「ど、どうしよう」
 死体を前に言う私に、カナタはあきれた様子で返す。
「どうしようもないわ。この死体を持って帰るわけにもいかないし」
 確かに、異世界で死体を見つけましたと警察に言っても、信じてはくれないだろう。なまじ死体という証拠があるだけに、余計なことを招くのは確実。
 かわいそうだけど、置いていくしかない。
「ん?」
 少し離れたところに、ボロボロになったリュックが落ちていた。死体の具合と比べるとまだ無事なようにも見える。
 カナタはリュックを手に取ると、中を開いた。半年前に賞味期限の切れた携帯食料、着替え、雨具、それにカメラと手帳。
 カメラはスイッチを入れてみても電源が入らなかった。バッテリーが切れているんだろう。
 手帳を開く。男性がメモしたことが書かれている。
 日付を見ると、およそ1年ほど前に、男性はこの世界に入ったらしい。都市伝説マニアのようで、エレベーターの方法を試してこの世界に来ている。……私たちと同様に。
 そうしてこの村を探索することにし、いったん帰還。
 二度目のトライでこの村を訪れる予定と書いてあってーー以降の記述はない。
「この世界に危ない存在がいるとは思っていなかったのかしらね。所持品に武器がないし」
「武器だけ持って行かれたのかも」
「銃を使えるやつがこの世界にいるとは思えないけど」
 それは同感だ。というか、銃を持ってる一般人がそんなにたくさんいるはずもない。
「この手帳とカメラは貰っていきましょ。この世界を探索する手がかりになるかも」
「い、いいの?」
「持ち主は死んでいるんだし、別に構わないでしょ。あたしたちが持っていかなければ、誰も持って行く人がいないんだし」
 それはそうだけど、倫理観とかそういう問題。
 カナタは自分の荷物に手帳とカメラを混ぜると、リュックを背負い直す。
「獲物は見当たらないわね。でも、この人を殺したやつがどこかにいると思うんだけど」
「それはそうだけど、人を殺せるようなやつなんてヤバいんじゃ……」
「そんなの八尺もヤマノケもそうなんでしょ?」
 それはカナタの言う通りだけど。
「どうする? いったん戻って、このカメラの中身を見てみる?」
「そうだね……。もしかしたら怪異も撮影できている、かも」
 ふと。私は顔をあげた。
 がさり、と音がした。やっぱり気のせいじゃない!
 私とカナタは顔を見合わせ、頷き合う。声は出さないようにしながら、ゆっくりとバックしていく。
 音の発生源は、正面の廃屋だった。他の家よりも少し大きく、村長の家って感じがする。その、なかば倒れかけた引き戸の隙間から、何かが覗いている。
 やがて、それが姿を現す。
「ッ!!」
 巨大な頭の人。それが第一印象。
 体の半分ほども頭が占めており、その下に不自然に小さな体がある。両手両足をぴったりと体に付けながら、頭をふらふらと前後に揺らしている。
「巨頭オか……!!」
 巨頭オ。杉沢村とは別の都市伝説だ。
 とある男性が、昔旅行で訪れた村を訪れる。ところがそこは以前とは違っており、巨大な頭を持つ謎の生物たちが占拠していた。
 男は慌てて逃げ帰り、事なきを得るのだが……。
「人間、じゃないわよね? 頭やたらでかいし」
 銃を構えようとするカナタを、私は引き止めた。
「待って! あいつが巨頭オなら、一匹じゃない……」
 周囲を振り返る。家という家から覗く顔。
「ひっ!?」
「なるほどね。群れで行動するってわけだ!」
 村の真ん中まで来ていた私たちは、すでに囲まれている。巨頭オたちは頭を揺らしながら、こちらにゆっくりと近づいてきている。頭のサイズに違いはあれど、どれもこれも、虚ろな目を向けてきている。
「突破するわよ!」
 すぐさま自動小銃を構えたカナタは、威嚇射撃もなしに、いきなり発砲した。銃口が火を噴き、巨頭オたちを撃ち倒していく。
「あ、あれ?」
 バタバタと倒れる巨頭オたち。八尺様やヤマノケと違い、簡単に倒れていく。
「これなら……」
 ほっとしかけたのも束の間。
 倒れたはずの巨頭オたちが、びくびくと跳ねる。頭を揺らし、ゆっくりと立ち上がろうとしている。
「ふん」
 起き上がろうとする巨頭オ。その一番大きな的ーー頭を、カナタは容赦なく撃ち抜く。
「いっ!?」
 ギギン、と硬質な音。あの頭、銃弾を弾いてる!?
「かったい頭ねぇ……! これじゃあ撃ち抜けない!」
「でも体だけじゃまだ動いてない!?」
「だから面倒なんでしょうが!」
 そう、カナタが体を撃っても、巨頭オは構わず動こうとしている。さながらゾンビ映画のようだ。
「これ、こいつらに捕まったら、あんなミイラになるのかな……」
「それは最高ね。ダイエットに成功しちゃうわ」
「カナタにダイエットなんかいらないでしょうが!」
 ーーなんだこれ。
 本当なら、今にも死にそうなくらいの恐怖、脅威を前にしているはずだ。なのに、ちっとも怖くない。
 それはきっと、隣にこの女がいるからだ。
 素性もよくわかっていない、ただ明るく、美人でーー何より頼りがいのある女。
 ピンチを二度も乗り越えた私たちだ。二度あることは三度ある!
「だったら今回も、ぜったいに助かる!」
「当たり前でしょ。こいつら撃ち殺して、ごはんにしなきゃいけないんだから!」
 とはいえ。銃弾では倒れない巨頭オを、どうやって撃ち殺せばいいのか……。
 じりじりと後退しながら頭を回転させる。武器を持っていない、武器を扱うこともできない私にとって、できるのは都市伝説の知識を総動員して、巨頭オを倒す方法を考えることだけだ!
 とはいえ、巨頭オの情報は少ない。噂話も短く、出会っていきなり逃げ出した、くらいの記述しかない。
 なんとか方法を見つけないと……。