目の前の空間からラスターが現れる。それを、見る間もなく斬り伏せる。
 ベルホルトは大量のラスターを召喚し、使役できるようだ。だが、しょせん個々の能力はそれほど高くない。召喚直後は混乱しているのか、動きもにぶい。
 なら、気にしなければいい。
 目の前に立ち塞がる邪魔な存在だけを斬り捨て、本体をーー攻撃する!!
「せいっ!!」
 風による超速攻。敵をかわし、斬り、そのままベルホルトに肉薄する。
 コハルの振り回す剣を、ベルホルトは腕で止めた。
 ガツン、と衝撃が走る。だが、それだけだ。
「ッ!?」
 刃が通らない。刀身は確かに当たっている。なのに、抜けない。
「意外かね? 攻撃が通じないということが」
 ベルホルトが動く。その気配に、コハルはいったん引いた。
《コハル!! 右上!!》
「くッ!!」
 迫ってきたラスターを斬り伏せ、跳躍する。邪魔なラスターを蹴飛ばしーー。
「なっ」
 ベルホルトの周囲には、小銃が浮かんでいた。その数は十ではきかない。
発射ファイヤ
「やばっ」
 コハルは咄嗟に、壁に手を突いた。壁土を操作、自身の前で盾とする。
 直後、銃撃音が廃墟に響いた。ベルホルトはラスターに当たることなどお構いなしだ。
「どうでもいいのか……!」
 どうせ数は生む。そのうちのいくらかを撃墜しようとも関係がない。
 彼にとって、ラスターは正しく駒なのだ。
「それより、この銃撃が厄介だね」
《当たったらヤバいと思うわ》
 銃弾そのものを受け止めるなどという行為。能力者になっても体の構造は変わらない、銃弾を防げる自信もない。
 ラスターと土を壁にして、なんとか弾幕から逃れる。
 だが、このままでは近づくことさえできない。
「なら、炎!!」
 刀の先端に炎を生成、打ち出す。炎の弾丸は銃弾に切り裂かれながらもベルホルトに迫るが、
「ふん」
 やはり左腕の一振りで掻き消されてしまう。
「なんであいつ、あんなに丈夫なんだ……」
《ねえ、コハル。あいつ、もしかしたら、コハルと同じなのかも》
「僕と同じ?」
《うん。あいつから、あたしと同じ匂いがするの》
「ヴィナと同じ匂いって……まさか」
「気づいたか?」
 にやりと笑うベルホルト。返事は炎で返す。
「お察しの通りだ。俺はすでに、精霊を吸収している」
「その割には、僕より強そうだけどな」
「当然だ。吸収と言っただろう」
 ベルホルトは自身の胸をとんとんと叩く。
「俺は精霊を人工的に生み出し、喰ったのさ! この体はすでに精霊と化している! お前たちが人間である限り、精霊を殺すことはできん!!」
「何!?」
「わかったら、消え去れ!!」
「ッ!!」
 銃撃。防ぎ切れないと判断したコハルは、床に手を突いた。
 地面を変化。咄嗟に作った塹壕で銃撃を回避する。
 頭の上を地面で塞ぐと、暗闇が落ちた。小さな炎を作り、明かりにする。
「ヴィナ。あいつの言っていた意味、わかる?」
《……あたしが精霊ってやつなら、あたしの仲間を食べたってこと?》
「そう、言っていたね」
《その意味は分からないけど、でも、あたしと同質の存在になっただけなら、あんなに無敵なはずがないわ。あたし、あんなに強くない》
 そうだ。初めて会った時、ヴィナはラスターとの戦闘で負傷していた。
 コハルと融合することで能力は増しているようだが、それにしたって、無傷でいるなんてことはありえない。
 彼は何かを隠している。それが、戦いのキーポイントだ。
「……ねえ、ヴィナ。あいつ、ラスターを操作できるって言っていたよね」
《え? うん》
「でも今は銃を生み出して、それで攻撃していた」
 そう、それは違和感があった。
 一人の能力者が一つの能力と決まっているわけではないだろうが、鈴を見ても、明らかに複数の能力を持っているのは異質だ。
 しかも、二つの能力に関連性が感じられない。ラスターを召喚・操作することと、銃を操作することでは毛色が違いすぎる。
 これは推測だがーー。
「あいつは、他の人が持つ能力を奪っているのかもしれない」
《それ、ヤバくない?》
「相当ヤバいよ」
 条件はわからないが、能力を奪われてしまえば戦うこともままならない。
