壁魔法でユーバの打撃を防ごうとした。それはセオリー通りで、決して悪い選択肢ではない。
 だが、ユーバが早すぎた。詠唱が完成する前に肉薄し、未完成の魔法ごと殴り飛ばしたのだ。
 障壁魔法を展開する時間は1セク程度。その短時間で肉薄し、詠唱をストップさせるなど、普通のプレイヤーには絶対にできない。
 ユーバの瞳が、次はお前だ、と語っているように見えた。