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★ ★ ☆ ☆ ★ ★ 観客席にいたルーナ。放つ殺気のせいか、いつの間にやら左右の座席が空いていた。 そんな隣の席に、無遠慮に一人の少女が座る。 「ひいきの選手が負けそうだからといって、殺気を放つのはいかがなものかと思いますよ。ルーナ先生」 「何のつもりですか。オリーヴ」 そう、隣に座ったのは、ユーバのパートナー。エルフのオリーヴだっった。 「ユーバ・ガリアスは?」 「お酒でも飲んでいると思いますよ」 「女のところですか」 「彼は女遊びはしません」 「信頼しているのですね」 「ただの女性では、彼を満たすことができないというだけの事実です」 「それはそれは。さすがエルフ。高慢さは森の外でも変わらないというわけですか」 「森の民は高慢なのではありません。ただ、存在が高みにあるというだけです。あなたがたが低いのですよ、山の民」 「……口の減らない女ですね」 「お互い様です」 こほん、と咳払いし、オリーヴは続ける。 「セリル・ブラッキーとアルフォンス・スター。あなたが鍛えているそうですね」 「それが何か」 「何故です?」 「うちの生徒だからですよ。他意はありません」 「アルフォンス君の魔法……四色魔法に、合体魔法。あれは賢者の魔法ですね」 「……さすが」 「そんな彼と、セリル・ブラッキーを組み合わせるなんて。役者不足です、無駄死にしますよ」 「そうかもしれませんね」 「構わないと?」 「大きな目標を得ようとするなら、小さな犠牲は致し方ない」 「ルーナ先生。あなたは何をするつもりですか」 対するルーナの答えは、明らかだった。 「決まっています。今も昔も、わたくしは一切変わりません」 ★ ★ ☆ ☆ ★ ★ 両サイドからルーシェたちを挟む形になったアルスとセリル。 ルーシェたちからすれば、最悪の形だ。常にこうならないよう気を配り、レムの格闘とルーシェの人形を組み合わせて戦っていた。 言うなれば追い込まれた形だ。だが、それでもルーシェの顔色は晴れやかだった。 「まさか、レムが自分の意思でボクに従っているなんてさ。思ってなかったんだよ」 「ふうん。あんた、パートナーのことを信じてなかったの?」 「他人なんて信じていないよ。レムは、本当に機械みたいでさ。自分の意思なんてないと思っていたんだ」 「自分の意思を持たない奴がデュアルなんかやるわけないでしょ」 「……そりゃそうだ。ははっ、そりゃそうだ!」 ルーシェは両手に魔力を宿す。十本指。彼が使う、最大の人形劇。 「いくよ、レム。人形魔法の究極奥義だ!」 「はい」 十本指、それぞれから魔力が溢れ、レムの体を絡めとる。 レムは自分の意思を放棄し、全筋力を全てルーシェの操作に預けた。 「【無垢なる突槍】!!」 「ッ!!」 魔力量の増えたレムは、一瞬にしてセリルに迫る。レムの放つ、全魔法力を注ぎ込んだ回し蹴り。セリルはかろうじてガードするが、 「ッ!?」 ガードの上から吹っ飛ばされる。骨がミシミシと叫び、分厚い多層の防護魔方陣が一撃で砕かれる。 とんでもないパワーだ。だが、所詮は蹴りだ。 セリルはレムの足に飛びついた。そのまま叫ぶ。 「アルス!! 今!!」 「言われずとも!!」 両サイドから迫るなか、人形遣いが操作する人形はひとつだけ。 そうなれば必然、反対サイドの味方は自由に動けてしまう。そのことはルーシェにだってわかっていたはずだ。 なのに、他の人形は扱わずに、レムだけを使った。 「バカだな、お前」 「うるさい」 だからアルスも、遠慮はしなかった。 「一の太刀」 風を込めた全力スイング。 一撃でルーシェの魔力を削りきると、ルーシェはその場に倒れた。 魔力供給がなくなったレムは、途切れた操り糸を探すように泳ぎ、 「……わたしたちの敗けですね」 そう宣言した。 ★ ★ ☆ ☆ ★ ★ 選手控え室。怪我の程度が軽いレムとルーシェは、そこで着替えていた。 レムとルーシェは、体の性別は異なる。だが、二人とも一緒に着替えることについて、特に異論はなかった。 埃を払い、学生服にーー二人とも女物だーー着替えると、控え室を出た。 そこに、包帯まみれの女が立っていた。 「お疲れさま。レム、ルーシェ」 「ふん。何か用? セリル・ブラッキー」 「用事ってほどじゃないんだけどさ。どう? あなたたちは、デュアルで見つけたいものは見つけられた?」 「……」 マスターは答えず、マスターが答えないのでレムも答えない。 すると、観念したようにルーシェがため息をついた。 「何をしたいんだよ、あんたら」 「たいしたことじゃないわ。私も、もちろんデュアルなんだから勝つためにやるんだけどさ。それだけじゃなく、戦った相手にも楽しんで貰いたいのよ」 「対戦相手の慰めまでしようって? 冗談じゃないね。ボクらに他の人間は必要ない。ボクにはレムだけいればいい」 「わたしも同じです。わたしたちの世界にはわたしたちだけで十分ですから」 「ふうん。ま、それはそれでいいんじゃない? やりたいことをやる。それがデュアルってものでしょう」 「じゃあ、もうボクらに構わないでくれるかな」 「でもさ」 セリルの声に、二人は足を止めた。 「あなたたちに他の世界は必要なくても、いつか他の世界はあなたたちを必要とするかもしれない」 「こっちが助けて貰うことはないのに、連中を助けてやれっていうのか? ボクを蔑んだ連中を?」 「そんなことは言わないわ。嫌いな連中を助けるなんて無理でしょ。でも、全員があなたたちの敵じゃない。デュアルで強いってそういうことでしょ」 「はん。ボクらは負けたのさ。勝ったのはお前たちだ。だから、規則を決めるのはお前たちだよ」 「だから言ってるんじゃない。試合が終わったら水に流して仲良くやりましょ」 手を出すセリルに、ルーシェは鼻を鳴らした。 「ボクが男として生きられなかった時、一緒にいてくれたのはレムだけだ。今さら水になんて流せるものか。行くぞ、レム」 「はい」 機械じみたドラゴニュートと傷ついた人形遣いは、そのまま廊下を行ってしまった。 残されたセリルはズキズキと痛む腕をさすりながら、ひとりごちる。 「なかなかうまくいかないものね」 |