アルスはユーバやオリーヴと共に、街角を走り抜けていた。
 すでに人通りはない。みんなが避難しているのだ。
 とはいえ、一歩で学院から通りの向こう側までジャンプできてしまう存在。人間の足で逃げたところで、どれほど意味があるか。
「ちっ、ラチがあかねえ。上に行くぞ」
 ユーバを先頭に、民家の屋根へと飛び上がる。
 キラーマシンの姿は、遠くからでも見えていた。
「いっ!?」
 ちょうど、キラーマシンが軍用ガトリングを持ち上げた瞬間だった。
 ガトリングは地面に叩きつけられ、へし折れる。
「あいつ、スピードだけじゃなくてパワーもあるのか……!!」
「勇者でも壊せねえって判断するような相手だぞ。そのくらい当たり前だ」
「本来なら、あれを破壊するよりは魔力供給源を破壊する方が早い。要するに、魔王を暗殺すべきなのだけど……。あれでは無理ね」
 オリーヴは目を細める。その先に、キラーマシンが鎮座していた。
「魔王がコアユニットに融合している。魔王を殺すにはキラーマシンを破壊しないといけない」
「で、そのキラーマシンが壊せねえ、と。んだよそれ、詰んでるじゃねえか」
「だからそう言っているのよ。どうする、ユーバ?」
「……人手が必要だな」
「人手?」
 ユーバはごきりと指を鳴らす。
「ジジイがあいつのコアユニットをぶち抜けなかったのは、賢者と二人じゃ防護魔方陣を抜ききれねえからだ。最低5人は使える魔法使いがいなきゃ話にならねえ」
「それだけでは駄目よ」
「あぁ? なんでだ」
「防護魔方陣は1枚2枚と壊しても、他の魔方陣が生きている限りすぐに復活してしまう。あの多層魔方陣を破壊するつもりなら、一息に破壊しなければいけない」
「一撃だと!?」
「そうよ。しかも防護魔方陣はそれぞれ特色がある。炎に強いもの、魔法全般に強いものといった具合に。一色では落とされないようにしている工夫。だから、複数の魔法を同時に・・・当てられないといけない」
「けっ、無理か……。こりゃ諦めた方が早そうだな」
 そうは言いつつも、ユーバの瞳に宿る闘志は消えていない。
 彼もまた、性格に難はあれどーー勇者なのだ。
「おい、アルフォンス。なんか手立てはねえか」
「お、おれ?」
「お前は俺様を倒した男だろうが。まさかこんなところで尻尾巻いて逃げる気か?」
 ガッ、と首根っこをつかみ、ユーバは迫る。
「いいか、クソガキ。俺たちは何だ? デュアリストだ。デュアルってのはな、勝利以外に価値はねえんだよ。頑張りましたなんてクソみてえな理屈はいらねえんだ」
 結果が全て。
 敗北は死。
「あの化物をぶち壊さなきゃ、この国は終わる。勝つしかねえんだ。クソガキ、お前も勝負の世界に飛び込んだんだろうが! んなら勝つ以外のことなんか考えんじゃねえ!!」
「……はん」
 アルスはユーバの手を取り、強引にひっぺがす。
「言われずとも。おれは、最強だよ」
 そうだ、何をビビっているのだ。
 死ぬかもとか、勝てるはずがないとか、そんなことは理由にならない。
 勝つしかないのだから。それ以外の全ては、今は忘れろ!!
