|
そして、とうとうその日がやってきた。 朝方。会場には、六人の奨励会員が集まっていた。 「ヴァン、今日はお前がゴドウィンさんと試合すんだろ? どうなんだよ」 「勝つって」 「はぁ!? ヴァン・レクサスごときが永世竜王に勝てるはずないでしょう!」 「アリス。自分が負けたからってやつあたりするのはやめようね」 「でもでも、実際、どうやって勝つかなんて、考えもつかないんだけど〜?」 「ヴァンが言うからには大丈夫よ」 「……なんかシルビナ、前より頭悪くなってない?」 「そんなことないわ」 ワイワイガヤガヤと、開戦の時を待つ。と、会場がひときわざわめいた。 見れば、ゴドウィンの巨体がのしのしとこちらに迫ってきている。 「いよう、ヴァン。いよいよだな。成果は集まったか?」 「もちろん。おっさん、今日は倒すぜ」 「はっ! 面白いぜ、面白いんだよ、お前は! 本当にな!」 にやりと獰猛な笑みを浮かべるゴドウィン。その背後から、金髪の少女が顔を覗かせる。 「ヴァン、今日はあたしも戦うからね。遠慮しないよ?」 「おう、そのつもりだぜ。それに、こっちにゃ最強のパートナーがいる」 ヴァンはシルビナの肩を抱くと、ぐっと抱き寄せた。 「おっさん、シルビナ・ノワール。オレのパートナーだ」 「カンナの門下生か。そんなんで勝てるのか?」 「他の誰でも勝てねえよ。シルビナと一緒だから勝てるんだ」 ヴァンはまっすぐ、ゴドウィンを見上げる。その隣で少女が頬を赤らめているが、気づいてもいない。 「やろうぜ、おっさん! 最高の決闘、見せてやるよ」 そう言って、ヴァン・レクサスは満面の笑みを浮かべた。 アストラルサイドへ移行する。 フィールドは荒野。ヴァンの装備はいつもの剣一本と、普段着のジャケット。かたわらに寄り添うシルビナは、胸を覆う鎧に、金属製の具足や手甲を装備した戦士スタイルだ。 対するゴドウィンは、ヴァンと同じく戦斧一本のシンプルなスタイル。エクレアもまた、ナイフの二刀流に露出の多い服装をした、いつものスタイル。 「なんだよ、結局、お前らもいつも通りじゃねえか」 「いいんだよ、それで」 奇をてらったところで、格上に勝てるわけではない。付け焼刃が通じないのは、ゼルが教えてくれた。 勝ちを狙うならば、正攻法。ただし、真正面から戦っても勝ち目はない。だから、ほんの少しだけ――いつもと違うことを混ぜる。 それが、ヴァンの作戦。 「シルビナ、ヴァンの足を引っ張らないでよ。あたし、遠慮なんてできないから」 「結構よ。かかってきなさい」 竜王と雷神。まさに双竜戦と呼ぶにふさわしい、頂点のタッグを前に、ヴァンは小さく震えた。 「行くぜ……、シルビナ!」 「ええ!」 開戦!! 吼えるヴァンとシルビナは突貫する。同時、エクレアも動く。 「さっせるかあ!!」 両手のナイフ、狙う先はシルビナ。 順当に倒しやすい方から倒そうというのだろう。左右から攻め立てるナイフを、シルビナは驚異の動体視力で見切り、受けかわしていく。 その間にも、ヴァンは全力で疾走していた。ゴドウィンとの間合いを詰め、 「ふッ!」 「はん!」 戦斧を振り上げたゴドウィン。必殺の一撃を回避し、ヴァンは剣を振るう。 「甘いぜ!」 当然、弾かれる。 ゴドウィン・ブルーノのまとう鎧は天性の感覚によるもの。どこから、どのように剣を当てても、必ずや過不足ない障壁でガードしてしまう。その鎧を超えるには、相手の予想を超えるしかない。 