離れた位置にいたセリルには、何が起きたかわかっていなかった。
 アルスの動きが急に止まる。合わせるようにレムも動きを止めた。
 隙を窺っていたセリルではあったが、ルーシェはちらちらとこちらを窺っているうえ、足元にはいくつかの人形が転がっている。いざとなれば、あの人形が盾になるのだろう。下手に魔力を使えないと判断し、様子見せざるを得なかった。
 だが、この状況。これはどういうことだ?
 アルスのスタイルは超オフェンス特化。守るなんてタマじゃない。なのに、足を止めたのは、何か理由が……?
 すると、アルスの顔がこちらを向いた。同時、レムもこちらを見つめる。
「いっ!?」
 二人の様子が、まるで機械仕掛けの人形を見ているようでーーセリルの背筋に悪寒が走った。
「これでおしまいだよ!!」
 ルーシェが両手の指を操作する。操られた両者は、揃ってセリルに襲いかかった。
「嘘っ!? アルス、何してんの!!」
「わかんないんだ!! 体がいうこと聞かない!!」
 圧倒的パワーを持つレムと、圧倒的なスピードを持つアルス。
 かわしきれない。そう判断したセリルは、咄嗟にマシンガンを捨てた。
「っ!?」
 手を腰の裏に伸ばす。引き抜いたのは大振りのダガー。
「そんなもので!!」
 爪を振り上げるレム。セリルはそんなレムには構わず、アルスに向かって突っ込んだ。
「いッ!?」
 味方相手に容赦なく刀を振り下ろすアルス。その動きは、いつもの動きとなんら変わらなかった。
 だからセリルでも、どこにダガーを置いておけばいいのか見えていた。

 ギッ!
 
 ダガーと刀がぶつかり、火花が散る。セリルはそのままアルスの懐に飛び込み、
「でえりゃあああああああああ!!」
 右腕をつかむと、そのままレムに向かって投げ飛ばした。
 レムは冷静にアルスを飛び越え、こちらに迫る。
 鋭い爪の攻撃。それをセリルは、あえて回避しないと決めた。
「ッ!!」
 防護魔方陣は、持ち主を自動的に守る結界だ。
 だが、自分の意思で手にしたアイテムを阻むものではない。すなわち、受け入れる意思があれば・・・・・・・・・・・攻撃はそのまま通るのだ。
「痛ぅ!!」
 鋭い爪の攻撃が、セリルの腕を引き裂く。腕から流れる血液がダガーに染みる。
「まだまだァ!!」
 そのままレムと場所を入れ換えたセリルは、アルスに向かって突撃した。血の染みたダガーを振り回すと、血液が周囲に飛び散る。
「……!! 見えた!!」
 血液は魔力を媒介する最大最強の触媒だ。そんな血液を浴びれば、魔力は必然的に反応する。
 学生レベルでは見極めるのも困難な魔力糸。だが、血液を浴びればーーその軌跡は、赤く浮かびあがる!
「破ッ!!」
 ダガーに魔力を込め、糸を切り裂く。アルスとルーシェを結ぶ糸が断ち切られ、アルスの戒めが解かれた。
「くっ」
 体の自由を取り戻したアルスはセリルを抱きかかえると、一気に壁際まで引いた。
「おい、傷は大丈夫か!?」
「大丈夫よ。ダガーは握れてる」
「そういう問題かよ……。無茶しやがって」
「でも、こうでもしなきゃ魔力の糸を見つけるなんて無理だもの。あんたが操作されているのはわかっていたし、相手は人形遣いだし」
「だからってそんな作戦、もうやるなよ。あんたが傷ついて跡でも残ったら、おれだって寝覚めが悪い」
「ん、ごめんね」
「いや。先にやられたのはおれだ。助けてくれてありがとな」
 距離を開いたことで、接近戦が得意なレムは攻めてこない。これだけ離れると魔力糸で絡めとることも難しいのだろう、ルーシェも様子を窺うだけだ。
 そうこうしているうちに時間が過ぎ、審判のコールが響いた。
『前半終了!! 状況はルーシェペアが有利か!? 休憩時間に入ります!!』
 実況の声が場内に響き渡る中、アルスたちは控え室へと引き上げた。

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 選手控え室では、とりあえずセリルの止血を行うことになった。
 腕を包帯でグルグル巻きにする。試合中なので、回復術師を呼ぶわけにはいかない。だが、それほど深い傷ではないのか、なんとか試合中は持ちそうだった。
「不幸中の幸いってやつだな」
「でも、このままじゃあいつらには勝てないよ」
「ああ、そうだな……。見込みが甘かった」
 レムは確かに強い。だが、強化された程度の強さは、アルスと互角程度だ。少なくても一方的に負けているわけではない。
 だが、相手はレムを強化しながら、こちらの妨害まで可能だった。ガンガン強化するだけの相手と見くびったのが失着だ。
「どうすれば勝てると思う?」
 アルスはセリルを見上げる。セリルは腕の具合を確かめながら、
「……鍵は私、ってわけね」
「そういうこと。おれがレムを押さえ込むことは、まあ可能だと思う。でも人形遣いを倒せるほどの余力は残らない。チャンスは短い時間だ。ただ、あいつは足元に人形を用意していた……。たぶん、本人に攻撃を仕掛けたら、さっきおれが操られたみたいに、今度は人形を操作してくると思う」
「そうでしょうね。さながら、人形が彼の武器なんだわ」
「……? それはそうだろうけど、彼って?」
「ん? ああ、ルーシェはね、男の子よ」
 セリルが言うと、アルスは目を丸くした。
「だってあのドレス、どう見ても女物だぜ!? それに、髪も長いし、顔も綺麗だし」
「髪は伸ばせば伸びるし顔は男だって綺麗な方がいいでしょ。ドレスは好き好きじゃない? 私はあれ、可愛いと思うわ」
「そりゃセリルは女だから」
「なんだったらあんたにも似合うと思うけど?」
「やだよそんなの」
「冗談よ。でもまあ、人には色々な事情があるの。彼にとっては、あのスタイルが一番なんでしょ」
 異性の格好をするデュアルプレイヤーというのがないわけではない。だが、たいていは女性のプレイヤーが男装をするものだ。
 男性プレイヤーが女性の格好をしているというのは確かに珍しい。
「……それが、彼の戦う理由なのかもね」
「ん?」
「ま、お姉さんに任せなさいよ」
「任せろって。頼りになったことがない気がするんだけど」
「あー、言ったわね! これでもあんたの先輩なのよ!?」
「何言ってんのさ。おれたちはデュアルプレイヤーだよ? 強いやつ、勝つやつだけが偉いの。年齢だのデュアル歴だのは関係ないの」
 アルスの言葉に、ふん、とセリルは鼻を鳴らした。
「わかっているわ。それに、私もデュアルプレイヤーよ」