荒野の中で、ヴァン・レクサスは大きく息を吸った。
「ぶっはー、やっぱこっちの方が落ち着くな」
「そうね」
 ヴァンの隣で、シルビナも頷く。
 アストラルサイド。二人の装備は、いつもと同じ。ヴァンは剣のみ、シルビナは片刃の剣とブレストアーマー。気負いはない。気負う必要もない。
「お前たちが初戦か。ツイてんだかツイてないんだか」
「よろしく〜」
 対戦相手もまた、フィールドに入ってくる。
 ハチガネを巻いた烈火のごとき少年――ゼル・ロッシェ。
 キュートなドレスに身を包んだ少女――プリム・ローゼン。
 四人が暴れまわることを考慮し、フィールドはいつもより広め。遠慮なく暴れられる。
「ヴァン」
 小声で呼ばれ、ヴァンはそっとシルビナに顔を寄せる。
「ゼルはガチガチの前衛タイプ、プリムはテクニカルな後衛タイプ。おそらくだけど、ゼルが前衛でプリムを守り、代わりにプリムが大技を決めてくるはず」
「オレたちは揃って前衛タイプだからな。突っ込むしかねえ」
「そうなるわ。まずは、私がゼルを押さえる。ヴァンは速攻でプリムに斬りかかって、動きを止めて」
「りょーおかい」
 作戦が決したところで、四人は対峙した。
「準備はいいか?」
「いつでも」
 ゼルの問いかけに、ヴァンは頷く。
「じゃあ……、行くぜッ!!」
 決闘開始!!
 同時、ゼルは大きく跳びすさる。追いかけようとしたシルビナは、目の前に光を感知し、剣を振るった。
「ッ!?」
「ざーんねん! そうはさせない!!」
 プリムが――前に出ている!
「前後チェンジ!?」
 ゼルがサポートに、プリムがアタッカーに!
 想定していない布陣に、思わずシルビナは二の足を踏む。その隙に、前線から大きく距離を空けたゼルは、拳を掲げた。
「サモンウルフ!!」
 呼び出されたのは炎の狼。その数3体。
「ヴァンを止めろ!!」
 ゼルの指示に従い、群狼はヴァンに襲いかかる。
「うおお!?」
 スピード型のヴァンは群狼の攻撃もなんとか回避するが、とかく数で負ける以上、厳しい。しかも狼たちは火炎弾を吐き、ヴァンを追い詰めていく。
「ヴァン!」
「おーっと、よそ見していていいわけ?」
 ヴァンに気を取られたシルビナ。その懐に、プリムが飛び込んでいる。
「ショットッ!!」
「ッ!!」
 いつもの華美は投げ捨てた、実用性重視の魔力性散弾ショットシェル。それをゼロ距離で撃ち込まれ、シルビナはもんどりうって倒れる。
「シルビナッ!」
「ほら、お前も人をかばう暇なんかねえぞ!!」
 ゼルの指示を受け、狼たちは揃って火炎を吐き出した。真っ赤に燃える火炎弾を前に、ヴァンの瞳がかえって落ち着いていく。
「流れを……、つかんで」
 ひとつをかわし、ふたつをかわし、しかしかわせぬ三発目。
 その中心に燃える魔力を見据え、ヴァンは表面をなでるように剣を振るう。
 炎は剣に巻き取られ、その方向を変える。
「な、にッ!?」
「喰らえよッ!!」
 相手の炎を奪ったヴァンは、そのままサモンモンスターにぶつけ返した。もちろん炎狼が炎でダメージを喰らうことなどないが、術者の動揺はそのままサモンモンスターまで伝わり、動きを乱す。その隙に、
「でえい!!」
 神速の抜剣。二匹の狼を斬り捨て、ヴァンはそのままゼルに向かって突撃する。
「くッ……、やれ!!」
 前後から挟まれる形となったヴァンだったが、迷わなかった。背中から来る熱波を感じながら、ゼルと激突する直前、大きく飛び跳ねる。
「なッ!!」
 結果、火炎弾をかわす余地のなくなったゼルは、直撃を受けた。
 炎が舐める中、よろめくゼル。その背中に、
「悪いが、遠慮しねえぜ!!」
 飛び降りていたヴァンの剣が刺さる。
 致命傷。ゼルは敗北判定により現世へ。同時、サモンモンスターも光となって消える。
「ゼル!?」
 味方があっさりやられることは想定していなかったのだろう、慌てるプリム。その前に、ゆらりと影が立つ。
「え?」
「一撃で、私を……、倒せると思わないで!!」
 溢れる魔力。瞬間的判断でバーストしていたのだとプリムが気づいた時には、すでに遅く。
 シルビナの全力を込めた斬撃は、プリムのロッドでは到底受け止めきれぬものだった。

◇ ◇ ◇


「っかー、負けた負けた」
 地べたに座り込み、ゼルは手足を放り出した。隣でプリムも嘆息する。
「これで一敗かー。いけると思ったのにー」
「あの程度、負けはしないわ」
 返すシルビナも満足そうだ。普段から表情は薄いが、ヴァンにはなんとなく理解できるようになっていた。
「やっぱ付け焼刃じゃダメかもしんねえな。プリム、後衛やれよ」
「それこそ付け焼刃じゃない」
「まあそうだけどさー」
 うめいたゼルは、ヴァンとシルビナを見上げる。
「ま、お前たちも油断すんなよ。これはプロ試験なんだ。一度の勝利で決まるわけじゃないし、一度の負けで決まるわけでもねえ。特に今年は、プロになれる人数には上限を決めねえって話だ。チャンスは誰にでもある」
「もちろん、わかっているわ」
「あたしたちだって負けないから! ……そういえば、ヴァンとシルビナの相手、次ってあれよね?」
 対戦表は、先んじて配られている。日程もすでに決まっており、明日の対戦相手は明記されていた。
 次の相手は――アリス・ヴァイスラントとライゼル・アズールペア。
「強敵じゃない。これで一敗同士ね」
「決めつけんなよ。ライゼルもアリスも強いけど、そう簡単に負けないぜ」
「そうね。特に、ヴァンはアリスにもライゼルにも、一度は勝っている。地力で言えば、二人と比べてもそん色ないわ。あとは、私が耐えきれば……」
「おう、頼むぜ」
 互いに頷き合うヴァンとシルビナ。
 対戦は、もう迫っている。