そして、とうとうその日がやってきた。
 朝方。会場には、六人の奨励会員が集まっていた。
「ヴァン、今日はお前がゴドウィンさんと試合すんだろ? どうなんだよ」
「勝つって」
「はぁ!? ヴァン・レクサスごときが永世竜王に勝てるはずないでしょう!」
「アリス。自分が負けたからってやつあたりするのはやめようね」
「でもでも、実際、どうやって勝つかなんて、考えもつかないんだけど〜?」
「ヴァンが言うからには大丈夫よ」
「……なんかシルビナ、前より頭悪くなってない?」
「そんなことないわ」
 ワイワイガヤガヤと、開戦の時を待つ。と、会場がひときわざわめいた。
 見れば、ゴドウィンの巨体がのしのしとこちらに迫ってきている。
「いよう、ヴァン。いよいよだな。成果は集まったか?」
「もちろん。おっさん、今日は倒すぜ」
「はっ! 面白いぜ、面白いんだよ、お前は! 本当にな!」
 にやりと獰猛な笑みを浮かべるゴドウィン。その背後から、金髪の少女が顔を覗かせる。
「ヴァン、今日はあたしも戦うからね。遠慮しないよ?」
「おう、そのつもりだぜ。それに、こっちにゃ最強のパートナーがいる」
 ヴァンはシルビナの肩を抱くと、ぐっと抱き寄せた。
「おっさん、シルビナ・ノワール。オレのパートナーだ」
「カンナの門下生か。そんなんで勝てるのか?」
「他の誰でも勝てねえよ。シルビナと一緒だから勝てるんだ」
 ヴァンはまっすぐ、ゴドウィンを見上げる。その隣で少女が頬を赤らめているが、気づいてもいない。
「やろうぜ、おっさん! 最高の決闘、見せてやるよ」
 そう言って、ヴァン・レクサスは満面の笑みを浮かべた。

◇ ◇ ◇


 アストラルサイドへ移行する。
 フィールドは荒野。ヴァンの装備はいつもの剣一本と、普段着のジャケット。かたわらに寄り添うシルビナは、胸を覆う鎧に、金属製の具足や手甲を装備した戦士スタイルだ。
 対するゴドウィンは、ヴァンと同じく戦斧一本のシンプルなスタイル。エクレアもまた、ナイフの二刀流に露出の多い服装をした、いつものスタイル。
「なんだよ、結局、お前らもいつも通りじゃねえか」
「いいんだよ、それで」
 奇をてらったところで、格上に勝てるわけではない。付け焼刃が通じないのは、ゼルが教えてくれた。
 勝ちを狙うならば、正攻法。ただし、真正面から戦っても勝ち目はない。だから、ほんの少しだけ――いつもと違うことを混ぜる。
 それが、ヴァンの作戦。
「シルビナ、ヴァンの足を引っ張らないでよ。あたし、遠慮なんてできないから」
「結構よ。かかってきなさい」
 竜王と雷神。まさに双竜戦と呼ぶにふさわしい、頂点のタッグを前に、ヴァンは小さく震えた。
「行くぜ……、シルビナ!」
「ええ!」
 開戦!!
 吼えるヴァンとシルビナは突貫する。同時、エクレアも動く。
「さっせるかあ!!」
 両手のナイフ、狙う先はシルビナ。
 順当に倒しやすい方から倒そうというのだろう。左右から攻め立てるナイフを、シルビナは驚異の動体視力で見切り、受けかわしていく。
 その間にも、ヴァンは全力で疾走していた。ゴドウィンとの間合いを詰め、
「ふッ!」
「はん!」
 戦斧を振り上げたゴドウィン。必殺の一撃を回避し、ヴァンは剣を振るう。
「甘いぜ!」
 当然、弾かれる。
 ゴドウィン・ブルーノのまとう鎧は天性の感覚によるもの。どこから、どのように剣を当てても、必ずや過不足ない障壁でガードしてしまう。その鎧を超えるには、相手の予想を超えるしかない。
 ゴドウィン・ブルーノの才気を、上回るのだ!
