「双竜戦……」
 師からレギュレーションを聞いたシルビナは、表情を険しくした。
 カンナの自宅、台所。三人で囲む食卓の席だったが、互いの表情はかんばしくない。
「まさか、今年のプロ試験前に彼が来るとは予想外でした。いえ、彼が予想通りのことをしたためしがありませんが」
 さしものカンナも困惑した表情。ヴァンはそんな二人を等分に見やり、
「なあ、双竜戦ってどんなのだ?」
「二人一組で行う決闘よ。勝敗は、自軍の者が生き残っているかどうかで判断する。極論、自分が負けても、相方が二人倒せば、勝敗では勝ちとなるわ」
「ああ、なるほど……」
「ブッシュネルなんかは想定していたけれど、まさかプロ試験でアンフェスバエナなんて。きっと今年の受験者は大混乱よ」
「一応、特例措置として、試験開始は1週間延期となりました。その間にタッグパートナーを見つけなければいけません。また、タッグ相手は受験者でなくてもよいとされています。シルビナ、ヴァン。ゼルと相談し、パートナーを探さなければいけません」
 ヴァンとシルビナは互いに顔を見合わせ、
「ヴァン、いい?」
「シルビナがよきゃ」
 それだけで互いに通じ合う。頷き合い、二人はカンナを見やった。
「私たちでタッグを組みます」
「……よいのですか? 今年の試験は内容で判断されますが、勝ち続ければ、アピールになるでしょう。勝った方が絶対的に有利。そして、パートナーは受験者でなくても……、つまるところ、私でもいいのですよ」
「確かに、先生と一緒ならば、勝率は上がるかもしれません。でも、私は、ヴァンと出たいんです」
「オレも、カンナと一緒より、シルビナと一緒の方が安心できるしな」
「……二人がそう言うのであれば」
 カンナは小さく頷く。
「ゼルの意向も聞いておきますが、一応、あなたがたは二人で出場という形で登録しておきましょう」
「お願いします」
 頭を下げるヴァンとシルビナ。そして、二人は視線をかわす。
「よろしくな、シルビナ」
「こちらこそ」
 がっちりと握手を交わす。
 ヴァン・レクサス。シルビナ・ノワール。結成。

◇ ◇ ◇


 ガリア邸。
 一人娘であるアリスと、ガリア門下生・ライゼルは、応接室で今年のレギュレーションが記載された紙を前にしていた。
「どうする、お前たち」
 ガリア・ヴァイスラントは二人を見下ろす。ソファに座った二人は互いに顔を見合わせた。
 先に口を開いたのは、アリス。
「ライゼル。私のパートナー、やりなさい」
「僕でいいのかい?」
「実力も能力も知らない雑多なプロをパートナーにするくらいなら、慣れているあなたのほうがいいわ。お父様はタイトルリーグもあってお忙しいでしょうし」
「……単に知らない人とコミュニケーションを取る自信がないだけじゃ」
 パン、と頭をはたかれるライゼル。アリスは父を見上げ、
「そういうことで、私はライゼルをパートナーとして出場するわ」
「よいのか。このような奇怪な形で。特にライゼル。お前は……」
「わかっています、先生」
 ガリアを見上げ、ライゼルは言う。
「僕が毎年、試験に失敗していたのは……、ここぞというところで、覚悟が足らなかったように思います。ですが、今年はアンフェスバエナ。僕の覚悟は、アリスが補ってくれる。むしろ、こんな形の方が、僕には合っているかもしれません」
「なるほどな」
 ガリアは小さく頷き、
「ゴドウィンの馬鹿が現れた時には憤慨したものだが、結果は結果だ。変わるわけでもない。それならば、お前たち二人で、プロの資格を勝ち取ってくるといい」
「任せて」
「はい、やってきます」
 アリス・ラフィーネ・ヴァイスラント。ライゼル・アズール。結成。

