日曜日。天気は晴天、絶好のデート日和。
 時刻は午前9時20分。
 駅前を集合場所に指定した鈴は、スマホの自撮りモードで髪型をチェックしていた。
「前髪大丈夫かな……」
 土曜日のうちに美容院にも行ったし、服装は友達に確認してもらった。普通のシャツにショートパンツという、背伸びをせずに女子っぽさを出すコーデ。太鼓判も貰っている。
 待ち合わせ時間の40分も前に到着してしまったが、これは楽しみ過ぎたとかそういうの。
 そうして待つこと10分ほど、
「あれ? 鈴ちゃん」
 声にどきりとした。振り返ると、コハルの姿があった。
「た、龍宮さん。早いですね」
「いや、それでも鈴ちゃんよりは遅かったみたいだし。待たせてごめんね」
「いえいえ! アタシが勝手に早すぎただけなので!」
「それでもさ。それで、どうする?」
 ーーデートに誘ったのは自分だ。であれば、デートコースを提示するのもこちらからだろう。
 それは鈴が内心で思ったことだが、コハルの考えはもちろん違う。
 ーー神社か教会にでも行くのだろうか。それなら、そこで待ち合わせでもよかったんじゃ。
 噛み合っていないことに、二人はまだ気づいていない。
「とっ、とりあえず! まだ早すぎますし、ちょっと喫茶店でも寄りませんか」
「うん? まあ、確かに(待ち合わせの30分前だから)早いよね」
「はい、(デートコースを回るには)早いですから!」
 にこにこ笑う鈴と連れ立って、コハルは駅前の喫茶店に入って行った。

★ ☆ ☆ ☆ ★

 一方その頃。
「むー! むー!」
「お、おとなしくなさい! ヴィナさん!」
 暴れるヴィナと、それを掴んでいる委員長もといミア・シュタイフ。さすがに制服だと即バレなので、普段着のブラウスにジーンズ姿だ。いつもしているネックレスだけが唯一のアクセサリーだが、元が悪くないのでそれだけでも様になる。
 二人は駅前広場が見渡せる通りに潜んでいた。というか潜まされた。
「もうっ! 何するのよ!」
「デートの邪魔をするものじゃありません!」
「デート? デートって何よ」
 じとっ、とミアをにらむヴィナ。なにせ、コハルの後ろを付いていたら、いきなり引っ張り込まれたのだ。能力者ムーブのおかげで一般人の目には留まっていない。
 能力の無駄使いとかいうのはともかく。
 ミアはこほんと咳ばらいし、
「と、とにかく、鈴と龍宮君は大事な用件があるんです。二人きりにしてあげましょう」
 どうだニーナ様。こんなに気遣いができるんだぞ。
 言ってやりたいが本人がいない。
 心の底ではデートの結果なんてどうでもいいのだが、こういうのをほっとくとたぶん後でニーナに怒られる。そのくらいは分かっているつもりだ。
 それを気遣いと言うのかはともかく。
 ミアの内心を知らないヴィナは口をとがらせ、
「えー。せっかく甘いの食べられそうなのに」
「甘いものなら私が買ってあげますから!」
「あら。じゃああんたに付いてく」
 ゲンキンなものである。だがまあ、戦力の無力化には成功した。
 何の戦力かはともかく。
「はぁ……。なんでこんなことに」
 本来ならデートなんて止めるべきだ。相手は未知の能力者、しかもラスターと融合するなんていう離れ業をやってのける少年。おまけに鍛えている自分たちと対等に戦ってもいる。
 ラスターと融合できる人間なんて聞いたこともないし、ミアとて日々鍛練を積んでいる戦闘員である。そんなミアと、未知の能力で渡り合えるのだ。
 それだけの戦闘力、どこから現れるのか。その理屈が判明していない中で、不用意な接触は危険を伴う。ましてやデートなんて。自分もしたことないのに!
「……はぁ」
 上司の命令がなかったら絶対にこんなの付き合わないのに。
 ため息を漏らす委員長。そこに、教会員として戦う凛としたたたずまいは、どこにもなかった。