ゴドウィン・ブルーノの才気を、上回るのだ! 「うららららららぁ!!」 超高速の連続斬撃。 空を、地を蹴り、ヴァン・レクサスはフィールドを縦横無尽に駆け巡る。目で捉えることさえできない攻撃。それを、ゴドウィンは的確に把握している。 「魔力を見てりゃ、相手の攻撃なんて、どっから来るかすぐわかる。視界にいなくてもな」 ゴドウィンは冷静だった。ヴァンのスピードは、常人が目で捉えられるものではない。もちろんゴドウィンは常人などではないが、それにしても、いちいちその行く先を目で追いかけるのは得策とは言えない。 だからこそ、感じるのだ。魔力の流れ、その逐一。空間に漂う魔力をちゃんと見ていれば、その渦、その流れなど、誰にでも見て取れる程度のものだ。 そんな簡単なことさえできない者ばかりであるという事実に、ゴドウィンは失望したのだから。 「その程度じゃ、竜王様は殺せないぜ」 剣を斧で弾いたゴドウィンは、地を踏んだヴァンに斬りかかる。 「はッ!」 斧の軌跡が大地を割り、風が吹き荒れる。飛び散った砂利を浴びながら、それでもヴァンは止まらない。 「おいおい、お前、俺ばかり相手にしていていいのか? 嬢ちゃん、エクレアにやられちまうぜ」 視界の片隅で捉えるシルビナは、苦悶の表情を浮かべていた。 ヴァンと同じ超高速機動で走るエクレアを、シルビナの剣では捉えられないのだ。剣を振るった先にはすでにエクレアの姿がなく、距離を置いたり縮めたりを繰り返している。 「大丈夫だ。シルビナは、ちゃんとやってくれる」 「随分と信頼してんだな?」 「決めたからな。信じるって!」 全力で剣を振り下ろしたヴァンは、ゴドウィンと激突した。次の刹那、その体を蹴って大きく跳躍する。 視界いっぱいに広がるフィールド。どこまでも続く荒野、そこを駆け巡るエクレアと、狙われた獲物たるシルビナ。 瞬間、シルビナは下段に構えると、両手で剣を強く握る。警戒したエクレアは距離を開いた。すでに剣の間合いではない――。 「はあッ!!」 それでも、シルビナは構わず剣を振った。その軌跡が光となり、空間を焼く。 「斬撃を……、飛ばしたッ!?」 三日月のごとき魔力は斬線そのまま、空間を切り裂いていく。予想外の遠距離攻撃にエクレアは大きく跳躍した。足先を斬撃がかすめる。 「甘いわね、その程度じゃ……、ッ!!」 斬撃が自分に迫ってくるのを、ヴァンはしっかりと見ていた。 「ナイスだ!!」 シルビナが込めた魔力、その核を見極め、剣を刺す。 まとった魔力はヴァン自身の剣を覆い、力を貸す。 「なにッ!?」 「これなら!! どうだよ!!」 シルビナの魔力を身に受けたヴァンは、全力で走った。 ゴドウィンといえど、貸与されている魔力は同じ。彼が最強なのは、単にその運用が上手いというだけの話。 だが、これはアンフェスバエナなのだ。それぞれが魔力を貸与されている。 つまりは――ゴドウィンが持っている以上の魔力で斬りかかれば! 「斬れねえ道理はねえ!!」 全力の斬撃。 ゴドウィンもまた回避はできず、斧でガードする。剣と斧が激突し、火花が散ったのはほんの一瞬。 「でえええあああああああ!!」 ヴァンの気合が、斧を叩き割り、勢いそのままゴドウィンの体を浅く薙ぐ。 「……っせるかぁ!!」 吼えるゴドウィン。全身から魔力が放たれる。緊急避難の魔力爆発だ。予想していたヴァンは、そのまま大きく距離を置く。 そして、背後に剣を振るった。 |