異世界に渡り、巨頭オを2、3匹ほど狩っていく。不思議なもので、前回あれだけ狩ったのに、巨頭オの数が減っている気はしなかった。
 まるごとは持ち歩けないので、くり抜いた身だけを保冷バッグに入れて、今度はその先へ進むことにした。
 廃村を抜けると、すぐに道は林へ続いていた。ヤマノケを狩った時に入った場所が手付かずの森だったとすれば、こっちは規則正しく木が並んだ林。苔むしていて分かりにくいけれど、一応は道らしきものもある。
 二人して、苔ロードに足を踏み入れる。私は異世界に来る時、必ず山道も歩けるようなスニーカーを履くようにしているし、服装だってジーンズだ。だから、多少は下草が生えているような道でも平気で進むことができる。
 カナタも服装としては似たようなもので、迷彩柄のズボンを履いていた。上に着ているベストにはポケットがいくつも付いていて、なんでも予備弾倉とかが入っているらしい。
 山林に分け入りながら、カナタは言う。
「はすみも銃くらい持てばいいじゃない。ハンドガンでもあるのとないのじゃ全然違うよ?」
「……私は素人の一般人で、女子高生だよ? 銃なんか使えるわけないし、使いこなせない武器なんか持っていても危ないでしょ。間違ってカナタを撃っちゃうかも」
「教えてあげるよ」
「役割分担」
 料理は私の担当。戦闘と探索はカナタの担当。人間、向き不向きがあるのだ。
 林の中を快調に進んでいくと、突然、目の前が遮られた。
 しめ縄だ。木と木が結ばれて、しめ縄が左右にどこまでも続いている。
「これって……」
 嫌な予感。しめ縄なんて、普通の場所にはぜったいにありえない存在だ。
 その意味は、この先が神域であるということ。鳥居と似たようなものだけれど、この世界でのしめ縄は、鳥居以上に物々しさがある。
 まるで、怪異を外に出すまいと縛り付けているような。
「いかにも、って感じね。じゃあ行こう」
「躊躇ないな!?」
「猪の足跡を見つけたようなもんよ。見つけたからって逃げたら猟師になれないわ」
「私は猟師じゃないわ」
 仕方なし、しめ縄をくぐり、先へ進んで行く。
 そこからしばらく歩くと、林が切り開かれている場所に出た。
 真ん中には祠のようなものが設置されており、そこに木漏れ日が差し込んでいる。
「これ、なんだか分かる?」
「……たぶん、”かんかんだら”だと思う」
 さっきのしめ縄でも薄々わかっていたけど、これも相当にヤバい奴だ。
「どんな話?」
「えーと、母親に手をあげたヤンキーがいてね。それにキレた父親が、ヤンキーに森へ行けって言うのよ。その奥の祠で暴れてみせろって」
「それがこの祠?」
「たぶん。で、実際に祠のところまで行ったヤンキーは、祠の中にあったものをぐちゃぐちゃにしちゃうのね。そうすると封印されていた化物が現れて、ヤンキーを襲うの。命からがら逃げ帰るんだけど、呪いを受けるーーって感じかな」
「ふうん。その呪うっていう奴はどんなの?」
「姦姦蛇螺は、蛇に喰われた巫女さんの怪異。その昔、村人を化け蛇から守ろうとした巫女さんが、村人に裏切られて蛇の餌にされたんだって。それから人間を呪うようになったとか」
「うげぇ。本当に人間って汚いわね」
「私に言われてもね。そういう感じだから、姦姦蛇螺も下半身は蛇、上半身は六本腕の女みたいな姿をしているんだって」
「完全にバケモノじゃん」
「だからそう言ってるでしょ」
 姦姦蛇螺のヤバいところは、その姿を”見た”だけで呪われてしまうことにある。
 ヤマノケが憑依されると、八尺様は結界の扉を開けるとまずいことになるのに対して、姦姦蛇螺はそういう容赦が一切ない。見たらアウトじゃ銃で撃つこともできない。
「どうする? 今のうちに考えておかないと。見ちゃダメなんだよ? 見ただけで呪われるんだから」
「うーん。実際どうなのかしらね」
「どうって?」
「ほら。八尺だとか巨頭オだとか、なんか都市伝説っぽい相手? そういう連中も、幻覚みたいのは見せてくるけど、生物っぽかったじゃない。だから、この姦姦蛇螺ってのもそうなんじゃないかなって」
「あー……」
 確かに。今まで狩ってきた怪異たちは、対処法さえ分かっていればむしろ簡単に狩れてしまう、異界の動物って感じの連中だった。
 今までの例に習うなら、姦姦蛇螺も同じだ。
「そうかもしれないけど、ヤバいかもしれない。呪われると体が麻痺するとか、そういう話だから。実際には違うかもしれないけど、幻覚で体が動かなくなる、みたいなことはあるかもしれない」
「なるほどね。そうなると確かにマズイ」
「それに、宍室先輩の姿もないし」
 先を見ても、この広場より先に道はなかった。宍室先輩が廃村にいたのはあのカメラで撮った時点。今の時点でここにいないのはむしろ自然だ。
「確かに、宍室もいないし、この怪異もヤバそうってなると、引き換えした方がいいかもね」
「そうそう。狩りは確実に、でしょ。安全に狩れないのに無理をするのは猟師じゃない!」
「猟師じゃないはすみに言われるのも癪なんだけど、確かにその通りだわ」
「じゃあ……」
 引き帰そう。そう思い、リュックを背負い直した瞬間だった。
 ぞわりと背筋に寒気が走る。目の前の祠。それが、ガタリと揺れたのだ。
 勘違いじゃなかった。ごくりと喉を鳴らす。
 誰も触れていないのに祠の扉が勝手に開いていく。ギシギシ、と開いた木製の扉。中にあったのは、4つの壺と6本のマッチ棒みたいなの。
 それがぐらりと揺れ、形が崩れる。
「カナタ!! 目を閉じて!!」
 私が叫ぶと同時、バキバキバキ、と木がへし折れる。
 見上げるその先。そこに、怪異がいた。
 起こした身の丈は3メートルほどもあるだろうか。服を着ていない女の上半身から、6本の腕がいびつに生えている。下半身は緑色の蛇みたいで、尻尾の先は林の奥まで続いていて見えない。
 女の顔が、にたりと笑う。血走った瞳が私たちを捉えている。
「カナタ!! 真正面、撃って!!」

 ガガン!!

 私の指示通りにカナタは動く。さながらマシンのように、正確に。
 銃弾は姦姦蛇螺の体に当たり、その顔が歪んだ。
「ギィィィィ!!」
 それは、女の金切り声にも似た、けれどもっとケモノじみた何か。

 ーー効いてる!

 ヤマノケなんかとは違う。これは実体のある敵だ。それは木を押し倒しているところからもわかる。
 だからこそ銃が通じる。目の前にある体に銃弾を打ち込めば、大なり小なりダメージにはなる。
 けど。