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決勝戦翌日。久しぶりに部室へ行くと、今日は誰もいなかった。 とはいえ他に行くところもないアルフォンスは、たまにはと刀の手入れを始めた。 あれだけ無茶な扱いをしたというに、刃こぼれひとつない刀。さすがにドワーフの技巧というのは目に見えないところで完璧だ。 そうして時間を過ごしていると、廊下がやけに騒がしくなってきた。 「……?」 またぞろ、ろくでもない奴が現れたのだろうか。アルスは刀をテーブルに置き、廊下に顔を出した。 「げっ!?」 そこにいたのは、いるはずのない人物。 「よう、クソガキ。そこか」 邪悪なる勇者。ユーバ・ガリアス。 かたわらには、パートナーのオリーヴ・キュリーもいる。 「クソガキ。セリル・ブラッキーはどこだ」 「今日はいないよ」 「じゃあルーナ・ディルアーガは」 「先生? 見ていないけど」 「いつから会っていない」 「いつって……。そういえば、お前と戦った後から会ってないけど」 「ちっ、決まりか。オリーヴ、連中はどこにいる」 「知らないわ」 当たり前のように次へと移るユーバに、さすがのアルスもかちんときた。 「おい、ユーバ。そもそもお前はうちの生徒じゃないだろ。なんでこんなところにいるんだ」 「あぁ? ……おい、クソガキ。セリル・ブラッキーの種族を知っているか」 「種族?」 そういえば、そんな話はしたことがない。 「ヒューマンじゃねえの?」 「そういう反応だろうな。……ここはお前の部室か。貸せ」 部室の中に押し入ったユーバは、アルスをにらむ。 「オリーヴ。セリルもルーナも魔族、間違いねえな?」 「そうね」 ごく自然に答えるものだから、理解に時間がかかった。 「魔族? って、魔王の一族?」 「そうだ」 魔族。正確には、そういう名前の種族は存在しない。 魔王に付き従った一族を、便宜的に魔族と呼んでいる。エルフやドワーフは魔王と敵対する道を選んだが、そうではない道を選んだ者も多い。 高い魔力を持つ実力主義のサタン族。 褐色の肌と生け贄の風習を持っていたダークエルフ族。 破壊の本能を持つトロール族。 誰も彼も、ヒューマンをはじめとする人間たちとは仲良くなれなかった種族だ。魔王は、そんな彼らの旗頭だった。 「魔王は魔なる者の王。サタンをはじめとする魔族の連中は、どいつもこいつも高い魔力を持っていた。そのせいか、実力主義な連中が多くて、弱いやつは殺せってのが流儀だ。まあ、俺様だってその考えに反対するわけじゃねえが」 「やがて、考えの違いから全面戦争に至ったと言われている。そんな魔王を倒すべきと各国が兵を送ろうとしたけれど、魔物に阻まれてしまった」 「そのへんは、今もよくわかってないって話だけど」 「本当はわかっているわ。エルフや古豪は皆理由を知っている。けど、意味がないから言わないだけ」 オリーヴは静かに言う。 「魔王の魔力は特別なの。彼女の魔力は周囲の生物を変質させ、凶暴化させる。生存本能より破壊衝動が強くなってしまう。魔力が強い者ほど、魔王の魔力には抗えない。サタンもトロールも一部のエルフも、それゆえに魔族となった」 「魔王の因子ってわけだ。だが、ヒューマンにその事実は知らせてねえ。なぜって、意味がねえからだ」 「それは、なぜ?」 「魔王の因子は消えねえからだ」 魔王の因子は、存在するだけで周囲を惑わせる。 だが、魔王の因子そのものは何をどうしようとも滅ぼすことができない。どこかの生物の中で眠り、時を経て目覚める。 因子を持つ者を殺したところで、魔王の因子は別の肉体に宿るだけ。どこに行くかもわからなくなる。だからこそ、エルフたちは魔王を倒すことに対して消極的だった。 どこに行くかわからぬ状態にするよりは、膠着し、わかりきった場所にあった方が管理しやすいからだ。 そして、ヒューマンにはその事実を知らせなかった。さながら、子供に詳しい説明をしない大人のような気分で。 ところが、そのせいでヒューマンは暴走してしまった。 「魔王を討伐するなんてヒューマンが言い始めた。そして、実際にそれが可能な存在を作っちまった」 最強の生物兵器。勇者だ。 「勇者は実際に魔王を殺しちまった。魔王の因子はよそに移った。その因子を持っているやつが誰か、わかったな?」 「……まさか」 「そうだ。セリル・ブラッキーは、魔王だ」 ★ ★ ☆ ☆ ★ ★ 長い階段を降りきった空間は、暗闇に包まれていた。ランタンの明かりがなければ、自分の手元さえも見ることはできない。 そんな暗闇の中でも、ルーナは迷わず歩く。コツコツと靴を鳴らし、突き当たりまで。 そこにあったのは扉だ。闇のせいで見ることはできないが、実際には豪奢な装飾がなされた扉が存在している。高さは7メートほどもあり、扉の厚みは1メート以上という重厚なしつらえだ。 「この装飾は魔術紋様。それそのものが意味のある魔法のような存在です。そして、これは中身を封印するためのもの」 「じゃあ、この中に」 セリルの問いかけに、ルーナは頷く。 「あなたなら、この扉を開くことが可能です」 「魔王なら、ね」 「そういうことです」 魔王の因子は特別だ。他の魔力存在に対して介入する力を持っている。相手の魔力を強くすることも弱くすることも思いのまま。 それは魔術紋様に対しても同様。言うなれば、魔王の前では封印など意味がないのだ。 セリルはそっと紋様をなでる。すると、扉は音も立てずに開いていく。 開ききった先は倉庫のような空間だ。だだっぴろい場所に鎮座しているものは、たったのひとつだけ。 「これを封じるためだけに、この学院は作られました」 その存在は、人間の国家には決してあってはならないものだった。 魔王の遺産。ゆえにこそ、厳重に封じる必要を迫られた。地下深くに封印階を作り、魔力濃度を薄め、誤作動はなんとしても防ぐようにした。 そして、その場所を決して知られることがないように、上に建物を作り上げ、魔法学校にしてしまった。誰も魔法学校の地下に魔王の遺産があるとは思わない。 オニクス魔術学院は決して特色がない。学校としての特色など必要ない。 学校という存在はただの隠れ蓑。魔王の遺産という”鬼”を隠すためだけの場所。 「さあ、陛下。彼を起動させましょう」 そこに眠っているのは、魔王時代、その城を守り続けた究極の兵器。 伝説の勇者をして、停止はできても破壊はできなかった怪物。 「この破壊兵器が世界を変えてくれますよ」 |