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翌日。アストラルサイド。 荒野の中に、四人の決闘者が立っている。 「今日こそ決着をつけてあげるわ、ヴァン・レクサス!」 両手に銃を持ったアリスは、いつもの軍服姿で、ヴァンをにらみつける。横に立つライゼルは苦笑を浮かべ、 「まあ、お手柔らかに頼むよ」 「あなたたちを相手に、手加減などできるはずもないでしょう」 片手剣を手に、シルビナは身構える。左手には、いつもは装備しない盾を持っていた。 「ヴァン。私が突っ込む。あなたは私の後ろから来て、折を見て飛び出して」 「りょーかい」 剣を揺らしながら、ヴァンは頷く。 見たところ、アリスはいつもと同じ、ガンナースタイル。ライゼルもまた、杖を持ったサモナースタイルだ。もっとも、この二人はベテランだけあり、スタイルに縛られない多彩な技を持っている。外見だけで決めつけるのは危ない。 ヴァンもまた、身を低くして構える。 開戦! 「ふッ!」 突撃するシルビナ。その後ろに守られながら、ヴァンも走る。シルビナに合わせ、スピードは控えめ。 そこに、 「ッ!?」 シルビナの足が止まる。直後、衝撃。 「シルビナ!?」 こちらと同時に突撃していたアリスの攻撃だ。装備はいつの間にかナイフに変わり、両手の刃をもってアリスを攻め立てる。 「くッ!?」 いつも中遠距離からの攻撃を主体としているアリスだったが、なかなかどうして、近接格闘も悪くない。間合いはシルビナの方が広いものの、すでに懐まで飛び込まれてしまった。そうなってしまえば、間合いも何もない。 そして、両手に持つナイフによる回転率が並ではない。シルビナが一度攻撃する間に、アリスは二度、三度とナイフを振るってくる。 「シルビナ!」 慌てたヴァンは、視界の隅にライゼルを捉えた。 「サモンソード!!」 召喚魔法。現れたのはリビングソード――意志を持つ剣だ。幽鬼のように揺らめいた剣たちは、全部で四本。それらが、ヴァン目がけて殺到してくる! 「いッ!?」 四本の剣をかわし、弾く。いなしたところで、 「甘いわ!!」 「ぬお!?」 眼前を光線がよぎった。アリスの銃撃だ。 「てめえ、ナイフじゃなかったのか!?」 「武器のスイッチくらいで驚いてんじゃないわよ!!」 今度は左手に銃、右手にナイフを持っている。 アリスの厄介なところだ。武器の精製速度が極端に早い彼女は、装備を戦いの中でも変更してくる。ナイフの間合いだと油断すれば銃弾が飛び交い、ダメージを与えてくる! 「くそッ!」 全力抜剣。リビングソードたちを弾いたヴァンは、アリスに狙いを変えようとして、 「っ!?」 剣たちの挙動に気付く。リビングソードたちのきっさきが変わっている――。 「シルビナ!」 「くぅ!?」 殺到する剣たち。標的はシルビナだ。 なんとか盾でガードするが、衝撃に、シルビナは大きくのけぞった。 「くそッ!」 カバーに入ろうとしたヴァン。その姿を認めたシルビナは叫ぶ。 「ヴァン! 私はいいから、ライゼルを! サモナーを捨て置いてはダメ!!」 「えっ!?」 振り返る。ライゼルの周囲には、すでに淡青色の光が満ちていた。 サモナー特有の強化魔法。召喚魔法をブーストし、自分自身が消費する魔力以上の召喚獣を呼び出す技術。 「遅いよ、ヴァン。見誤ったね!」 直後。魔法陣から、無数の牙が生まれる。 「サモンドラゴン!!」 生まれたのは、巨大な竜の顔。それが三体も。 「やべっ……!」 ヴァンは慌てて駆け出す。だが、竜たちの咆哮は、それよりも早い。 「斉射!!」 ライゼルの指示に従い、超竜たちは一斉にブレスを吐き出す。それぞれが強大な光線だ。 「ッ!!」 光線と光線の間にある、僅かな隙間。