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ルーシェ・リーパーはプレイヤーの中でも珍しい、女装した男性プレイヤーだ。 もちろん、デュアルの試合服に決まりはない。だからフリフリのドレスを着ていてもなんら問題はないものだ。 だが、彼にとって、その服装はひとつの防具だった。 世間という存在から身を守るために、必要な存在なのだ。 「くそっ、もう少しだったのに……。あの女が邪魔をして」 ルーシェは人形の用意をしながら、ぶつぶつと呟く。 幼い頃から人形が好きだったルーシェは、やがて、人形遣いの魔力に目覚めた。それが偶然なのか、あるいは人形たちが彼を選んだのか、知るよしはない。 だが、人形遣いとなり、自らも人形と同じ服を着て楽しんでいた彼を、周囲はあまり良い目で見なかった。男のくせに、という言葉は聞きあきるほど浴びせられ、周囲は彼に男であることを求め続けた。 そんな周囲が嫌で嫌でたまらなくなったルーシェは、やがて家から出ることもしなくなった。自室にひきこもり、閉じられた世界でだけ生きるようになった。 そんな彼が学校に通うまでになれたのは、献身的にーーまるで人形のように彼に付き従う、レムの存在があったからこそだ。 同じ控え室に座るレムは微動だにしない。無表情に、ただ待機している。 「クズ人間のくせに、ボクの邪魔をするなんて。おとなしく負けてろよ」 「……」 「勝たなきゃ……。勝たないと、認められないんだ」 「そうですね」 その時、休憩時間に入って初めて、レムが口を開いた。 「勝てば認められます。それがデュアルです」 「……わかってるよ。もちろんだ。ボクが優勝すれば、みんなボクを認めるしかない。男だとか女だとか、そんなことをボクに押しつける奴はいなくなる」 「その通りです、ご主人様」 よし、とつぶやいたルーシェは、人形たちを手に立ち上がった。 「行くぞ、レム。今度こそあいつらを叩きのめす」 「了解です、ご主人様」 ★ ★ ☆ ☆ ★ ★ 『さあ、全国学生デュアル大会二回戦!! 結果の読めない後半戦が今!! 始まろうとしています!!』 実況の声が響く中、四人のプレイヤーが闘技場の中に入る。 セリルはマシンガンを控え室に置いてきていた。そのかわり、両手にダガーを握りしめている。 「大丈夫なの? マシンガンなしで」 「いいのよ。あれは重いから突撃には向かない」 「……わかった。信じてるから」 「もちろんよ」 腰を低く、体を前に。 「ファイッ!!」 開幕、セリルとアルスは突撃する。 「逃がすかッ!!」 対するルーシェは、右手でレムを、左手で人形たちを操作する。 空を飛ぶように襲いかかるレムに、アルスは刀で応戦した。 「今度は遠慮しねえよ!! 二の太刀!!」 込めるは二種類。ひとつは炎、ひとつは水。 相反するはずの両者から、光の要素を見つけ、結び、刀に込める! 「紅蓮氷廊!!」 「ッ!?」 は虫類に近いドラゴニュートにとって、寒さは大敵。一方で熱には強い。 氷と炎、苦手と得意。矛盾する両者が当たり、インパクトの瞬間に炸裂する。 「ぐっ……!!」 防護魔方陣が反応する。レムは爪で受けるが、力の本流が迸り、空間をひねっていく。 「熱い、のに……!! 冷たい!?」 熱しながら冷まされているようなものだ。 短い時間に両極端な方向へ引っ張る力。それらが爪に無理な負荷をかけ、強度を下げる。 「ふっ!!」 その隙を狙い、アルスの斬撃が走る。弱った爪に鋭い一撃はたまらない。 「ぐっ!?」 爪のひとつが砕け、パラパラと散った。魔力量で勝っているはずのレムが、ガードしきれないほどの猛攻。 その瞬間、セリルは足に力を込めた。 「ここッ!!」 全力ダッシュ。レムは慌ててカバーしようとするが、セリルとの間にはアルスが割り込む。 レムがカバーする前線を抜け、そのまま後衛のルーシェへ迫る。 「はッ! 人形遣いだからって! 甘く見るな!!」 今度は人形たちが立ちふさがる。片手で操作しているのは五体もの人形。指一本での操作は細かい指示ができなくなる欠点を持つが、数で迫れるのはそれ以上のメリットがある。 「お前を潰せば終わりだ!」 五つの方向から迫る人形たち。ダガーしか持たないセリルはそれら全てを叩きのめす手段などないーー少なくても、ルーシェはそう見ていた。 「甘いわ!!」 実際、セリルはそう優秀なプレイヤーではない。たとえばユーバなら、迫る人形を全て叩き落とすくらいは可能だろう。アルスなら逃げ切れるだろうし、ハルトのゴーレム魔法なら人形の打撃くらい耐えきってみせる。 セリルにはどれもない。だが、セリルとて、ただのうのうとデュアルの世界に身を置いていたわけではない。 「かわすことができない、なら……!!」 全力。 足の裏で魔力を爆発させ、文字通り頭からルーシェに向かって突っ込む。 「ッ!?」 予想外の突撃。槍を構えた人形に頭から突っ込むが、防護魔方陣が反応した。 プレイヤーが望まない衝撃は魔方陣が受け止めてくれる。わかっていても、誰だって怖くて出来ないような体当たり。 セリルはただ勇気だけを胸に当たり、そのままルーシェを巻き込んで転がった。 「これで終わりよ!!」 ダガーを振り上げる。転がされたルーシェは集中が途切れ、魔力糸は途切れてしまった。打つ手はない。 そのまま防護魔方陣を割ろうとーー。 「ッ!!!」 振り上げたダガーが蹴りあげられる。 驚くセリルは、横っ腹を蹴り抜かれた。息を詰まらせながらゴロゴロと転がり、壁に激突する。 「がはっ、げほっ……!!」 防護魔方陣の上からでも響くような一撃。それだけの武闘家は、セリルを蹴り抜いた形のままで足をぶらぶらと揺らした。 「……レム?」 ルーシェは、自分を救ったパートナーの名前を呼ぶ。すると、レムは小さな声で答えた。 「申し訳ありません。命令もなしに」 「お前、だって……。ボクの命令もないのに、動けたのか?」 「それはもちろん。わたしも選手ですから」 「でも、じゃあ、なんでいつも反抗しないんだよ。ボクの命令に逆らったことなんか一度もないじゃないか」 「あなたを信頼していますから」 「信頼、って……。じゃあ、ボクが変な命令をしていたらどうするつもりだったんだ」 レムはちらりとルーシェを見やり、 「わたしは自分一人で生きるのが苦手です。命じられたことをこなすことはできますが、命じられていないことを見つけることができません。あなたはわたしに命令をくれます。そこに、間違いなどありません」 「……!!」 「わたしにとって、信頼するというのはそういうことです」 「そん、なの……。知らなかった」 よろよろと立ち上がったルーシェ。そんなルーシェを守るように、レムは二人の敵に視線を巡らせる。 「そっか、そうだったんだ」 ルーシェは汚れたドレスの埃を払う。 「ははっ。そうか、信頼って、そういうことか」 ルーシェの瞳に光がともる。 「じゃあ、行くよ。レム」 「はい、ご主人様」 |