「ヤバい、カナタ。囲まれてる」
「なるほどね。逃がさないって?」
「何からよ」
「くねってるものかな」
 逃がさない、か。
 確かに、何者かの意思を感じる。けど、それはとりあえず置いておく。
 まずは現状から生きて帰らなきゃ。そのためにはーーくねくねを倒すしかない。
「……くねくね」
 くねくねの話には、実は2種類ある。田んぼで出会ったタイプと、海辺で出会うというタイプだ。
 共通点は、水辺にいること、それと広くて見通しの良い場所に現れるということ。
 まるで遠くから発見させるためであるかのように、目の前にいきなり現れることはない。いつの間にか遠くに現れ、その正体が気になった人だけが餌食になる。
「見通しの良い水辺……」
 それは裏を返せば、建物や森ではない場所に出現するということだ。こっちの世界で出会う野生動物的な連中のことを考えれば、建物の近くにいないことは理解できる。でも、森を嫌がるって?
 あるいは、森を嫌がるんじゃなくーーああやって、見通しの良い場所で目立つことこそが、あいつの戦略?
「そうだ……」
 水辺に現れる。あえて目立つ。
 そうやって、獲物を捕食する生物だとしたら。
 私は周囲を見渡した。ここは田んぼだ、ならーーあった!
 私が目をつけたのは、水口。田んぼは水位を管理しなきゃいけないから、用水路から水を引き、あるいは増えすぎた水を捨てられる門がある。
 そのうち、私が取り付いたのは水を捨てる門の方。今は木の板みたいので塞がれている。横には門を上げるハンドルみたいのがついているけど、なかばで腐って折れていた。
「カナタ。この板、穴を開けられる?」
「余裕」
 ガガン! と銃が火を吹く。田んぼの水を遮っていた板が割れ、田んぼの水が流れ出していく。
 徐々に下がっていく水位。それと共に、くねくねにも変化が現れた。
「お?」
 元気にくねっていた存在が、急に力を失い、やがて見えなくなる。私とカナタは頷き合い、くねくねがいたはずの場所まで近づいて行く。
「お?」
 近づけば、その正体も見えてくる。それは、一匹の魚だった。
 頭からはひょろひょろと細長いものが伸びている。水が干上がったことで、魚はピチピチと跳ねていた。
「これがくねくね?」
「じゃないかな。くねくねって、水辺に現れる怪異なのよね。だから、水がなくなれば困るかなって」
「なるほどね」
 頭から伸びた細長いものを引っ張ってみる。内側にはびっしりと黒い何かが付いていた。
「うげぇ、気持ち悪い。何これ」
「わかんないけど、チョウチンアンコウみたいなものじゃないかな」
「アンコウ?」
「そう。チョウチンアンコウは、頭についた疑似餌で獲物をおびき寄せて、ばくっと食べちゃうのね。くねくねも同じように、疑似餌で混乱させて、それから食べるんじゃないかな」
 都市伝説ではおじいさんが助けに来てくねくね化した少年を回収するけど、実際に誰も来なければ、発狂した人はその場で踊りくねるだけだろう。
「まあ、何なのかはともかく。魚なら食べられるでしょ?」
「たぶんね」

☆ ★ ☆ ★ ☆

 田んぼには、何匹かのくねくねがいた。
 それらを回収し、少し進むと田んぼが切れて野原になった。今日はここまでとし、テントを張って夜営に備える。
 カナタがキャンプの用意をしている間に、私は料理の準備だ。用意できたのはくねくね4匹。魚なら刺身で、と言いたいところだけど、怪異を生はちょっと怖い。
 そこでまずは三枚下ろしにしてみた。頭のひょろひょろを除けば構造的には魚と大差ないように見える。ただ、浮き袋が少し大きく、歯や顎がガッチリしている感じは受けた。
 下ろしたくねくねに、塩胡椒を振ってから、粉、卵、パン粉とつける。続いてクッカーに油を入れて熱し、適温になったところで投入。きつね色になれば完成。
 さらにもう一品。カナタが焚火を起こしてくれているので、やってみたかったのだ。くねくねのワタを抜いて塩をまぶし、串に刺して、そのまま直火で焼く。漫画なんかでよく見るちょっとした憧れ、焚火焼きだ。
「カナタ、できたよ」
 焼き上がったくねくねとフライにしたくねくねを並べる。
「くねくねフライに、くねくねの塩焼き。怪異だから、シンプルに食べられると思うけど」
「上等! いっただっきまーす!」
 まずは塩焼き。ガブリと食いつくカナタを横目に、私も豪快にかじってみる。
「んっ……」
 ぎゅっと詰まった身は脂が乗っている。淡水魚は臭みが強いことも多いけど、こいつはそんなことがまったくない。
「すごい! 塩振って焼いただけなのに、あたしが焼くより美味しい!」
「塩をまぶした後は少し待つといいのよ」
「そんだけでこんなに違うんだ?」
「まあ、くねくねは元が美味しいってのもあると思うけど」
 続いてフライ。ソースをかけず、そのまま食べてみる。
「おう」
 ホクホクの身は塩焼きと違い、ガツンとくる。白米が欲しくなるやつ。サクサクと香ばしい衣と濃厚な魚の旨味が絶妙だ。
「んー! んー!」
「はいはい、美味しいのは分かったから、落ち着いて食べな」
 子供か。私より年上のはずなんだけど……。
 笑顔でくねくねを頬張るカナタに、私も思わず表情が緩んでいた。