その間隙を見つけ、ヴァンは飛び込む。目の前を死がよぎる。 「あっぶねぇ……、なッ!?」 目の前。そこに、剣がいた。 慌てて剣を払う。弾かれたリビングソードはよろめいた。意志持つ剣は、人間が振るう剣と違ってパワーはないが、ありえない挙動で迫ってくる。 「終わりよ、ヴァン・レクサス」 剣を振り切って開いた体。 そこに、銃弾が撃ち込まれる。 「がッ……!!」 アリスに狙われていたのだと、気づいた時にはすでに遅く。 弾かれてよろめいていたリビングソードが向きを変え、ヴァンの胸に突き刺さる。 「ヴァン!!」 「他人の心配している暇なんか、ないわよ!!」 動揺したシルビナ。その前には、ナイフを両手に持ったアリスが迫っている。 慌てて盾を構えるが、アリスの挙動はそんなガードを許さない。 「遅い」 爆発的加速。背面を取られたシルビナの背中に、ナイフが突き刺さる。 「せいっ!!」 情けも容赦もない爆発魔法が、シルビナを包み込む。 爆炎と勝敗を示す鐘の音は、同時に響き渡った。 現世に戻ったシルビナは、大きく嘆息した。 「さすがね。……どうやってリビングソードに、標的の切り替えなんて指示したの? リビングソードは単純な命令しか受け付けないはずでしょう。しかも、リビングソードを使役しながら、ドラゴンまで召喚するなんて……」 「簡単さ。僕は操作していない。召喚しただけでね」 ぱちん、とウインクするライゼルに、シルビナは首をかしげる。 「どういうこと?」 「つまり、召喚権は僕が使い、『アリスの挙動に従え』と命じたのさ。アリスの銃が狙う相手が標的、って」 「それで操作を!?」 「アンフェスバエナ独自の戦法さ。通常、サモナータイプは、1種類を召喚すると、続けて召喚することが難しくなる。それは、操作しながら召喚ができないからだ。けど、操作する権利を他人に分け与えてしまえば……、二重召喚が可能になる」 「でも、それじゃあ、アリスはリビングソードの挙動も考えながら、私と格闘戦をしていたというの……?」 「その程度。造作もないわ」 胸を張った生粋の決闘少女は、シルビナに言う。 「サモンが苦手だから普段は使わないだけで、指示するだけならば簡単だもの。それに、あなたは鈍重でスピードがないから、ヴァンの動きに集中できたわ」 「――完敗ね」 肩をすくめるシルビナ。文字通り、次元が違って見えた。自分は、他人が召喚したモンスターを使いこなす自信などない。 ふと気がつけば、ヴァンは片隅で茫然としていた。 「ヴァン?」 声をかけると、ヴァンはようよう振り向いた。 「そんなに落ち込まなくても、いっぺん負けただけよ。次がある」 「……ああ」 頷いたヴァンは、すぐに首を横に振る。 「いや、そうじゃねえ。あの時、オレが速攻でライゼルに仕掛けてりゃ、ライゼルは倒せた。召喚したモンスターも消えて、こっちが有利になれた。そうできなかったのは……、オレのミスだ」 「それは……」 違う、とは言えなかった。事実、その通りだからだ。 タッグ戦は、お互いのコンビネーションがものを言う。片方がミスをすれば、実質的に2対1となり、一方に流れが傾いてしまう。 アリスとライゼルのコンビネーションは完璧だった。一方で、ヴァンとシルビナは、そうではなかった。それだけのことだ。 「……オレ、シルビナのこと、ちゃんと信じてやれなかった。そのせいだ」 「ヴァン……。それは、しょうがないわ。私が弱いから」 「いや、そんなことないさ」 首を振ったヴァンは、そっと会場の外へ足を向ける。シルビナはなんと言うべきか迷い、言葉の苦手な彼女は、何も言うことができなかった。 「そっとしておくといい。壁は自分でしか越えられない」 「……ええ」 肩に手を乗せるライゼルを見上げ、しかし、シルビナは素直にうなずけなかった。 |