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「なッ!?」 見えてはいなかった。だが、後ろからエクレアが迫っていたことは、わかっていた。 魔力が――全てを教えてくれている! 「遅いぜ、エクレア!!」 剣でナイフを弾いたヴァンは、思い切りエクレアを蹴り抜く。蹴り上げられたエクレアは口端に血をにじませる。そこに追撃。 「ふッ!!」 フィールドを駆け抜けていたシルビナだ。振り上げた剣をエクレアはナイフでガードするが、空中では踏ん張りがきかない。 「でぇい!!」 剣を振り抜いたシルビナ。弾かれたエクレアは地面に叩きつけられる。ゴドウィンと違い、高速の魔力移動ができないエクレアは、衝撃をもろに受けた。 「がはッ……!」 血を吐き、地面に横たわる。息絶えたわけではない。だが、もはや機動はできない。 そんな中、吼声が響く。 「面白ぇ!! 俺を傷つけた野郎は何年振りだ!?」 パートナーはやられ、斧は砕かれ、自分自身も血を流し。それでも、ゴドウィンは笑顔を浮かべていた。 ゴドウィンが空間をつかむと、そこから新たな斧が顕現される。 「来いよ、ヴァン! まだ俺は負けてねえぜ! 俺の攻撃! かわしてみせろよ!!」 バースト。 残る魔力を焼き尽くし、ゴドウィンは巨大な戦斧を掲げ上げる。 バーストした以上、同じ攻撃では倒せない。飛躍的に増した魔力でガードされれば、シルビナの魔力を借りてでさえ、ダメージにはならないだろう。 かといって、かわし続けるは論外だ。自分と同じく高速機動が可能なゴドウィン。しかも、自分よりも遥かに精密に、遥かに高速で魔力を移動させ、緩急を織り交ぜた的確な攻撃を仕掛けてくるだろう。 決めるならば、今しかないのだ! 「頼むぜ、シルビナ!」 「ええ!」 突撃! シルビナが前に、ヴァンが後ろに。ゴドウィンは振り上げた斧を肩に担ぎ、突進する。 「ぶち殺すぞ!!」 両手で斧を握ったゴドウィンは、二人をまとめて断ち切るつもりで、戦斧を振るう。 相対するのはシルビナ・ノワール。その特技は、全力防御! 「ッ!」 誰よりも目の良いシルビナには、ゴドウィンの斧も、その軌跡も、しっかりと見えていた。 斧がスイングされる直前、左手に魔力を集中させる。顕現するは――大盾! 「バーストッ!!」 全魔力を注ぎ、息を吐きながらゴドウィンの斧を受け止める。一点に集中させた障壁は、盾の硬さと合わせ、一瞬だけ拮抗した。 「甘い!!」 しかし、ゴドウィン・ブルーノの魔力制御には追いつかない。 完璧に受けたはずの攻撃、なのに受けきれない。魔力が突破され、盾が砕かれる。勢い、盾を握っていた左腕はありえない方向に曲がった。 激痛を堪えるシルビナ、しかし、その目はしっかりとパートナーを捉えている。 「ッ!!」 波状攻撃。 斧を振り切り、思いのほか硬かったシルビナのガードを砕くのに、ゴドウィンは魔力を斧へと集めてしまった。 バーストしていたとしても、攻撃しながらガードはできない。魔力は有限だ。 攻撃していたその瞬間――その一瞬だけが、ゴドウィンを貫く最大のチャンス! 「るあああああああああ!!」 獣のごとき咆哮をあげ、ヴァン・レクサスは全力で剣を突き出す。 今度こそ、ヴァンの剣はゴドウィンの背を貫き、胸から剣身が飛び出した。 「がッ……!!」 大きく眼を見開き、ゴドウィンは笑う。 「面白ぇ。本当に、面白ぇな!! お前らはッ!!」 吼えながら、ゴドウィンはゆっくりと崩れ落ちる。 「最高だぜ、お前らは……。ああ、お前たちの、勝ちだな!!」 巨竜は崩れ、地に伏せる。 大きく息を吐いたヴァンは、ぐっと拳を掲げた。 ヴァンの激戦は、現世でも画面越しに観戦している者が多かった。 「やったぜ! ヴァンの野郎、やりやがった!」 「すっごーい! 大金星よ大金星!」 「……あのゴドウィンに攻撃させたうえ、しっかり決めたわね。