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 観客席にいたルーナ。放つ殺気のせいか、いつの間にやら左右の座席が空いていた。
 そんな隣の席に、無遠慮に一人の少女が座る。
「ひいきの選手が負けそうだからといって、殺気を放つのはいかがなものかと思いますよ。ルーナ先生」
「何のつもりですか。オリーヴ」
 そう、隣に座ったのは、ユーバのパートナー。エルフのオリーヴだっった。
「ユーバ・ガリアスは?」
「お酒でも飲んでいると思いますよ」
「女のところですか」
「彼は女遊びはしません」
「信頼しているのですね」
「ただの女性では、彼を満たすことができないというだけの事実です」
「それはそれは。さすがエルフ。高慢さは森の外でも変わらないというわけですか」
「森の民は高慢なのではありません。ただ、存在が高みにあるというだけです。あなたがたが低いのですよ、山の民」
「……口の減らない女ですね」
「お互い様です」
 こほん、と咳払いし、オリーヴは続ける。
「セリル・ブラッキーとアルフォンス・スター。あなたが鍛えているそうですね」
「それが何か」
「何故です?」
「うちの生徒だからですよ。他意はありません」
「アルフォンス君の魔法……四色魔法に、合体魔法。あれは賢者の魔法ですね」
「……さすが」
「そんな彼と、セリル・ブラッキーを組み合わせるなんて。役者不足です、無駄死にしますよ」
「そうかもしれませんね」
「構わないと?」
「大きな目標を得ようとするなら、小さな犠牲は致し方ない」
「ルーナ先生。あなたは何をするつもりですか」
 対するルーナの答えは、明らかだった。
「決まっています。今も昔も、わたくしは一切変わりません」

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 両サイドからルーシェたちを挟む形になったアルスとセリル。
 ルーシェたちからすれば、最悪の形だ。常にこうならないよう気を配り、レムの格闘とルーシェの人形を組み合わせて戦っていた。
 言うなれば追い込まれた形だ。だが、それでもルーシェの顔色は晴れやかだった。
「まさか、レムが自分の意思でボクに従っているなんてさ。思ってなかったんだよ」
「ふうん。あんた、パートナーのことを信じてなかったの?」
「他人なんて信じていないよ。レムは、本当に機械みたいでさ。自分の意思なんてないと思っていたんだ」
「自分の意思を持たない奴がデュアルなんかやるわけないでしょ」
「……そりゃそうだ。ははっ、そりゃそうだ!」
 ルーシェは両手に魔力を宿す。十本指。彼が使う、最大の人形劇。
「いくよ、レム。人形魔法パペットマジックの究極奥義だ!」
「はい」
 十本指、それぞれから魔力が溢れ、レムの体を絡めとる。
 レムは自分の意思を放棄し、全筋力を全てルーシェの操作に預けた。
「【無垢なる突槍ディバインスピア】!!」
「ッ!!」
 魔力量の増えたレムは、一瞬にしてセリルに迫る。レムの放つ、全魔法力を注ぎ込んだ回し蹴り。セリルはかろうじてガードするが、
「ッ!?」
 ガードの上から吹っ飛ばされる。骨がミシミシと叫び、分厚い多層の防護魔方陣が一撃で砕かれる。
 とんでもないパワーだ。だが、所詮は蹴りだ。
 セリルはレムの足に飛びついた。そのまま叫ぶ。
「アルス!! 今!!」
「言われずとも!!」
 両サイドから迫るなか、人形遣いが操作する人形はひとつだけ。
 そうなれば必然、反対サイドの味方は自由に動けてしまう。そのことはルーシェにだってわかっていたはずだ。
 なのに、他の人形は扱わずに、レムだけを使った。
「バカだな、お前」
「うるさい」
 だからアルスも、遠慮はしなかった。
「一の太刀」
 風を込めた全力スイング。
 一撃でルーシェの魔力を削りきると、ルーシェはその場に倒れた。
 魔力供給がなくなったレムは、途切れた操り糸を探すように泳ぎ、
「……わたしたちの敗けですね」
 そう宣言した。

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 選手控え室。怪我の程度が軽いレムとルーシェは、そこで着替えていた。
 レムとルーシェは、体の性別は異なる。だが、二人とも一緒に着替えることについて、特に異論はなかった。
 埃を払い、学生服にーー二人とも女物だーー着替えると、控え室を出た。
 そこに、包帯まみれの女が立っていた。
「お疲れさま。レム、ルーシェ」
「ふん。何か用? セリル・ブラッキー」
「用事ってほどじゃないんだけどさ。どう? あなたたちは、デュアルで見つけたいものは見つけられた?」
「……」
 マスターは答えず、マスターが答えないのでレムも答えない。
 すると、観念したようにルーシェがため息をついた。
「何をしたいんだよ、あんたら」
「たいしたことじゃないわ。私も、もちろんデュアルなんだから勝つためにやるんだけどさ。それだけじゃなく、戦った相手にも楽しんで貰いたいのよ」
「対戦相手の慰めケアまでしようって? 冗談じゃないね。ボクらに他の人間は必要ない。ボクにはレムだけいればいい」
「わたしも同じです。わたしたちの世界にはわたしたちだけで十分ですから」
「ふうん。ま、それはそれでいいんじゃない? やりたいことをやる。それがデュアルってものでしょう」
「じゃあ、もうボクらに構わないでくれるかな」
「でもさ」
 セリルの声に、二人は足を止めた。
「あなたたちに他の世界は必要なくても、いつか他の世界はあなたたちを必要とするかもしれない」
「こっちが助けて貰うことはないのに、連中を助けてやれっていうのか? ボクを蔑んだ連中を?」
「そんなことは言わないわ。嫌いな連中を助けるなんて無理でしょ。でも、全員があなたたちの敵じゃない。デュアルで強いってそういうことでしょ」
「はん。ボクらは負けたのさ。勝ったのはお前たちだ。だから、規則を決めるのはお前たちだよ」
「だから言ってるんじゃない。試合が終わったら水に流して仲良くやりましょ」
 手を出すセリルに、ルーシェは鼻を鳴らした。
「ボクが男として生きられなかった時、一緒にいてくれたのはレムだけだ。今さら水になんて流せるものか。行くぞ、レム」
「はい」
 機械じみたドラゴニュートと傷ついた人形遣いは、そのまま廊下を行ってしまった。
 残されたセリルはズキズキと痛む腕をさすりながら、ひとりごちる。
「なかなかうまくいかないものね」