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「双竜戦……」 師からレギュレーションを聞いたシルビナは、表情を険しくした。 カンナの自宅、台所。三人で囲む食卓の席だったが、互いの表情はかんばしくない。 「まさか、今年のプロ試験前に彼が来るとは予想外でした。いえ、彼が予想通りのことをしたためしがありませんが」 さしものカンナも困惑した表情。ヴァンはそんな二人を等分に見やり、 「なあ、双竜戦ってどんなのだ?」 「二人一組で行う決闘よ。勝敗は、自軍の者が生き残っているかどうかで判断する。極論、自分が負けても、相方が二人倒せば、勝敗では勝ちとなるわ」 「ああ、なるほど……」 「ブッシュネルなんかは想定していたけれど、まさかプロ試験でアンフェスバエナなんて。きっと今年の受験者は大混乱よ」 「一応、特例措置として、試験開始は1週間延期となりました。その間にタッグパートナーを見つけなければいけません。また、タッグ相手は受験者でなくてもよいとされています。シルビナ、ヴァン。ゼルと相談し、パートナーを探さなければいけません」 ヴァンとシルビナは互いに顔を見合わせ、 「ヴァン、いい?」 「シルビナがよきゃ」 それだけで互いに通じ合う。頷き合い、二人はカンナを見やった。 「私たちでタッグを組みます」 「……よいのですか? 今年の試験は内容で判断されますが、勝ち続ければ、アピールになるでしょう。勝った方が絶対的に有利。そして、パートナーは受験者でなくても……、つまるところ、私でもいいのですよ」 「確かに、先生と一緒ならば、勝率は上がるかもしれません。でも、私は、ヴァンと出たいんです」 「オレも、カンナと一緒より、シルビナと一緒の方が安心できるしな」 「……二人がそう言うのであれば」 カンナは小さく頷く。 「ゼルの意向も聞いておきますが、一応、あなたがたは二人で出場という形で登録しておきましょう」 「お願いします」 頭を下げるヴァンとシルビナ。そして、二人は視線をかわす。 「よろしくな、シルビナ」 「こちらこそ」 がっちりと握手を交わす。 ヴァン・レクサス。シルビナ・ノワール。結成。 ガリア邸。 一人娘であるアリスと、ガリア門下生・ライゼルは、応接室で今年のレギュレーションが記載された紙を前にしていた。 「どうする、お前たち」 ガリア・ヴァイスラントは二人を見下ろす。ソファに座った二人は互いに顔を見合わせた。 先に口を開いたのは、アリス。 「ライゼル。私のパートナー、やりなさい」 「僕でいいのかい?」 「実力も能力も知らない雑多なプロをパートナーにするくらいなら、慣れているあなたのほうがいいわ。お父様はタイトルリーグもあってお忙しいでしょうし」 「……単に知らない人とコミュニケーションを取る自信がないだけじゃ」 パン、と頭をはたかれるライゼル。アリスは父を見上げ、 「そういうことで、私はライゼルをパートナーとして出場するわ」 「よいのか。このような奇怪な形で。特にライゼル。お前は……」 「わかっています、先生」 ガリアを見上げ、ライゼルは言う。 「僕が毎年、試験に失敗していたのは……、ここぞというところで、覚悟が足らなかったように思います。ですが、今年はアンフェスバエナ。僕の覚悟は、アリスが補ってくれる。むしろ、こんな形の方が、僕には合っているかもしれません」 「なるほどな」 ガリアは小さく頷き、 「ゴドウィンの馬鹿が現れた時には憤慨したものだが、結果は結果だ。変わるわけでもない。それならば、お前たち二人で、プロの資格を勝ち取ってくるといい」 「任せて」 「はい、やってきます」 アリス・ラフィーネ・ヴァイスラント。ライゼル・アズール。結成。 奨励会館でも、今年のレギュレーションが発表された直後から、それはもう大騒ぎだった。 奨励会員たちは、みなプロを目指す者ばかりだ。当然、全員がプロ試験を受験する。