気高き者エーデル・ムートの教会、礼拝堂。
 最も座席数が多いこの部屋は、最も多くの人が入れる。現在は表の扉を施錠し、日本に駐留しているメンバーのほとんどが集まっていた。
 また、気高き者エーデル・ムートの直接的なメンバーではないが、協力的な関係にあるコハルとヴィナ、鈴も集まっている。
 いないと言えば、確保された少女ーーアズサくらいなものだ。
「……」
 壇上にはヴェレーナの姿。かたわらには、護衛のアンドレア。
 見れば、ミアやトラ、フェリツィアも話を聞いている。
 話の概要は、最近発生している異常な能力者に関することだ。
 脳内から虫のような物体が発見されたこと、関係性を証明できたわけではないが、関係していないはずもないだろうということ。
 そして、脳内に原因が見つかった以上、発症した人間を元に戻すのは気高き者エーデル・ムートの力では無理だということ。
「本国ならいざ知らず、日本の限定的な状況じゃ脳外科手術は不可能だ。病院にでも連れ込めば可能かもしれんが、能力の存在を知られることになりかねないし、そもそも摘出した虫が手近な医者を新たな宿主にする可能性も否定できない」
「要するに、見つけたら今まで通り殺せってことだろ」
 トラの発言に、ヴェレーナは無情にも頷く。
「実際、我々に選べる手段はいくらもない。社会を混乱させないためにと言えば聞こえは良いが、やることは昔も今も変わらん。暗殺だ」
「……」
 コハルも、わかってはいた。気高き者エーデル・ムートはそういう組織なのだと。
 とはいえ、平和な日本で生まれ育った彼にとって、当たり前のように人を殺すという彼らは、どこか異質な存在にも見える。
 わかってはいるのだ。能力が社会に出れば、それは決して幸せな結果だけを生むものではないと。新たな混乱は、戦争のような大きな火だねにさえなりかねないと。
 彼らのやっていることは、おおむね正しい。間違っているとすれば、それは法律に反するーーいや。人を殺すということ、それそのものだ。
「ただ、今まで通り発症者を殺してまわるだけでは非効率的で、結局のところ元凶にはたどり着けない公算が強くなった」
「根拠は」
「死人を何人か操作し、情報を吐かせた。だが、どいつもこいつも、犯人の顔はおろか、自分がなぜ能力を発動したのかさえ知らない奴ばかりだった。見つかったのが虫だったことを考えても、おそらく能力者は、卵のような形で対象に植え付けている、あるいは摂取させているのだと思う」
 見つかった虫は非常に小さなものだ。卵のサイズともなれば、さらに小さいかもしれない。
 コハルとて、そんなのが食べ物に混ざっていても気づかないだろう。そう思うと、少しだけ気持ち悪くなった。
「犯人がどこで撒いているか不明だが、今のところ被害者に共通点はない。年齢も性別もバラバラだ。意図的にバラけさせているのだろうと推測されるが、これでは犯人に辿り着けない」
「で、どうするんだよ」
「犯人の特徴を先に押さえておこう。まず、犯人は虫を生成する能力がある。この虫が体内に入ると、能力に目覚め、狂暴になる可能性が高い。それと、犯人もこの虫をそれほど大量には作れない。これは、見つかる能力者の数からしての推測だが」
 確かに、今のところ大きな事件になるほど能力者は見つかっていない。
 それは気高き者エーデル・ムートのメンバーが頑張っているからでもあるが、そもそも絶対数が多くないというのは事実だ。
「犯人の目的は知れないが、少なくても現状のように、我々が能力者を確保してまわっているのは向こうとしても面白くないだろう。そこで、おびきよせる方法を考えたい」
「おびきよせる?」
「発見した虫をインターネットの情報に流す。新種の虫、としてな。そして、これを見つけたあたりに調査しに行くとする」
「そんなんで捕まるのかぁ?」
「何もしないよりはな。少なくても、犯人はこの虫に心当たりがある。見つかったとなれば、それを発見した人間には大なり小なり興味があるだろうし、あるいはそんな連中を潰したいと思うだろう。相手が何かを仕掛けてくる可能性は十分にある」
 何かを仕掛けてくれば、何か証拠が手に入る可能性もある。
「実動は実戦部隊に任せる。ミア、頼むぞ」
「ええ、わかったわ」
 その話を聞いていたコハルは、
「あの。僕も、協力して構いませんか」
 皆の視線が集まる。そうなると、一般人のコハルとしては少し居心地が悪くなった。
 ミアはくすりと笑い、
「ええ、では、お願いしようかしら」
「いいのかぁ?」
 まぜっかえしたのはトラだ。
「どんな危険な連中が来るかわからねえんだろ。一般人は足手まといじゃねえのか」
「あら、あなたがそんな優しいことを言うなんて思わなかったわ」
「何?」
「だってそうでしょう? 龍宮君が心配だって」
「誰がんなこと言ったよ」
「そう聞こえたわ。大丈夫よ、彼の戦闘能力はあなたより高いのだから」
「……けっ」
 イラついた様子のトラは、それ以上は言わなかった。
「私も行きますからね!」
 コハルの隣では、鈴もやる気を見せている。
「結構。実動は翌日曜日を設定しておく。各自、準備をしておくように」
 ヴェレーナの言葉に、一同が頷いた。


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