ユーバの反射神経は異常だ。そのうえ、圧倒的な破壊力を持っている。
 こちらの攻撃は全てかわし、相手の攻撃は全てが一撃必殺。クソゲーそのものだ。
 周囲がレベル30くらいの世界なら、彼一人がレベル100に達しているようなものだ。敵うとか敵わないとか、そういう議論にはならない。
 それでも。
「勝ちてえんだろ」
 それだけが望み。それだけが目的。
 勝利。それだけが!!
「勝たなきゃ意味ねえだろうがよッ!!」
 刀を低く、体を低く。
 大きな体を持つ敵に対し、体格の小ささを利用した突進。的が小さくなることで、相手の蹴りも当たりにくい。
 一撃一撃に躊躇はなく、全力でフルスイングしていく。ジャブ程度で揺らぐ相手ではない、なら、フルスイングを重ねていくしかない。
 当然こちらの隙も大きくなるが、彼は隙を突くような真似をしなかった。全力の攻撃は全力で受け止める。相手の攻撃はモーションが大きく、受けることもかわすこともギリギリ間に合った。
 遠慮している? そんなわけない。
 躊躇している? そんな男じゃない。
 そう、彼は楽しいのだ。殴り合いが、斬り合いが、どこまでも楽しくって仕方ないのだ。
「よう、クソガキ!! お前はどんどん強くなりやがるな!!」
「だからどうした!?」
「いいことだぜ!! 強くならなきゃ存在価値はねえ!! 戦いなんてのはそういうもんだ!! 生き残った奴が全てさ!!」
「あんたは気に入らないけど!! そいつは同感だ!!」
 勝つ努力なんてのは当たり前の話だ。死なないために、死ぬほど努力しているというだけの話だ。
 勝利という結果は、全国でただ一組しか得られない。だからこそ、戦いに挑む姿勢がなどとのたまうのだ。
 そんなはずがない。勝敗のつく戦いなのだから。ましてやデュアルは、闘争だ。
 敗者は死者だ。あらゆるものを蹂躙され、あらゆるものを奪われる。
 勝ったただ一組だけが存在意義を持つ。デュアルとは、そういう競技なのだ。
 そして、そんな競技に飛び込んだ以上。
「勝つことが、全てだろうがよッ!!」
「当然だぜ小僧!!」
 拳と刀が激突し、火花を散らす。
『両者激突! 激突! 激突ぅ!! ラッシュが止まらない!! とんでもないパワーとスピードです!! 実況挟む余裕もないぞー!!』
 ユーバは圧倒的なスピードと反射神経がある。そんな彼に挑むため、アルスが取った選択肢はーー離れないこと。
 全力勝負の接近戦インファイト。距離を開いたところで、ユーバは見てから反応できる。ならば最初から、見にくいほどに近い位置で殴り合うしか方法がない。
『前半残り1ミニ!! このまま膠着するかー!?』
 実況の越えに、アルスは覚悟を決めた。
 ここまで全力疾走してきた。魔力残量なんて気にも留めなかった。結果、このまま後半戦になだれ込んだところで、体力も魔力も持たないだろう。
 今、この場でやるしかない!
「この1ミニ、全力だッ!!」
 突撃!
 刀で相手を崩していては、最大の攻撃が間に合わない。さっきから攻めきれないのはそういうことだ。
 全力の太刀を打ち込む瞬間は、ほんの僅かとはいえ溜める時間が必要だ。相手を崩すために自分もスイングした後では、それだけの時間が稼げない。
 ならば方法はーーひとつ!
「拳で勝負!!」
「はんッ!! 良い度胸じゃねえかクソガキ!!」
 ユーバは嬉しそうに拳で受ける。
 だが、体重の軽いアルスがどれだけ全力で拳を打ち込んでも、ユーバを崩すには至らない。
 そう、ただ殴っただけでは駄目なのだ。ならば。
「ッ!!」
 拳と拳がぶつかる一瞬。その一瞬でーー自分に突風をぶつける。
 ただし、方向は真逆。ユーバから離れる方へ!
「ッ!?」
 全力の拳。その拳が当たる瞬間にすかされたのだ。ユーバ自身の余りあるパワーは拳に乗っている。
 自分のパワーで足りないならば……!!
「お前のパワーならどうよ!?」
「テメエッ!?」
 ユーバの放つ全力の拳。その腕をひっつかみ、ぶん投げる。
 合気の技だ。もちろん超反射を持つユーバは、アルスが投げようとする瞬間に反応し、技から逃れようと動いている。
 前に投げる力と、超反射で逃げようとする力。二つの力は正反対で、そんな力をぶつけたユーバの体は一瞬だけだが止まるしかない・・・・・・・
 見てから反応できてしまう反射神経の仇。普通の人間なら投げられていたし、その方が回避にも防御にも繋げられた。ユーバだからこそ、致命的な隙を作ってしまった。
「四の太刀!!」
 その一瞬。ほんの一瞬が、アルスが欲した時間。

「光輝燦然!!」

 全力を込めた光の剣。硬直したユーバは、その斬撃をもろに受け止めることになった。

「っぁああああああああああああ!!!」
 
 ここで決める。その勢いを持つアルスと、絶対にやらせないというユーバの意思。
 二つの気持ちがぶつかり、混ざり、弾け飛んだ。
 光となった魔力がちりちりと消えていく。アルスの手から刀が滑り落ち、カランと音を立てて転がった。
「はん、魔力切れか」
 全魔力を使い果たし、アルスはその場に倒れた。魔力を使いすぎて気を失ったのだ。
「やるじゃねえか」
 ユーバは懐から魔力珠を取り出す。試合前に込めたはずの魔力は、防護障壁に消費され、欠片も残っていなかった。
『なんと! なんと!? なんとぉぉぉ!? あのユーバ・ガリアス選手が!! 敗北、ですッ!!』
 わあああああああああ! と歓声が響く。
 ユーバは余ったパワーで魔力珠を握りしめ、そのまま砕いた。バリンと割れた石の破片と共に、血がたらたらと垂れていく。
「いいぜ、クソガキ。そうこなくっちゃな」
 ユーバが笑った瞬間、前半終了の笛がなった。