「ユーバ、オリーヴ。手を貸せ。おれが、あいつをなんとかする」
「根性論なんかいらねえぞ。具体的な勝算を言え」
「オリーヴ、あんたならみんなの居場所、わかるか」
「みんな?」
 ああ、と頷き、アルスは続ける。
「全国大会で戦ったみんなだ」

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 人形遣いルーシェ・リーパーは、パートナーのレムに抱きかかえられ、街角を走り抜けていた。
「レム、とにかく国外に逃げよう」
「承知しました」
 レムは余計なことを言わない。そんなところもまた、ルーシェが気に入っているところだ。
 そうやって通りを走って行くと、違う通りから人の走る足音が聞こえてきた。
「ん? あれは……」
 路地を抜けた先。三叉路の合流地点。
 そこで、ばったりと出くわした相手は、女が二人。
「……あんたらは確か、ハルト・キッスとリン・シャン」
「あんたは、大会に出ていた人形師か」
 全国大会に出ていたデュアリスト。その二人も避難している様子だ。
「あんたたちは二人だけか」
「まあな。他の男連中はさっさと逃げちまいやがって」
 ルーシェにとって、他人とは利用するものがせいぜいだ。他人を信用していないので、出会った二人も、なにかに利用できるかどうかを検討するだけに過ぎない。
 だが、純然たるキャノンタイプのリン・シャンは、すでに息も切れていた。
「さっき軍部もやられてた。攻撃しても、あいつはビクともしてない。逃げるしかないとはいえ、リンを置いていくなんて……。これだから男どもは……」
「だ、大丈夫、だよ……」
「いや、少し休もう。無理に走っても、見つかった時に走れない方がまずい」
 ルーシェは冷静に二人を確認する。
 ハルト・キッスはまだ体力に余裕がありそうだ。普段からゴーレムをまとって戦うような、ふざけた戦闘スタイルをしているせいだろう。体力や筋力は女子のそれではなく、男子と比べてもまったく負けない。
 リン・シャンはすでに体力が尽きている様子だが、彼女はあくまで魔法で相手を破壊するのが主。あの怪物と遭遇した時、大魔法で足止めになるかもしれない。
「……」
 ルーシェの魔法はあくまで人形操作が基本。だが、すでに操られているものを操ることは難しい。
 あれは遠くから見ただけだが、金属のゴーレムみたいに見えた。ゴーレムということは、操作している魔法使いがいるということだ。それを逆操作することは、ルーシェの人形遣いスキルを使用しても難しい。
 加えて、ルーシェのパートナーはあくまで格闘主体のレムだ。彼女は遠距離攻撃する魔法も使えなくはないが、基本的に接近して相手を蹴り飛ばすのが得意なタイプ。あの巨大ゴーレムとは相性が悪い。
 今は遠くにいるから問題ないが、あいつの跳躍力を見る限り、いつ目の前に現れてもおかしくない。そのために、この二人は何か利用できるかも……。
 ルーシェがそんな算段をつけた時、空から人が飛び降りてきた。
「っ!?」
「見つけた!!」
 アルフォンス・スター。
 ユーバ・ガリアス。
 オリーヴ・キュリー。
 全国決勝クラスの三人が、なぜだか空から降ってきたのだ。
「ちょうど四人ともいるじゃん! 力を貸してくれ!」
「は?」
「あの怪物を、ぶっ壊すんだ!」
「はぁ? 嫌だよ」
 さらりと答えるルーシェ。だが、アルスは引かない。
「頼むよルーシェ、あいつを壊さないと、セリルが助け出せないんだ」
「あぁ? セリル・ブラッキー?」
「セリルはキラーマシンのコアにされてやがる。たぶん意識をキラーマシンに移してやがるな。水晶体を破壊しないとセリルは目を覚まさねえだろう」
「……人形転移か。人形遣いのスキルじゃん、なんでそんなことになってんだよ」
「知るか。お前は人形遣いだろ、手を貸せ」
「だから、嫌だって。なんで危険な目に遭ってまで、セリル・ブラッキーを助けないといけないのさ」
「デュアリストだから」
 その答えを、すでにアルスは持っていた。
「勝てるとか危険とか、デュアルってそういうもんじゃないだろ」
「これはデュアルじゃない、戦闘だよ」
「同じさ。戦いなんだから」
「……屁理屈だ」
 ルーシェは、レムを見上げる。
「レム、君の意見は?」
「マスターのご命令があれば」
「うん、君はそうだよね」
 ルーシェは肩をすくめる。
「とにかく、ボクらには戦う理由がない。何人死のうが、ボクたちには関係がない」
「あの街を見ても、そう言えたのか?」
「……」
 ここまで逃げてきた。町並みはすでに変わっている。
 今も、どこかで破壊音が響いている。
「お前も人形遣いならわかるだろ。作るのは大変だ。でも壊すのは一瞬だ。あいつは、何もかもを壊そうとしているんだぞ」
「……」
 何もかもを。
 壊す。
 そう、彼らのように。
「……レム。ボクを守れ」
「了解です、ご主人様マイマスター
 ルーシェは破壊された町並みを思い浮かべ、そして、今も続く破砕音に耳をすませた。
「関係ない、か。関わるかどうかは、自分が決めることか」
 それは、デュアルを始めた時と同じ。
「報酬は貰うぞ、アルフォンス」
「ああ! 頼むよ、ルーシェ!」