午後。中央広場の北、バトルタワー前のセレモニー会場にて、エキシビジョンマッチは開かれようとしていた。 報道やただの客など、多くの人が集まっていて非常に混雑している。中には空から眺めようとする人もいて、そちらは係員に止められていた。危ない、との理由で。 そんな混雑の中に、ナミとショウの姿もあった。 「やっぱ混んでるわねぇ。さすがに」 「まあ、そうですよね。見えますか、ナミさん」 「んー、なんとか」 少し高くなっているステージ。と、そこに係員の女性がとことこと歩いてきた。 マイクの調子を確かめ、すっと息を吸い、思い切り吐き出す。 『皆様! ようこそいらっしゃいました! この、バトルフロンティアへッ!!』 おおおおおお、と歓声が応じる。 『ここ、ジョウトフロンティアはバトルフロンティアとして三件目の施設であり、今までの反省なども含め、最高傑作として作り上げられたものです!』 係員の声、そのひとつひとつに、いちいち歓声があがる。あまりの音に、ナミは少しだけ顔をしかめた。 『では、暫定的にこの施設を預かるフロンティアブレーンをご紹介しましょう!!』 係員の女性が腕を振るうと、舞台の奥が開き、五人の男女が現れた。 係員は真ん中の男性を指し、 『まずはここ、バトルフロンティアのシンボル! バトルタワーを預かる熱き男! タワータイクーン、クロツグッ!!』 緑色のロングコートに身を包んだ中年男性が手を挙げると、大きな歓声があがった。 『知性の男! バトルファクトリーの奥で待つ、天才少年! ファクトリーヘッド、ネジキッ!』 クロツグの隣に立つ、緑色のネクタイを締めた少年が軽く手をあげた。先ほどよりも甲高い声があがる。 『忠実な執事! バトルキャッスルにて挑戦者のサポートも行う、万能男! キャッスルバトラー、コクランッ!』 長身の執事が丁寧に頭を下げると、ますます黄色い声が広がる。 『華麗なレディ! バトルステージにて己のこだわりを追及する、魅惑の淑女! ステージマドンナ、ケイトッ!』 頭にサングラスを乗せた女性が優しくほほ笑んだ。一部の男性が熱烈に叫んだ。 『可憐なお姉さん! バトルルーレットで舞い踊る、幸運の女神! ルーレットゴッデス、ダリアッ!』 ドレッドヘアの女性がくるんと回ると、男性陣から物凄い歓声があがった。 『以上、五人のブレーンが各施設の最奥にて皆様の挑戦を待ち受けております! と言っても、顔を見せただけでは記憶にも薄いことでしょう! そこでッ! ここがバトルの最前線なればこそ、記憶はバトルで刻ませていただきます!』 五人のうち、四人が分かれて向かい合った。それぞれがモンスターボールに手をかける。 『エキシビジョンマッチ! クロツグ・ケイトペアVSダリア・ネジキペア! ポケモンレディ!!』 四人がそれぞれボールを投げた。ステージに、四体のポケモンが現れる。 クロツグとケイトの熟年ペアが出したのは、鎧を着込んだ二足歩行のサイといった風体のポケモン・ドサイドンと、甲羅の隙間から砲筒が飛び出している亀・カメックス。どちらも重量級のポケモンだ。 一方、若手ペアが出したのは、ヨガを極めた人型のポケモン・チャーレムと、巨大なトンボ・メガヤンマ。パワーとスピード、正反対とも言える特徴を持つポケモンたちである。 『用意はできましたね!? それでは、レフィリーはコクランさんにお願いしましょう!』 執事が頷き、ステージの中央に置いてあった紅白の旗を手に取った。 『皆さん、まばたきさえしてはいけませんよ! それではッ! 始めましょう! エキシビジョンマッチ!! バトルスタートッ!!』 「チャーレム! 『とびひざげり』!」 速攻。ダリアの指示を受けたチャーレムが走り、地を蹴る。膝を折り曲げ、狙うはカメックス。 「させるか! ドサイドン! 『メガホーン』!」 カメックスとチャーレムの間に割って入り、ドサイドンが自らの角を突き出す。 膝と角の激突。パワー勝負となれば、勝敗は目に見えていた。 「チャーレムッ! 見せてあげマショ、奇跡の“ヨガパワー”!」 日頃から瞑想し続け、超能力を手に入れたチャーレムは、自らの攻撃力を倍加させることができる。 いかにドサイドンが重厚な体を持ち合わせていようとも、チャーレムのパワーの前にはこらえきることはできない。 ドサイドンの巨体が地面に叩きつけられる。一見すればチャーレムの優位。 けれど、これはタイマンの勝負ではない。 「駄目よ、ダリア。チャーレムがガラ空き」 そのチャンスを、マドンナは見逃さない。 「カメックス! 『ハイドロポンプ』!」 砲がチャーレムを狙う。吐き出されるのは水流。まだ体勢を立て直していないチャーレムは、この攻撃を避けることができない。 