 だが、そこは問題ではない。問題点はひとつ。
「ラスターを操作する能力と、相手の能力を奪う能力……。どっちが先だ?」
「どっちって、相手の能力を奪う能力が先じゃないの?」
「僕は違うと思う。ベルホルトがそういう能力だっていうなら、ミアさんだって言っていたはず。そうじゃないんだ。たぶん、奪う能力は精霊になってから得た」
 最初は人間だったはずだ。精霊化することで、彼は無敵の体を手にしたとする。
 そのことと、能力を奪う能力は関連するのか? しないはずがない。
 もし仮に、最初から能力を奪う能力を持っていたなら、教会はそれを知っていたはずだ。その能力がどれほど危険かなんて誰でも想像できるし、そういう能力ならコハルに注意だってしたんじゃなかろうか。
 これはあくまで想像だ。だがーー間違っていないという確信もある。
「あいつは精霊になった時に、精霊の持っていた能力を奪ったんだ。それが、相手の能力を奪う能力だった」
《あたし、そんなことできない》
「ヴィナ。君には記憶がない。だから、知らないこともたくさんあるはずだ」
 ヴィナの心が揺れる。それが、融合しているコハルにはわかる。
 それでも、言わなければいけない。
「ヴィナ。あいつは、おそらく精霊の能力を悪用しているんだ。でも、あいつにできたことが、僕らにできないはずがない」
《コハル……》
「僕を信じて」
 少しの間。そして、心の中に響く。
《……うん》
 か細い声。だが、信じてくれている。その暖かさは通じている。
「オッケー。行くよ!!」
《りょー、かいっ!!》
 ぐっ、と全身に力を込める。そのまま、地面を吹き飛ばした。
「!!」
 迫る銃弾。だが、見えていた。
 風と共に飛び上がり、弾幕を回避。そのまま虚空を蹴飛ばし、前へ。
「いい度胸だ!!」
 ベルホルトだけが見えている。他は必要ない。
「あいつの能力が……」
 相手の能力を奪う能力。それが精霊の能力なのか?
 ーーそんなはずがない。
 精霊は、少なくてもヴィナは、もっと優しい存在だ。相手の心を理解できる存在だ。そんな存在が、ただ一方的に能力を奪うなんてことをするはずがない。
 それは、何の根拠もない、ただの感情論だ。だが、コハルは自分を信じている。ヴィナを信じる自分を信じているからこそ、勇気を持って前に進める。
「ここ!!」
 弾幕をかわし、背後へ。そのまま剣を振るい、
「ふん」
 軽く受け止められる。ベルホルトの大きな手がコハルの頭をつかみ、
「ぐっ!?」
 何かが体から失われる感覚。そのまま、コハルは後ろ向きに倒れた。立っていることさえ出来なかった。
「コハル!?」
 ヴィナとの融合も解除されていた。コハルは力の入らない全身を叱咤し、ベルホルトをにらみつける。
「残念だったな。お前の能力も頂いた」
「やっぱり、相手の力を……奪うんだな」
「ほう、見抜いていたか? その通りだ。それこそが精霊の存在意義とも言える」
「じゃあ、感じてみろ・・・・・。僕の能力を!!」
「ふん、何を……」
 ベルホルトの言葉が途中で消える。動きを止め、ただ虚空を見つめていた。
「ッ……!!」
 ヴィナとコハル、二人を前にしても動かない。ラスターはいつの間にか消えていた。
「そうか、それがお前の狙いか」
「伝わってくれて何よりだよ」
「余計なことをしてくれる」
 銃の群れが消え、静寂が落ちた。
「な、何? コハル、何したの?」
「僕は何も。あいつは、僕の能力を奪ったんだろう。同時に、僕の想いも渡した。それは、ヴィナのおかげだよ」
「え? あたし?」
 ぽかんとするヴィナとは対照的に、男二人には理解できているようだった。
「貴様。精霊の能力、いつ気づいた?」
「さっきというか。勘、かな。僕は、精霊はそんなひどい存在だとは思えなかったから」
「ふん、生意気な少年だな」
 じゃり、と足元の瓦礫を蹴飛ばし、ベルホルトはコハルに手を伸ばした。
 その手を握り、コハルは立ち上がる。
「ごめんなさいじゃ済まないぞ」
「理解している」
 そう言うベルホルトは、どこか寂しそうだった。


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