プロ試験最大の特徴。それは連日、試合が組まれるという点だ。
 プロ同士の公式手合、特にタイトルリーグなどは、試合と試合の間に日を置く。万全の体調を整えるためだ。
 一方で、プロ試験にはそういった配慮など一切ない。決闘の技術と共に、タフさが求められるのだ。
 それは、肉体的な問題であり――精神的な問題でもある。
「ヴァン……」
 アストラルサイドに移動しても、今日のヴァンは冴えなかった。
 表情が暗い。いつも表情が暗いシルビナには言えないが、今日のヴァンには、いつもの明るさがなかった。
「ヴァン、切り替えないと」
「ああ」
 剣を振り、ヴァンは構える。対戦相手は奨励会で見知った顔だ。パートナーは、師匠であるプロを連れているらしい。
「今日の相手は、プロと一緒よ。プロは実力こそあるけど、試験であることを考えれば、きっとサポートしかしてこない。まずは捨て置きましょう」
「ああ」
 答えたヴァンに、シルビナはわずか、暗雲を見た。
 それでも切り替え、相手を見据える。
 開戦!
「はッ!」
 合図と共に突っ込んでくる奨励会員の少年。後ろでは、師匠が銃を構えている。アリスと同じ、ガンナースタイルだ。
「ヴァン!」
 声をかけながら、シルビナも突撃する。少年と剣を結び、攻撃を受け止めた。そんな少年の背後に、ヴァンの姿が迫る。
「ッ!? ヴァン!!」
「え? ぬおっ!?」
 そのわずか横を、銃弾がよぎった。
 捨て置くとは言ったが、プロなのだ。視界から外せば銃撃されるのは道理。
「どうした!? ガードが甘いぜ、シルビナッ!!」
「ッ!!」
 目の前の少年もまた、剣を振るう。大振りの剣は甘いガードなど吹き飛ばすほどの勢いがある!
「しまっ……」
 大きく開いた体。そこに銃弾が撃ち込まれる。
 もちろん、障壁でガードしているシルビナは、銃弾を数発程度、撃ち込まれたくらいでは倒れない。だが――。
「シルビナ!」
「ヴァン、だからダメ!!」
 シルビナが撃たれたことに動揺したのだろう、ヴァンは完全にプロから目を離してしまった。その間に、特大の銃弾が放たれる。
「上に!」
 かろうじて気づいたヴァンは、紙一重で銃弾をかわす。だが、大きくバランスを崩した状態では、次の動作に繋げない。
「そこだ!」
 少年の斬撃。回避特化のヴァンですらかわせぬ斬撃は、その体を両断する。
「ヴァ……!」
「おせえ!!」
 少年の剣は、勢いそのままシルビナを狙ってくる。
 合間に跳んでくる銃弾が手足を打ち抜き、集中力をそいでくる。
 完全なジリ貧だった。そして、そんな悪環境をはねのけるほどの実力は、シルビナにはまだなかった。

◇ ◇ ◇


「どうしたのヴァン! あんな決闘、あなたらしくないわ」
 現世に戻ったヴァンとシルビナ。シルビナはヴァンを会場の外、建物のかげとなる場所まで引っ張ると、詰問する。
「……わりぃ」
 ヴァンはそれしか答えなかった。うつむく顔に、シルビナも言葉を失う。
「本当に、どうしたの? あなたが、あんな調子なんて。アリスに負けたせい?」
「そうだな……。いや、そうじゃねえのかも。なんていうか、オレが悪いんだけどさ」
 頭をかき、少年は続ける。
「シルビナはさ、オレの夢、応援してくれてるじゃんか。わざわざ改宗までして」
「それは……。だって、たいしたことではないわ」
「やることはたいしたことじゃない。でも、心の底からアルウェズを信奉してくれなきゃ……、心の底からオレを応援してくれなきゃ、改宗は成功しない。改宗できたってことは、シルビナがそんだけオレを信じてくれてるってことだ」
 うつむいたまま、ヴァンは続ける。
「それは、オレが望んだことで、オレの夢で……。でも、そうやってオレのところに来てくれたシルビナを、傷つけたくないって思っちまった。アリスと戦って、あるいはゼルとやった時だってそうだ。シルビナが傷つけられるって思うと、動揺しちまう。それが、どんどん悪化している」
「それは……」
 心の奥底で、ほんの少し、シルビナは喜ぶ。だが、同時、そんな自分に失望もした。
 シルビナは、自分のパートナーをしっかと見つめ、その肩をつかむ。
「ヴァン。あなたは何」
「何って?」
「決闘者でしょう。あなたは」
 ヴァンはようよう顔を上げた。
 その瞳を見据え、シルビナは続ける。
「決闘者には何がある? 決闘しかないのよ。私たちは、決闘で勝つこと、ただそれだけのために生きているの。アンフェスバエナは、私がやられたところで負けじゃない。あなたが勝てばそれでいいのよ」
「オレが……、勝てば」
「そう。ヴァン。約束して。絶対に、絶対に勝つと」
 冷静に考えれば、そんなこと、約束できるはずもない。
 決闘は同じ条件を持った者同士の戦いだ。勝つこともあれば、負けることもある。それでもシルビナは勝利を求め、そして、ヴァンはそんなシルビナを見つめていた。
 そう、自分の夢が初めて一歩前進して、その事実に、忘れてしまったのだ。
 自分の初心。何をすべきか。
 ヴァン・レクサスは決闘者だ。決闘者は、生きるすべてを決闘のために消費する。そういう、頭のおかしな連中なのだ。
 そのことを――思い出した。
「……シルビナ」
「何?」
 頭を振ったヴァン。その表情は、少しだけマシになっていた。
「悪い、ありがとな」
「まだ答えを聞いてないわ」
「……勝つよ。オレは勝つ」
 ヴァンは頷く。シルビナも、少しだけ頬を緩めた。
「そうこなくては」
 勝つこともあれば、負けることもある。それでも、勝つつもりでやる。それが決闘というものだ。
自分が最強だという顔で歩ける者でなければ、決闘者になどなれはしない。
「そうさ。オレは、最強になる」
 誰にでもない。
 自分に誓うのだ。
 それが、決闘者の証。
 息を吹き返したパートナーに、シルビナはそっと嘆息した。