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試合当日。 会場は一回戦の時を越えて歓声に包まれていた。 『全国学生デュアル大会!! 二回戦です!! 本日の対戦カードは、期待の新星!! アルフォンス・スター!! パートナーはセリル・部ラッキー!!』 わあああ、と歓声がひときわ大きくなる。 『対するは大会唯一の人形遣いと竜亜人のペア!! ルーシェ・リーパーとレム・ラパル!!』 こちらはどちらかと言うと黄色い歓声が多いようだ。 「本人も人形みたいな相手だね」 「どっちもね」 対戦サイドにいる二人は、それぞれに人形じみていた。 かたや、装飾過多な黒いドレスに身を包んだ小柄なプレイヤー。ルーシェ・リーパーは、さながら陶器の人形を思わせる。 その傍らに立つのは、体に密着するような服を着ている少女。レム・ラパルは無表情で、これはこれで機械人形のような趣がある。 「それじゃいくよ」 「ええ」 アルスは刀を手に、セリルはマシンガンを構える。 「ファイッ!!」 開始の合図と共に、アルスはいつも通り突っ込む。相手もまた、レムが突っ込んできた。 「ふッ!」 構わず刀を振り下ろす。だが、レムはよけなかった。 「っ!?」 がつん、と強烈な手応え。正面から肩に刃が当たるが、石でも殴ったように刺さらない。 「なんで避けないんだ!?」 「避けろと命じられておりませんので」 レムは当然のように答え、そのまま回し蹴りをかます。 「っ」 刀で蹴りを弾く。ブーツに何か仕込んでいるのか、ギャリギャリと金属音が跳ねる。 蹴りをかわした。反転しようと刀を引き、 「アルス! まだ!!」 「いっ!?」 続けざま、尻尾の追撃。体勢を崩しながらもギリギリでかわすが、尻尾が頭をかすめた。その風圧だけで、とんでもない威力だとわかる。 「こいつは……!!」 思ったよりも厄介だ。ユーバとは違う意味で。 ユーバはこちらの攻撃を全て受けかわしてしまう、反射神経が異常だ。一方でレムは、こちらの攻撃を受けきる防御力と、ヒューマン同士ではあり得ない位置からの攻撃がある。 「こりゃ本気でユーバより厄介、ってか!」 倒れかけたアルスは、そのまま戻ろうとしなかった。体を倒し、頭を下に。左手一本で逆立ちし、そのまま大きく跳ねる。 「ッ!!」 両足でのキック。風に乗って一回転。 「はッ!!」 全力の斬撃。レムは攻撃を爪で受ける。指先から伸びた爪は鋭く、ヒヒイロカネで作られた刀をもってしても落とせない。 「なるほどな……。あんた、本当に人形みたいだね」 「光栄です」 「あ?」 鋭い爪、長い尻尾、自在な蹴りと拳。なるほど、武闘スタイルだが、変則的な動きと合間って攻め込む隙がない。 「なんで人形みたいってのが光栄なのさ」 「……人形遣いのパートナーに要求されるのは自我ではありません。主の命じるまま、敵を屠ることができるだけの基礎仕様です」 「そう、かいっ!!」 アルスはレムを蹴飛ばし、大きく距離を開いた。 「それなら、一撃で仕留めて……ッ!?」 刀に魔力をためての一撃。太刀を放とうとした瞬間、アルスの動きが止まる。 『ああーっと!? どうした、アルス選手! 敵を前に棒立ち! 一方でレム選手も様子を窺っているぞー!?』 実況の声は聞こえる。なのに顔も動かせない。 これは、失敗だ! 「捕まえた」 その声は聞こえる。だが、声の主を見ることができない。 「ボクの勝ちだ」 ★ ★ ☆ ☆ ★ ★ その試合を、ルーナは客席から見ていた。左右の観客はメイド服の観戦客に少々面食らっていたが、試合が始まるとそれどころではなくなったようだ。 「なるほど。さすがは人形遣い、というわけですね」 客席から、その目をこらして魔力をたどれば、何が起きたかよくわかる。 ルーシェ・リーパーは当初、レムに指先から魔力を供給し、ガン攻めのスタイルだった。それはさながら、操り人形で攻め立てるかのごとく。 だが、本当の狙いは攻めることでも、そのまま落とすことでもなかった。アルスの気持ちをレムに集中させ、自分を意識から外させーーそのまま、自分の糸で相手を絡めとることだったのだ。 ルーシェの右手からはレムに、左手からはアルスに魔力が伸びている。コツを知っている人間でなければ見つけられないような、細い魔力糸だ。学生に過ぎないアルスやセリルでは、あれを見つけろというのは酷な話だろう。 「ここまで、ですかね」 アルスが捕まったということは、アルスの肉体操作はルーシェに握られたということだ。 実質的な3対1、しかもそれを成すのがセリル・ブラッキー。 彼女は天性の資質がある。魔力量だけなら誰にも負けない。だが、それをコントロールする術が拙い。それは、大会開始までの数ヵ月で鍛えた程度ではどうにもならないレベルだった。 マシンガンを一人で連射できるほどの魔力量を持っているのに、だ。 「あの欠陥武器でここまで戦ってきたのは見事、ですが……」 あの二人は、完全にアルスの才能だけで勝ち抜いてきている。もちろんセリルがいてこそアルスも攻め抜けるのだろうが、それにしたって、パートナーとして彼女の力は足りていない。明らかに全国レベルではない。 ここは正念場だ。普通に考えれば、ここでチェックメイト。もはやどうにもなるまい。 だが、もしもこの逆境をはねのけることができたなら。 あの二人は、ひとつの壁をーー”人間”と”化物”の壁を、抜けてしまえるかもしれない。 |