キラーマシンが都を蹂躙していく姿。
 公民館を粉砕し、商店を蹴り飛ばし、国王の銅像が空を飛ぶ。
 ずっと見たかった光景を前に、ルーナはいつも通りの無表情。
「……」
 魔族として生まれた。
 生まれた時点ですでに魔王は亡く、両親からは魔王復活だけを教えられて生きてきた。
 魔族にとって、魔王という存在は特別だ。彼がいたから、バラバラの集団がひとつにまとまっていた。
 バラけた組織など、なんの力もない。
 両親は、ルーナを”魔王に仕える存在”として育ててきた。セリルが生まれ、彼女が魔王の因子を持っていることが発覚してからは、その因子を隠しながらお守りするよう命じられた。
 今度こそ、勇者などに阻まれないように。セリルが育ち、キラーマシンを完成させ、人間どもを駆逐できるようになる日まで。
 そんな彼女に戦闘訓練を施すため、デュアル部を作った。セリルもまた、戦闘訓練を真面目にこなした。
 魔王の因子を隠すための封印術が強く、戦績はパッとしなかったが、それでも彼女は楽しそうだった。
 十分に彼女の魔力も育ち、肉体も作られた。本当なら今年の初頭には作戦を決行できたのだ。
 だが、彼女が生まれて初めて、ワガママを口にした。

『全国大会で負けるまで、待ってくれない?』

 ルーナはその願いを了承した。
 セリルの精神状況はキラーマシンの精度に影響するし、確かにセト・シアンの弟子を見たいという気持ちもあったから。
 そして、それは終わった。もうこの国に未練はない。
「皆殺しです」
 人間など。ヒューマンなど、エルフなど、ドワーフなど、ビーストなど、みんな死んでしまえばいい。
 魔族を敵視し、差別を始めたのはお前たちなのだ。そのお前たちを皆殺しにして、何が悪いというのだ。
 風が吹き、ルーナのスカートが少し舞い上がる。ちらりと見えた足元には、消えない傷跡が残っている。
 彼女は常にメイド服だ。全身を布地で覆っているので、服の下にあるおぞましいものは決して見えない。
 だが、その傷は、そこにあるのだ。
 魔族として生まれ、魔族として生き、とうとうその出生すら隠さねばならなくなった。彼女にとって、この光景は悲願なのだ。
 それで、どれほどの命が失われることになろうとも。
「そろそろでしょうか、魔王陛下」
 ルーナに呼応するように、キラーマシンの振り上げた剣が民家を粉砕した。

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 頼みの綱であるガトリングを破壊された軍は、撤退を余儀なくされていた。
 もともと国外の魔物から防衛することが主な任務の軍にとって、市街戦は想定していない事態だ。ましてや、市街で巨大な怪物を倒す訓練など、一度も想定したことがない。
 逃げるのが精一杯なのだ。
「くっ……!」
 キャロ・メカクスは仲間たちと路地を駆け抜ける。と、大通りで見知った顔を見つけた。
「アルス君! 逃げて!」
 アルフォンス・スターを始めとするデュアリストが、揃いも揃って大通りに待ち構えていたのだ。
 アルスはいつもの刀を手に握り、
「逃げないよ」
 ただ、そう答えた。
「あいつはおれたちが止めます。皆さんは避難誘導をお願いします」
「はぁ!? 止められるわけないでしょう、これはデュアルじゃない!!」
「わかってる!! でも、やんなきゃなんないんだ!!」
 アルスは巨大な敵を見据える。
「あいつを壊さなきゃ、セリルを助け出せない……!!」
「っ!!」
 セリルはキラーマシンの胸元に格納されている。それはキャロも確認済みだ。
 彼女を助け出したいのであれば、防護魔方陣を全て破壊し、コアユニットを粉砕する必要があるのだ。
 確かに、そこまでやればキラーマシンは機能不全に陥るだろう。おまけに彼女も助けられる。
 だが、それができるようなら苦労はしない。
「ちょっと、あなたたちも! 早く逃げなさいよ!!」
「はん。誰に命令してんだ」
「……ユーバが戦うなら」
「セリル・ブラッキーが捕らわれているとなっちゃね。あいつに借りを返す良い機会だ」
「正直、もう走るの疲れちゃって……」
「マスターのご命令があれば」
 それぞれがそれぞれ、戦う理由を持っていた。
 ただ一人、戦う理由がないのは、ルーシェ・リーパーだけ。
「……まあ、ボクはあいつが死のうが何しようが関係ないんだけどさ」
 ルーシェは軍人をにらみ、
「人間は嫌いだし、あいつも嫌いだ。だけど、都が壊れたら困るは困る。それに、ただ破壊される様ってのは……。どうにも、綺麗じゃないんだよ」
「そんなこといいから、逃げないと死ぬのよ!?」
「けっ。死ぬことが怖くてデュアリストなんかやってられっか?」
 勇者はいつも通り、自分のことだけを考えて動く。
 勇者とはそういう存在だ。自分が正しいと思う道を、思うがままに走り抜ける存在。
「おい、クソガキ!! テメエが鍵なんだ!! あいつを完全に壊しきるのは無理だ、セリルを起こさねえとどうにもなんねえんだぞ!!」
「わかってるよ!!」
「他の連中は足止めだ!! クソガキを投げ込む一瞬を作るぞ!!」
「お前が指図すんなー!!」
「本当にね」
「るせえ、位置につけ!!」
 ハルトは大通りを走り、それ以外のメンバーは近くにある最も高い建物へと飛び上がっていく。
「なんなのよ、あの子たち……」
 それを、軍人たちは止めることもできなかった。