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月日は矢のように過ぎ去る。 そうして迎えた、プロ試験本番。会場は、奨励会館からも程近い、民営のイベント会場を貸し切ることになった。 今年の受験者は47名。レギュレーションがアンフェスバエナとなった以上、例年通りのルールとはいかなくなり、試合の組み方も大幅に変更されることになった。 試合に参加するのは全30組。試合形式は例年通りのリーグ戦。勝てばその組はポイントを入手する形式となり、特に相手を倒したプレイヤーは大きな得点を得ることになった。もちろん試合内容も考慮され、パートナーをサポートしたり、単独で相手に大きなダメージを与えるだけでもポイントは手にできる。プロと組んだ者は、プロに任せきりにしたり、プロのサポート頼りで戦えば、ポイントを手にできない仕組みだ。 参加者が集まったイベント会場で、奨励会員たちは小さな輪となっていた。 「ひゃあ、これ全員、決闘者なんだよな! そうだよな!」 「ヴァン。落ち着いて。どうせ全員と当たるのだから」 「ヴァンが落ち着きねえのはいつものことだろ」 「それがヴァンのいいとこよね〜」 「ちょっとライゼル。顔がこわばってるわよ。緊張しているの?」 「……君たちのリラックス具合がむしろ不思議だよ」 6人の奨励会員たちは、試合開始の時を今か今かと待ちわびる。いくらかの緊張も見て取れるが、極端に恐れている者はいない。みな、程よい緊張に包まれているのだ。 そうこうしているうちに、壇上に壮年の男性が現れた。決闘連盟のグレアムだ。マイクを手に、壇上から皆を見渡す。 「あ、あ。さて、みなさん、おはようございます。今日からプロ試験が始まります。一度の勝利、一度の敗北がすぐさまプロの切符に繋がるわけではありません。勝っても慢心せず、負けても諦めず、確実に一勝を目指すようにしましょう」 あたりさわりのない挨拶。と、そんな壇上に、どかどかと一人の男が乱入する。 その顔を見て、ヴァンは目を見開いた。 「あー! おっさん!?」 「おっさん……?」 隣でシルビナが首をかしげる中、壇上の男は構わずグレアムのところまで歩み寄る。 「おう、ちょっとマイク貸してくれ」 「わ、ちょっと!?」 グレアムからマイクをむしり取り、男は全員を睥睨する。 「よう、俺はゴドウィン・ブルーノ! ここじゃ永世竜王って言った方がわかりやすいかもしれねえな! 今年の試験は俺がルールを決めた! 文句がある奴は俺をぶちのめして、来年からテメエでルールを作るといいぜ! ま、俺は負けねえけどな!!」 はっは、と快活に笑ったゴドウィンは、続けて、ヴァンの方を見た。 「いよう、ヴァン。久しぶりだな! どうだ、都市は。楽しいか!?」 「おう、楽しいけどよ! おっさん、師匠とかが必要ならそう言えよ! いきなり列車に乗せやがって!」 「ははは、いいじゃねえか! お前は決闘だけありゃいいんだろ! 決闘で会話する、それが決闘者ってもんだ!!」 ゴドウィンは自分を親指で差し、 「ヴァン、俺に勝ってみせな! お前が都市で勝ち取ってきたもん、全部、俺に見せてみろ!!」 「ああ、やってやらあ!!」 叫ぶゴドウィンに、吼え返すヴァン。 二人の間では火花が散っていた。 ヴァンたちが試合開始までの時間を過ごしていると、慌てた様子で二人の男女が走って来た。 「お、カンナにレリウス。そんな慌ててどうしたんだ?」 迎えたヴァンはいつもの調子だったが、二人はそうではなかった。 「ヴァン、あなた、ゴドウィンと知り合いだったのですか?」 レリウスに手を引かれたカンナは、自分の弟子に問いかける。ヴァンは小首をかしげ、 「ああ、おっさん? 田舎で決闘を教えてくれたのがおっさんだけど」 「い、田舎で……、決闘?」 「そういうことだったのか。君の決闘スタイルは、ゴドウィンの……」 うなるレリウスと、あきれるカンナ。そんな二人に、奨励会員たちも当惑する。 「あの、彼はどなたですか?」 「どなた!? ……ああ、そっか、君たちは知らないのか。確かに、もう20年近くも前だからね」 「20年前?」 レリウスは頷き、 「彼はゴドウィン・ブルーノ。永世竜王だ」 「永世竜王ってなんだ?」 「竜王はタイトルのひとつでね。永世竜王というのは、タイトル防衛線を3度勝ち抜いたという意味だ」 「永世タイトルホルダー……。それなのに、20年も都市を離れていたんですか?」 シルビナの問いに、カンナが答える。 「彼は永世タイトルがかかった防衛線に勝利し、直後、都市から姿を消しました。以来、誰も行方を知りませんでした」 「姿を消したって……。それじゃあ、公式手合はどうなるんですか」 「公式手合に出る必要はありません。何故なら、彼はプロではないからです」 皆が目を丸くする。そんな面々に、レリウスは言う。 「竜王戦は、七大タイトルの中で唯一、アマチュアが参戦できるタイトルだ。とはいえ、普通、プロでもない決闘者がタイトルを手にすることはない。そんな中で、初めてのアマチュア永世竜王となったのが……、ゴドウィンという男だ」 「ふらりと現れ、竜王リーグに参戦。プロですらないのに次々とライバルを撃破し、当時の竜王を破った時は、一般の新聞にすら名前が出たほどです」 「昔から破天荒な人でね。竜王リーグも遅刻したり、道場で昼寝をしたり、とにかく自由すぎる人だった。まさか、そんな人が、今さら都市に来るなんて……。誰も思っていなかったんだが」 驚きに目を見張っていたプロ決闘者たちは、ヴァンを見据える。 「まさか、あのゴドウィンが弟子を作っていたなんて。強いわけだ」 「同時、ヴァンの破天荒ぶりも納得できます。彼の指導では、まともな常識は身につかないことでしょう」 「……なんかオレ、悪口を言われてる?」 「ただの事実確認よ」 小声で言うヴァンに、同じく小声で返すシルビナ。 「いけない、時間だ。……と、とにかく。プロ試験は予定通りに行われる。みんな、悔いのないように」 「はい!!」 レリウスの言葉に、ある者は頷き、ある者は元気に返す。 プロ試験が始まる。 |