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カッ、と光が走る。能力が奪われーー。 「……え?」 けれど、首もとの刃は消えない。 「油断、しましたね」 三寸の直刀は、そこにいる。 「よかった、成功した」 よろめきながら立ち上がるコハル。その手には剣がない。 「ま、さか……!!」 「ここに来るまでの間に、刀を交換したんです」 それは、偶然だった。 コハルの能力は、風や地を操ることができるというだけのもの。だが、遠目にも見えた炎などを考えれば、敵は悪意の胤だけじゃないようにも思えた。 もともと悪意の胤の能力は味方を増やす能力。それで囲まれては、勝ち目もない。 そこで、機動力のあるコハルに、鈴の刀を貸したのだ。 鈴の刀は、斬った相手の”現在”を奪う。すなわち、動きを一瞬だけ止められるのだ。 それで次々と動きを止め、鈴が拘束するというのが当初の作戦だった。 「結果論ですけど、この刀はヴィナさんの能力です。アタシの能力を奪っただけでは消せませんし、この拘束から逃げる方法もありません」 「ぐッ……!!」 「そういうこと、さ! ヴィナ!」 《おぅらい!!》 コンクリートが変化し、ぐるりとアズサを縛る石輪となる。 「逃がさないよ」 「くそッ!!」 痛みをこらえながら立ち上がったコハルは、アズサの前に立つ。 「ヴィナ。能力、奪える?」 《やってみる》 カッ、と光が走る。それは、暖かな光。 「……!?」 光が収まった時、アズサの前には、手のひらサイズの子供が浮かんでいた。 「?」 知らぬ人が見たら妖精とでも思うだろう。その子供に表情はなく、機械のような冷たさがある。 「これが、人工精霊……?」 《たぶん?》 精霊が抜け落ちたアズサは、ぽかんとしている。 「嘘……」 能力を失った敵を相手に、鈴は嘆息し、刀を引く。 刀をコハルに返しつつ、鈴はアズサをじろりとにらむ。 「能力がどれほど大変なものか、わかった?」 「……」 「何人も死んだの。あなたのせいよ」 「でも、じゃあ、あたしは……!!」 「理由にはならない」 はっきりと鈴は言ってのける。 「どんな理由も、能力を悪用する理由にはならない。それが、祠宇守に生まれた子が最初に教えられることなの」 それが、彼女なりの心意気なのだろう。 だから、あんなにもきっぱりと言うことができる。 「能力を使えば、一般人相手なら無双できるよ。ただのチートみたいなもの。でも、それを使ってはいけない。それは能力者のプライドだよ」 「あたしは、望んで能力者になったわけじゃない」 「能力者はみんなそうだよ。自分で望んで能力を得るわけじゃない。でも、なってしまったら責任が生じる」 「そんな無茶はないでしょ! 望んでもいないものを押し付けられて、それを使ったら悪いなんて!」 「理不尽だって? そんなものよ。でも、やらなきゃいけない」 鈴の放つ涼やかな声が、凛と響く。 「それが、能力者の責任ってものよ」 ★ ☆ ☆ ☆ ☆ ★ アズサを引き連れ、コハルたちは教会へと戻った。 教会はフェリの術式で人払いがされていた。大きな物音があっても違和感がなくなるような、人間の意識に影響する術式なのだという。 奥の部屋にはヴェレーナとトラの遺体が並んでいる。残ったメンバーたちは、アズサから精霊を引き抜いたことで洗脳が解けた様子だった。 「……」 正気に戻ったメンバーには、ヴェレーナの護衛であるアンドレアも含まれる。 本来なら、彼女はヴェレーナが死なないようにすべき任務だ。それが、敵に操作され、挙げ句の果てに護衛できなかった。 「任務失敗はどんだけぶりかねぇ」 頭をかく彼女。そんな護衛と共に、コハルたちは死体の部屋に入った。 並んだ死体に、アンドレアは少しだけ目を細める。 アンドレアはベッドの上で転がる変わり果てた彼女に、優しく手を触れた。 「神様からの借り物」 彼女の能力により、死者となったヴェレーナは蘇る。 「ほら。で、何が聞きたいんだ、小僧」 「人工精霊について」 「だとよ、ヴェレーナ」 死者となったヴェレーナは、虚ろな瞳で答える。 「……人工的に精霊を産み出す実験そのものは行っていた。だが、研究そのものは封印したはずだ」 「アズサさんは人工精霊を植えつけられたと言っていました。気高き者のメンバーによって、と」 「気高き者のメンバーは一枚岩じゃない。それはベルホルトの件からも分かるだろう。研究班とて、全員が一緒に活動していたわけじゃない。だから、封印した研究を掘り起こした人間がいるかもしれない」 「心当たりは?」 「各国を巡っている研究班がいる。その中に、極東出身の奴がいた。人工精霊の研究は、奴が最も詳しい」 「ヴェレーナ、あんた自身が関わったことは?」 と、アンドレアからの質問。ヴェレーナは鼻を鳴らし、 「10年ほど前に1度だけ。ラスターの封印を研究する際に、危険性の低いラスターを人工的に作るという実験があった。それが、今から思えば人工精霊のことだ」 「危険性が低いとは?」 「主義思想のない、それでいて人間にある程度は友好的なラスターを作るというものだ。コアを作る方法は確立されていないが、コアの複製は方法論としてあった。それを使った」 「じゃあ……」 「その時に作った精霊は全て封印したはずだ。だが、封印を解除して、人間に憑依させる実験を行った可能性は否定できない。というか、事実を考えればそれしかないだろう」 「人工的に精霊を作る……」 はっ、とコハルの表情が変わる。 「ヴェレーナさん。その時、作った精霊のリストかなにかはありませんか」 「そんな証拠は残さない。だが、記憶にあるだけでも5体ほど成功し、実験に使ったと思う。コアが消滅したものもいるから、何体残ったかは記憶していない。メダルができた後は精霊を作る実験そのものが危険だからと破棄された記憶がある」 「……どうしたの、龍宮君」 ミアの問いかけにも答えず、コハルはヴィナと顔を見合わせる。 「ヴィナ、それって」 「うん。人工的に精霊を産み出して、メダルに封印して、けど、解除された」 「ヴィナがメダルに封印できなかったのも、一度封印されていて、そこから逃げられているから?」 「逃げかたを覚えた、ってとこ?」 「だから、過去の記憶も、精霊としての色々も覚えてない。かといって、人間に憑依する実験もあったから、マスターという概念がある……」 全てのつじつまが合う。 「ヴィナは、人工精霊なんだ。気高き者の実験で生まれた」 |