「うららららららぁ!!」
 超高速の連続斬撃。
 空を、地を蹴り、ヴァン・レクサスはフィールドを縦横無尽に駆け巡る。目で捉えることさえできない攻撃。それを、ゴドウィンは的確に把握している。
「魔力を見てりゃ、相手の攻撃なんて、どっから来るかすぐわかる。視界にいなくてもな」
 ゴドウィンは冷静だった。ヴァンのスピードは、常人が目で捉えられるものではない。もちろんゴドウィンは常人などではないが、それにしても、いちいちその行く先を目で追いかけるのは得策とは言えない。
 だからこそ、感じるのだ。魔力の流れ、その逐一。空間に漂う魔力をちゃんと見ていれば、その渦、その流れなど、誰にでも見て取れる程度のものだ。
 そんな簡単なことさえできない者ばかりであるという事実に、ゴドウィンは失望したのだから。
「その程度じゃ、竜王様は殺せないぜ」
 剣を斧で弾いたゴドウィンは、地を踏んだヴァンに斬りかかる。
「はッ!」
 斧の軌跡が大地を割り、風が吹き荒れる。飛び散った砂利を浴びながら、それでもヴァンは止まらない。
「おいおい、お前、俺ばかり相手にしていていいのか? 嬢ちゃん、エクレアにやられちまうぜ」
 視界の片隅で捉えるシルビナは、苦悶の表情を浮かべていた。
 ヴァンと同じ超高速機動で走るエクレアを、シルビナの剣では捉えられないのだ。剣を振るった先にはすでにエクレアの姿がなく、距離を置いたり縮めたりを繰り返している。
「大丈夫だ。シルビナは、ちゃんとやってくれる」
「随分と信頼してんだな?」
「決めたからな。信じるって!」
 全力で剣を振り下ろしたヴァンは、ゴドウィンと激突した。次の刹那、その体を蹴って大きく跳躍する。
 視界いっぱいに広がるフィールド。どこまでも続く荒野、そこを駆け巡るエクレアと、狙われた獲物たるシルビナ。
 瞬間、シルビナは下段に構えると、両手で剣を強く握る。警戒したエクレアは距離を開いた。すでに剣の間合いではない――。
「はあッ!!」
 それでも、シルビナは構わず剣を振った。その軌跡が光となり、空間を焼く。
「斬撃を……、飛ばしたッ!?」
 三日月のごとき魔力は斬線そのまま、空間を切り裂いていく。予想外の遠距離攻撃にエクレアは大きく跳躍した。足先を斬撃がかすめる。
「甘いわね、その程度じゃ……、ッ!!」
 斬撃が自分に迫ってくるのを、ヴァンはしっかりと見ていた。
「ナイスだ!!」
 シルビナが込めた魔力、その核を見極め、剣を刺す。
 まとった魔力はヴァン自身の剣を覆い、力を貸す。
「なにッ!?」
「これなら!! どうだよ!!」
 シルビナの魔力を身に受けたヴァンは、全力で走った。
 ゴドウィンといえど、貸与されている魔力は同じ。彼が最強なのは、単にその運用が上手いというだけの話。
 だが、これはアンフェスバエナなのだ。それぞれが魔力を貸与されている。
 つまりは――ゴドウィンが持っている以上の魔力で斬りかかれば!
「斬れねえ道理はねえ!!」
 全力の斬撃。
 ゴドウィンもまた回避はできず、斧でガードする。剣と斧が激突し、火花が散ったのはほんの一瞬。
「でえええあああああああ!!」
 ヴァンの気合が、斧を叩き割り、勢いそのままゴドウィンの体を浅く薙ぐ。
「……っせるかぁ!!」
 吼えるゴドウィン。全身から魔力が放たれる。緊急避難の魔力爆発だ。予想していたヴァンは、そのまま大きく距離を置く。
 そして、背後に剣を振るった。