ユーバ・ガリアスという男は、生まれながらに勇者だった。
 伝説の勇者、その孫。母親は勇者の血筋を引いてはいたが、戦いからは距離を置いた性格をしていた。もちろん、魔物ごときは一蹴できる力を持っていたが、軍に所属するわけでもデュアルをやるわけでもなく、ごく普通の女性として過ごした。
 一方でユーバは、母親とは正反対の性格をしていた。
 己の力を知り、その力を使うことに対して躊躇しなかった。他人を傷つけることを厭わず、当たり前のように欲しいものは力で手に入れてきた。
 だが、そんな彼だからだろうか。退屈だった。
 手に入らないものなどない。彼にとっては全てがそういうもので、持っていないものはただ他人に預けているだけのものだった。
 いつでも望めば手に入る程度のもの。そんなものは輝きもしない。
 桁が違いすぎる彼は、他人と歩調を合わせる必要もない。自然とひとりぼっちだったが、望むこともなかった。
 学校に通ったところで、何も面白いことなどない。学校の勉強など彼には意味がなく、どんなスポーツも、初めてルールを知った日に頂点まで立ててしまった。
 先輩(ただ年齢が上というだけの雑魚)は相手にもならず、球技だろうが格闘技だろうが、勝負にならない。生まれ持ったアジリティと筋肉やバネといった身体能力は、どんなスポーツでも彼に頂点を約束していた。
 魔力を制限してさえ勝負にならず、全力を尽くす相手が見つからない日々。
 そんな彼のもとにオリーヴ・キュリーが現れたのは、魔法学校に入学して半年ほど経過した頃だ。

『あなた、つまらないわね』

 初対面の勇者を相手に、平然とそんなことが言える女。媚びへつらうような相手しかいなかった彼にとって、そんな女は刺激的で、魅力があった。
 オリーヴと共に過ごすようになり、彼女に誘われるままデュアルを始めた。
 もちろん、デュアルの世界でも彼の相手になる敵などいない。手練手管を尽くす相手は多かったが、相手が何人いたところでユーバが負けることなどありえない。 
 デュアルもまた、退屈な存在になりつつあった頃。アルフォンスと出会った。
 生まれて初めて、本気で攻撃できる相手。生まれて初めて、思い通りにならない相手。
 あの日から、アルフォンスはユーバにとってお気に入りのオモチャになったのだ。

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「いいぜクソガキ!!」
 足に魔力を込める。この一撃は、魔物さえも破裂させるほどのパワー。
「消し飛べ!! 【雷帝の怒声ラムウシューター】!!」
 全力のキック。アルスはその攻撃に、刀ではなく・・・・左腕を合わせた。
「【地平の巨人ジオギガント】!!」
「なにッ!?」
 いつの間にか、左腕が岩石に包まれている。鎧ではない。ゴーレムだ!
「ッ!!!」
 全力のキック。当然ゴーレム程度、消し飛ばせる威力。
 だが、砕けた岩石は主を守る。衝撃が岩によって拡散してしまい、本体まではダメージが届ききっていない。そして、僅かに生まれる隙。
「野郎ッ!!」
「【無垢なる突槍ディバインスピア】!!」
 そのまま放たれる回転蹴り。それもただの蹴りではない、全魔力を右足一本に込めた蹴撃だ。さすがのユーバもガードを強いられる。
 だが、
「ルアァァ!!」
「ッ!!」
 ガードの上から蹴り抜く。
 決して体格に優れていないアルスではあるが、全体重を蹴りに乗せられるとさすがに重い。片腕一本で防ぎきれない。
「ちっ!!」
 体勢を崩したところで一回転。
「二の太刀!!」
 地と風の入り交じったスピードとパワーの斬撃。それを上から叩きつける。ユーバもまた、手刀で応戦する。
 みしみしと刀が悲鳴をあげるが、ヒヒイロカネで作られたドワーフの一刀は砕けない。
「勇者舐めんなクソガキがァ!!」
 だが、ユーバ・ガリアスはその程度で押しきられはしない。
 腕一本でギリギリ拮抗させると、左腕でアルスを弾く。地面を転がったアルスは、勢いそのまま跳びはねていく。
「……ちっ」
 ゴーレム魔法に、蹴りに魔力を乗せる技術。
 どれもこれも、今までの彼には見られなかった戦闘スタイルだ。この全国大会で、他のプレイヤーが放った技だ。
 練習していたのか? そんなはずはない。それほどの時間はない。
「野郎……」
 覚えやがったのだ。今、この場で。
 今のままでもユーバには届かないと悟って。今この場で進化しなければ死んでしまうという危機感に煽られて。
 そう、彼は進化する・・・・。戦うほどに、追い詰めるほどに。
「はッ!!」
 そうこなくっちゃ。
 今までのプレイヤーは、誰も彼も腑抜けばかりだった。ユーバ・ガリアス相手と聞いて怖じ気づく者、あわよくばと期待を抱いては砕かれる者。
 誰も彼もが、本気でユーバに勝てると思っていたわけじゃない。それは一種の夢であり、まるで宝くじが当たるかどうかといった気持ちで戦いに望んできた。
 だが、この少年は違う。
 本気でユーバ相手に勝とうとしている。ユーバを一人のプレイヤーとして認識している。
 対等な相手としてユーバを見ているのだ。
「面白ぇな!! クソガキよぉ!!」
 そんな相手がいるなんて思っていなかった。
 世界はもっと退屈で、つまらない世界が自分をつまらなくさせていると思い込んでいた。
 違うのだ。世界には、まだまだ自分の知らない相手がいる。
 生まれて初めて、ユーバは呼吸ができた気がした。