「メガヤンマ! 『むしのさざめき』!」 そこに、影が割り込む。 巨大トンボが羽をこすり合わせ、衝撃を放つ。水流が弾け、細かな雨となって会場に降り注いだ。 指示をした少年は手元のモバイルをカタカタと操作しながら、 「なるほど! 予想通りですねー。ケイトさんなら、あのタイミングを逃すはずはないと思ってましたよー」 メガヤンマが作った隙を利用し、チャーレムは後ろに下がる。メガヤンマもまた、まるで瞬間移動するかのような速度で後を追った。 「はっはっは! やるな、ダリア! ネジキ!」 そんな若者ふたりの強さが嬉しいのか、クロツグは満面の笑み。 そんなクロツグを見て、ネジキはにこりともしない。 「勝負の八割はデータで決まるんですよねー。もちろん、全てがデータだけとは言わない。その時々の流れがあるから。けど、こっちには残る二割を埋めてくれる要員がいる」 「それがダリア!」 黒髪の女性はくるりと踊り、 「盤上の女神の名にかけて! ダリアが勝利の女神を笑わせてみせるヨ!」 ネジキとダリア。正反対にさえ見える両者は、ぴったりと息を合わせて指示を出す。 「チャーレム! 『サイコカッター!』」 「メガヤンマ! 『むしのさざめき!』」 チャーレムの手から放たれる念力が圧縮され、刃状となって解き放たれる。その直後を追うように、メガヤンマの放った衝撃波がステージを削りながら迫る。 「素晴らしいコンビネーションだ! だが!」 クロツグもまた、タイミングを図って指示を飛ばした。 「ドサイドン! 『ストーンエッジ』!」 岩石の片刃。その名の通り、砕けたステージの破片がドサイドンによって持ち上げられ、衝撃波に向かう刃となる。 ひとつひとつは、相手の攻撃を相殺するほどの威力は持たない。特にサイコカッターはチャーレムの持つ強力な念力によって生み出された刃。力負けは絶対にする。 けれど、ほんの少しだけ着弾を送らせるくらいは、できる。 「カメックス! 『あくび』!」 ドサイドンが命がけで作りだした隙。見逃すケイトではない。 ふわぁ、とカメックスがあくびをした。それを見たチャーレムは、 「チャーレム!?」 ふらりと、よろける。 ポケモンの『あくび』とは、相手を眠りに誘う技。必殺の力はないが、相手は確実に無力化されてしまう。 「くっ……眠る前に決めてしまえば! チャーレム! 『とびひざげり』!」 「サポートだ、メガヤンマ! “かそく”してチャーレムを運べ!」 それは、さしずめトンボの羽を生やした格闘家。 高速で空を飛び、カメックスめがけ突っ込む。 「させないよ! カメックス、『まもる』!」 すぐさまカメックスは頭と手足を甲羅に引っ込めた。途端、甲羅が緑色の不思議な光を放つ。 絶対防御の力を示す光。それは、あらゆるポケモンの、ほとんどの技を無効化してしまう最強無敵の防御技。 案の定、チャーレムの攻撃は弾かれ……、そのまま、チャーレムは地面に転がった。 起き上がる気配はない。深い眠りの中にチャーレムの意識は捕らわれている。 「ドサイドン! 『アームハンマー』!」 ドサイドンの巨腕が、眠ったままのチャーレムに振り下ろされる。 ステージがへこむほどの全力の一撃。舞い上がったチャーレムの体が再び落ちた時、立ち上がる余力など残っているはずもなかった。 「チャーレム戦闘不能!」 コクランが白い旗を揚げる。おおおお、と大きな歓声。 「くッ……、けれど、『アームハンマー』の反動でドサイドンのスピードは落ちているはず! メガヤンマ! “かそく”してドサイドンをかく乱しろ!」 ドサイドンの周囲をびゅんびゅんと回り出すメガヤンマ。巨大なトンボの姿は、それだけで連なって見えてしまう。それほどに、速い。 「考えは悪くない。が、その程度で我々は倒せないぞ、ネジキ」 クロツグに漂う王者の風格。 それぞれバトルの猛者であるフロンティアブレーンの中にあって、別格の強さを持つがゆえの称号。 タワータイクーン。フロンティア最強の男。 「見せてやれ、ドサイドン! お前の『ストーンエッジ』の力を!」 オオオ、と応えるように吠える相棒。 足を軽く上げ、ずん、と踏み下ろす。それだけで、ステージがめくれあがり、破片が舞い上がる。 「終わりだ!」 先ほどは壁に使ったエッジが、今度は必殺の武器としてドサイドンの周囲――メガヤンマの目の前に現れる。 高速移動中のメガヤンマは、自らの加速を合わせた勢いで、エッジに激突した。 「メガヤンマ!?」 その衝撃は、メガヤンマを一撃で気絶させるにふさわしいものだった。 「メガヤンマ、戦闘不能! よって勝者、クロツグ・ケイトペアッ!」 コクランの宣言が会場に響き渡る。 |