ルーシェ・リーパーはプレイヤーの中でも珍しい、女装した男性プレイヤーだ。
 もちろん、デュアルの試合服に決まりはない。だからフリフリのドレスを着ていてもなんら問題はないものだ。
 だが、彼にとって、その服装はひとつの防具だった。
 世間という存在から身を守るために、必要な存在なのだ。
「くそっ、もう少しだったのに……。あの女が邪魔をして」
 ルーシェは人形の用意をしながら、ぶつぶつと呟く。
 幼い頃から人形が好きだったルーシェは、やがて、人形遣いの魔力に目覚めた。それが偶然なのか、あるいは人形たちが彼を選んだのか、知るよしはない。
 だが、人形遣いとなり、自らも人形と同じ服を着て楽しんでいた彼を、周囲はあまり良い目で見なかった。男のくせに、という言葉は聞きあきるほど浴びせられ、周囲は彼に男であることを求め続けた。
 そんな周囲が嫌で嫌でたまらなくなったルーシェは、やがて家から出ることもしなくなった。自室にひきこもり、閉じられた世界でだけ生きるようになった。
 そんな彼が学校に通うまでになれたのは、献身的にーーまるで人形のように彼に付き従う、レムの存在があったからこそだ。
 同じ控え室に座るレムは微動だにしない。無表情に、ただ待機している。
「クズ人間のくせに、ボクの邪魔をするなんて。おとなしく負けてろよ」
「……」
「勝たなきゃ……。勝たないと、認められないんだ」
「そうですね」
 その時、休憩時間に入って初めて、レムが口を開いた。
「勝てば認められます。それがデュアルです」
「……わかってるよ。もちろんだ。ボクが優勝すれば、みんなボクを認めるしかない。男だとか女だとか、そんなことをボクに押しつける奴はいなくなる」
「その通りです、ご主人様マスター
 よし、とつぶやいたルーシェは、人形たちを手に立ち上がった。
「行くぞ、レム。今度こそあいつらを叩きのめす」
了解です、ご主人様エス、マイマスター

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『さあ、全国学生デュアル大会二回戦!! 結果の読めない後半戦が今!! 始まろうとしています!!』
 実況の声が響く中、四人のプレイヤーが闘技場の中に入る。
 セリルはマシンガンを控え室に置いてきていた。そのかわり、両手にダガーを握りしめている。
「大丈夫なの? マシンガンなしで」
「いいのよ。あれは重いから突撃チャージには向かない」
「……わかった。信じてるから」
「もちろんよ」
 腰を低く、体を前に。
「ファイッ!!」
 開幕、セリルとアルスは突撃する。
「逃がすかッ!!」
 対するルーシェは、右手でレムを、左手で人形たちを操作する。
 空を飛ぶように襲いかかるレムに、アルスは刀で応戦した。
「今度は遠慮しねえよ!! 二の太刀!!」
 込めるは二種類。ひとつは炎、ひとつは水。
 相反するはずの両者から、光の要素を見つけ、結び、刀に込める!
「紅蓮氷廊!!」
「ッ!?」
 は虫類に近いドラゴニュートにとって、寒さは大敵。一方で熱には強い。
 氷と炎、苦手と得意。矛盾する両者が当たり、インパクトの瞬間に炸裂する。
「ぐっ……!!」
 防護魔方陣が反応する。レムは爪で受けるが、力の本流が迸り、空間をひねっていく。
「熱い、のに……!! 冷たい!?」
 熱しながら冷まされているようなものだ。
 短い時間に両極端な方向へ引っ張る力。それらが爪に無理な負荷をかけ、強度を下げる。
「ふっ!!」
 その隙を狙い、アルスの斬撃が走る。弱った爪に鋭い一撃はたまらない。
「ぐっ!?」
 爪のひとつが砕け、パラパラと散った。魔力量で勝っているはずのレムが、ガードしきれないほどの猛攻。
 その瞬間、セリルは足に力を込めた。
「ここッ!!」
 全力ダッシュ。レムは慌ててカバーしようとするが、セリルとの間にはアルスが割り込む。
 レムがカバーする前線を抜け、そのまま後衛のルーシェへ迫る。
「はッ! 人形遣いだからって! 甘く見るな!!」
 今度は人形たちが立ちふさがる。片手で操作しているのは五体もの人形。指一本での操作は細かい指示ができなくなる欠点を持つが、数で迫れるのはそれ以上のメリットがある。
「お前を潰せば終わりだ!」
 五つの方向から迫る人形たち。ダガーしか持たないセリルはそれら全てを叩きのめす手段などないーー少なくても、ルーシェはそう見ていた。
「甘いわ!!」
 実際、セリルはそう優秀なプレイヤーではない。たとえばユーバなら、迫る人形を全て叩き落とすくらいは可能だろう。アルスなら逃げ切れるだろうし、ハルトのゴーレム魔法なら人形の打撃くらい耐えきってみせる。
 セリルにはどれもない。だが、セリルとて、ただのうのうとデュアルの世界に身を置いていたわけではない。
「かわすことができない、なら……!!」
 全力。
 足の裏で魔力を爆発させ、文字通り頭からルーシェに向かって突っ込む。
「ッ!?」
 予想外の突撃。槍を構えた人形に頭から突っ込むが、防護魔方陣が反応した。
 プレイヤーが望まない・・・・衝撃は魔方陣が受け止めてくれる。わかっていても、誰だって怖くて出来ないような体当たり。
 セリルはただ勇気だけを胸に当たり、そのままルーシェを巻き込んで転がった。
「これで終わりよ!!」
 ダガーを振り上げる。転がされたルーシェは集中が途切れ、魔力糸は途切れてしまった。打つ手はない。
 そのまま防護魔方陣を割ろうとーー。
「ッ!!!」
 振り上げたダガーが蹴りあげられる。
 驚くセリルは、横っ腹を蹴り抜かれた。息を詰まらせながらゴロゴロと転がり、壁に激突する。
「がはっ、げほっ……!!」
 防護魔方陣の上からでも響くような一撃。それだけの武闘家は、セリルを蹴り抜いた形のままで足をぶらぶらと揺らした。
「……レム?」
 ルーシェは、自分を救ったパートナーの名前を呼ぶ。すると、レムは小さな声で答えた。
「申し訳ありません。命令もなしに」
「お前、だって……。ボクの命令もないのに、動けたのか?」
「それはもちろん。わたしも選手ですから」
「でも、じゃあ、なんでいつも反抗しないんだよ。ボクの命令に逆らったことなんか一度もないじゃないか」
「あなたを信頼していますから」
「信頼、って……。じゃあ、ボクが変な命令をしていたらどうするつもりだったんだ」
 レムはちらりとルーシェを見やり、
「わたしは自分一人で生きるのが苦手です。命じられたことをこなすことはできますが、命じられていないことを見つけることができません。あなたはわたしに命令をくれます。そこに、間違いなどありません」
「……!!」
「わたしにとって、信頼するというのはそういうことです」
「そん、なの……。知らなかった」
 よろよろと立ち上がったルーシェ。そんなルーシェを守るように、レムは二人の敵に視線を巡らせる。
「そっか、そうだったんだ」
 ルーシェは汚れたドレスの埃を払う。
「ははっ。そうか、信頼って、そういうことか」
 ルーシェの瞳に光がともる。
「じゃあ、行くよ。レム」
「はい、ご主人様マスター