◇ ◇ ◇


 奨励会館でも、今年のレギュレーションが発表された直後から、それはもう大騒ぎだった。
 奨励会員たちは、みなプロを目指す者ばかりだ。当然、全員がプロ試験を受験する。だが、アンフェスバエナとなれば別。師匠と組む者、同門の仲間と組む者など様々だ。
「大騒ぎだな、本当に」
 そんな様子を眺め、ゼル・ロッシェは言う。
「なになに? よゆーじゃない。もうパートナー決めたの?」
 そんなゼルの肩に顔を乗せ、プリムは言う。
「離れろ。別に決めちゃいねえけどな。でも、師匠と出ようとは思わねえなぁ、俺は」
「え、なんで? ゼル、カンナさんが憧れなんでしょ?」
「バ、バカ。そういう問題じゃねえって。……師匠と一緒じゃ、俺はどうしたって師匠に甘えちまうだろうからな。今年のプロ試験は内容次第、つまりは決闘の中で、ちゃんとプロらしい活躍ができなきゃダメってことだろ? 俺、師匠と一緒に出場して、そんな風に戦える自信ねえもん」
「あー、それはあたしもそうかも。レリウス先生と一緒に出るとかむ〜り〜! でもバッと守られたりしたら、キャー!」
「一人でうるせえ」
「もう、つれないわねぇ。同じ奨励会員同士、仲良くしようよ〜」
「奨励会で仲良くする奴なんて、そんないねえだろ」
「だからこそじゃん」
 奨励会は、プロ決闘者の卵たちが集う。
 今年は違うが、例年、プロになれる者は人数が限られる。そうでなくても、プロになれば、互いがライバル。相手に勝てば賞金を手にし、負ければ生活がままならなくなる。
 だからこそ、決闘者同士、仲よしこよしというわけにはいかない。互いが練磨するライバルでありながら、互いが自分の生活を脅かす敵。そういう意味で、今年のアンフェスバエナというレギュレーションは、実に奇怪なものだ。
「……ねえ、ゼル。ゼルはカンナさんと一緒には出ないのよね?」
「あ? ああ」
「じゃあさ、あたしと出ない?」
「えぇ……。プリムとぉ?」
「なによその正直すぎる反応」
「だってお前、弱いじゃん」
「あー! 言ったなー! 言っちゃいけないこと言ったなー! だいたいゼルだって勝率そんなに良くないじゃん! すぐバーストして魔力切れ起こすし!」
「う、うっせ! うっせ!」
 互いの顔を見たゼルとプリムは、どちらからともなく笑い出す。
「わかった、お前くらいが緊張しなくてちょうどいいかもしれねえな」
「そうそう。仲良くできる人がやっぱり一番でしょ?」
「ま、そうだな。じゃ、よろしく頼む」
「りょーかいっ」
 笑うプリムに、ゼルも笑い返す。
 ゼル・ロッシェ。プリム・ローゼン。結成。

◇ ◇ ◇


 セントリオール駅。
 列車が来るのを待っていた一人の少女。その前に、巨漢が立ちふさがる。
「……何? 都市に来てたわけ?」
「おう、面白いことをしに、な」
「あんたの面白いはまったく参考にならないけど。今度は何をやらかすつもり?」
 半目で男を見上げる少女。巨漢は、快活に笑って返す。
「プロ試験をアンフェスバエナにしてやった」
「正気?」
「いつだって正気だぜ」
「わかった、正気でバカなのね」
「はん。なんとでも言え。それより、お前、俺のパートナーになれ」
「なんであたしが? あたしはプロになんかなりたくない」
「プロになんざならなくてもいい。ただ、もうひとつ、遊びてえんだよ」
「自分で?」
「そうさ」
 にやりと笑う男。そんな男を見て、少女は嘆息する。
「……いいわ、あんたの遊び、付き合ってあげる。どうせ、ヴァンのことなんでしょう?」
「おう、わかってるじゃねえか」
「あんたがプロ試験で遊ぶなんて、それくらいしか思いつかないもの。それに、ヴァンのことになると、やっぱり見過ごせないし」
「フラれたんじゃねえのか、お前」
「るっさい! ぶち殺すわよ!」
「はっはっは、それは異空間でな!」
 顔を赤くした少女は、男をにらむ。
「ったく。本当に、あんたの考えってのはよくわからないわ。ゴドウィン」
 名を呼ばれた巨漢――ゴドウィン・ブルーノは平然と笑う。
「俺はいつだって、決闘界のことを考えてるぜ」
「どうだか」
 あきれた調子で、少女――エクレア・フレイガンは肩をすくめた。