だが、アンフェスバエナとなれば別。師匠と組む者、同門の仲間と組む者など様々だ。 「大騒ぎだな、本当に」 そんな様子を眺め、ゼル・ロッシェは言う。 「なになに? よゆーじゃない。もうパートナー決めたの?」 そんなゼルの肩に顔を乗せ、プリムは言う。 「離れろ。別に決めちゃいねえけどな。でも、師匠と出ようとは思わねえなぁ、俺は」 「え、なんで? ゼル、カンナさんが憧れなんでしょ?」 「バ、バカ。そういう問題じゃねえって。……師匠と一緒じゃ、俺はどうしたって師匠に甘えちまうだろうからな。今年のプロ試験は内容次第、つまりは決闘の中で、ちゃんとプロらしい活躍ができなきゃダメってことだろ? 俺、師匠と一緒に出場して、そんな風に戦える自信ねえもん」 「あー、それはあたしもそうかも。レリウス先生と一緒に出るとかむ〜り〜! でもバッと守られたりしたら、キャー!」 「一人でうるせえ」 「もう、つれないわねぇ。同じ奨励会員同士、仲良くしようよ〜」 「奨励会で仲良くする奴なんて、そんないねえだろ」 「だからこそじゃん」 奨励会は、プロ決闘者の卵たちが集う。 今年は違うが、例年、プロになれる者は人数が限られる。そうでなくても、プロになれば、互いがライバル。相手に勝てば賞金を手にし、負ければ生活がままならなくなる。 だからこそ、決闘者同士、仲よしこよしというわけにはいかない。互いが練磨するライバルでありながら、互いが自分の生活を脅かす敵。そういう意味で、今年のアンフェスバエナというレギュレーションは、実に奇怪なものだ。 「……ねえ、ゼル。ゼルはカンナさんと一緒には出ないのよね?」 「あ? ああ」 「じゃあさ、あたしと出ない?」 「えぇ……。プリムとぉ?」 「なによその正直すぎる反応」 「だってお前、弱いじゃん」 「あー! 言ったなー! 言っちゃいけないこと言ったなー! だいたいゼルだって勝率そんなに良くないじゃん! すぐバーストして魔力切れ起こすし!」 「う、うっせ! うっせ!」 互いの顔を見たゼルとプリムは、どちらからともなく笑い出す。 「わかった、お前くらいが緊張しなくてちょうどいいかもしれねえな」 「そうそう。仲良くできる人がやっぱり一番でしょ?」 「ま、そうだな。じゃ、よろしく頼む」 「りょーかいっ」 笑うプリムに、ゼルも笑い返す。 ゼル・ロッシェ。プリム・ローゼン。結成。 セントリオール駅。 列車が来るのを待っていた一人の少女。その前に、巨漢が立ちふさがる。 「……何? 都市に来てたわけ?」 「おう、面白いことをしに、な」 「あんたの面白いはまったく参考にならないけど。今度は何をやらかすつもり?」 半目で男を見上げる少女。巨漢は、快活に笑って返す。 「プロ試験をアンフェスバエナにしてやった」 「正気?」 「いつだって正気だぜ」 「わかった、正気でバカなのね」 「はん。なんとでも言え。それより、お前、俺のパートナーになれ」 「なんであたしが? あたしはプロになんかなりたくない」 「プロになんざならなくてもいい。ただ、もうひとつ、遊びてえんだよ」 「自分で?」 「そうさ」 にやりと笑う男。そんな男を見て、少女は嘆息する。 「……いいわ、あんたの遊び、付き合ってあげる。どうせ、ヴァンのことなんでしょう?」 「おう、わかってるじゃねえか」 「あんたがプロ試験で遊ぶなんて、それくらいしか思いつかないもの。それに、ヴァンのことになると、やっぱり見過ごせないし」 「フラれたんじゃねえのか、お前」 「るっさい! ぶち殺すわよ!」 「はっはっは、それは異空間でな!」 顔を赤くした少女は、男をにらむ。 「ったく。本当に、あんたの考えってのはよくわからないわ。ゴドウィン」 名を呼ばれた巨漢――ゴドウィン・ブルーノは平然と笑う。 「俺はいつだって、決闘界のことを考えてるぜ」 「どうだか」 あきれた調子で、少女――エクレア・フレイガンは肩をすくめた。 |