★ ☆ ☆ ☆ ★

 駅前でお茶を飲みながらおしゃべりして、お互いの学校とかの話をする。ラスターとか澱とか関係のない、普通の話ばかりでコハルは少し戸惑っているが、緊張をほぐすつもりかと納得している。
 鈴は鈴で、普通にデートを楽しんでいる。そんな二人は、駅前から少し歩いたところにある、ショッピングモールに入った。
 居並ぶアパレルショップの中から、鈴がよく行くという中高生向けのファッションブランドに入る。
「えへへ、どうです? これとか似合います?」
「うん? そうだね、可愛いんじゃない?」
「ありがとうございますっ! じゃあちょっと試着してみます!」
 コハルはコハルで、根が真面目。聞かれたら素直に答えてしまう性分。
 用件は何だろうと内心で思いつつ、まあ服を買うくらいはいいかと付き合っている。デートなんて一度もしたことがないので、これがデートであるという認識は相変わらず存在していない。ましてや相手は中学生、年下なのだ。
「そういえば、ヴィナの姿を見ないな……。どこに行ったんだろ?」
 きょろ、と周囲を見渡してみる。あまり意識していなかったが、思い返せば喫茶店のあたりから姿を見ていない。
 ラスターが出るかもしれない状況では危険なのだが、自分自身は鈴も一緒なので、比較的安全だろう。今まで建物の中でラスターを見たこともない。これはむしろ、ヴィナの方が心配だ。
「大丈夫かな」
 そうは思うが、鈴が試着している間に離れるのも問題だ。
 まあ、食事がなくてつまらないからどこかに行っただけかもしれない。実際、彼女も授業中は常に暇を持て余している。
 だから、そういうものなのかと納得した。

★ ☆ ☆ ☆ ★

 その頃、覗き組。
「……」
「マジで龍宮、彼氏みてえじゃん」
「付き合ってるんじゃないの? 年下の彼女とかどこでゲットしたのかな」
 増えていた。
 コハルたちを見張っていたミアは、致命的なことに、周囲への警戒を怠っていた。普段ならそんな無様な真似はしないし、仮に注意力が散漫になっていたとしてもラスターの殺気には気づいただろう。
 ところが一般人のクラスメイトが相手では、さすがに察知することができなかった。
 渋谷クウと鶴見エリ。どちらも友達でクラスメイトだ。そんな二人と出会うこと自体が奇跡だしショッキングな出来事だったが、出会ってしまった以上、隠しつづけることはできなかった。ミアとて根が真面目なのだ。
 3人+1幽霊は、コハルたちがいるアパレルショップを見張ることができる喫茶店にいた。ちなみにヴィナは、ミアが頼んだチーズケーキのおかげでたいへんご満悦である。
「……そういえば、渋谷君とエリはなんで一緒にいたの?」
「偽委員長の手伝い」
「買い出しよ。部活の」
 ちなみにクウはサッカー部、エリはサッカー部のマネージャーだ。
「本当はスポドリ買って帰るだけのつもりだったんだけどね。重いからクウに荷物持ちを頼んで」
「仲がいいのね?」
「まあ中学から一緒だしな。それに、俺たちよりだんぜん龍宮の方が面白いだろ。あの龍宮だぞ?」
「そうそう! 女の子の気配なんて欠片もなかったのに、やることやってるんだー! って。こんなの絶対に面白いよね!」
「……」
 同意はしかねる。
 心の中でコハルに謝るが、届くことはない。
「にしても、あの子って本当に可愛いよな。誰か知ってる?」
「ううん、知らない。見たこともないなぁ」
 知ってる。というか思いきり仕事仲間である。
 そうは思ったが、言えない。言えない。
「中学生だよな? そう思ってたけど。エリみたいな童顔てわけじゃなく」
「るさい。たぶんそうだと思うけど」
「そういや龍宮が休みの時に出かけてるのも珍しいな」
「そうなの?」
「あいつ、高校生のくせにジジイみたいな生き方してるからな。趣味らしい趣味もないというか、家事が趣味というか」
「うわあ。なんて女子力」
「男だけどな。だから、あいつが休みの日にデートしているのも意外だし、もっといえば流紋高校うちの生徒じゃない奴と付き合ってるのも意外」
「あー、わかる」
 わからない。いや、わかるけどわかりたくない。
「……」
 見張りとかしないで普通にほっときゃよかった。
 今更ながら後悔が押し寄せるが、時すでに遅し。チーズケーキに夢中な幽霊は、あてにもならない。
 ミアの苦行は、もう少しだけ続くことになる。


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