アンフェスバエナでも完全にカウンター狙いだった、あの男を」 「アンフェスバエナだからこそだろうね。二人で攻撃すれば彼は倒せる。それをゴドウィンさんも理解していたから、下手に攻撃はできなかった。その前、ヴァンがウエポンブレイクに成功した時点で、流れが傾いていたよ」 奨励会の仲間たちが見守っている、その目の前で、ヴァンは勝利を収めたのだ。 「つっても実際、あんなのできっか! ムチャクチャだぞ、シルビナの攻撃を受けるなんて!」 「それ以前、ゼルと戦った時も、ヴァンは炎狼の炎を受けていたじゃないか」 「そりゃそうだけどさ……。タイミング間違えば、自分が斬られてたんだぜ? 賭けどころじゃない」 「そのくらいでなければ、あの男は潰せないわ」 「あ、ほら、英雄様の帰還だぜ」 現世に光が集い、ヴァンとシルビナの姿を形作る。 戻ったヴァンは、にかっと満面の笑みを浮かべた。 「見たか! オレの勝ちだぜ!」 「見たよバカ! すげえなバカ!」 「なんでバカなんだよ!?」 ははは、と笑い合う。その中心に、ヴァン・レクサスがいる。 そんな事実に、かたわらを舞う神は、嬉しそうに微笑んでいた。 奨励会員たちが見守る、その後ろ。そこでは、プロ決闘者たちも試合を観戦していた。 「たいしたものだね、彼は……。アンフェスバエナとはいえ、あのゴドウィンを破るなんて」 「素晴らしい才気ですね。しかも彼は、魔力を見ていた。そうでなければ、後ろから仕掛けたエクレアの攻撃をかわすことなど、できなかったでしょう。障壁を大きく展開しても同じことは可能ですが、今度は魔力が足りなくなる」 「あのバカ仕込みというわけか。……なるほどな」 レリウス、カンナ、ガリア。一級の決闘者たちが、揃ってうなる。 「なるほどね。カンナ門下は安泰というわけだ」 「ふふ、どうでしょうか」 「謙遜はよせ。シルビナという娘もなかなかどうして、悪くない。魔力を見ているわけではないだろうが、とかく視力が尋常じゃない。魔力制御が追いついていないくらいだ。精密なコントロールを覚えたら、あの娘は化けるかもしれん」 「そうだね。ご自慢のアリス嬢を追い越すかな?」 「奨励会最強はうちの娘だ」 「親バカだねぇ……」 「ただの事実だ」 「まあ、否定しがたくはあるけどね。最強というのなら、きっと違う」 レリウスは画面を見上げ、はっきりと言う。 「現行最強は間違いない。ヴァン・レクサスだよ。もっとも……、彼はすぐ、僕らと並ぶだろうがね」 「恐ろしいライバルの登場、といったところでしょうか?」 「いや。君が、決闘界が変わると言ったのは嘘じゃなさそうだ。彼が決闘者になれば大きく変わる。風が吹くぞ」 奨励会員たちに囲まれているヴァン・レクサスとシルビナ・ノワール。と、どこからやって来たのか、記者の腕章を巻いた男がヴァンにインタビューを始めた。決闘専門雑誌の記者だ。 「ほら、月刊決闘がすぐ寄ってきた。次は彼の特集だね」 「永世竜王を破った少年、といったところでしょうか。発行部数増ですね」 そんな輪に、巨体が混ざる。 「ヴァン! テメエ! まあよくやったな! 本当に俺を負かすなんてよ!!」 ゴドウィンの大声はよく通る。対するヴァンも声を張り上げている。 「うるせえぞおっさん! だから勝つって言っただろ!」 「言っただけでやれんなら苦労なんざねえ! お前は自分の大言を現実にした! 決闘者ってのはそうでなくちゃいけねえ!!」 と、ヴァンを抱えたゴドウィンは、自分の肩に担ぎ上げる。 「お、おい、おっさん!?」 「おら、テメエら! 見ろ! こいつがヴァン・レクサスだ! この永世竜王ゴドウィン・ブルーノを倒した、本物の竜殺しだぞ!!」 ゴドウィンの大声に、周囲もざわめきだす。自分たちの決闘を終えて現世に帰還した受験者たちが騒ぎ出したのだ。 「まったく、あの男は……。ろくなことをせん」 「ふふ、ですが、事実です。それに、あんな熱い決闘を見せられては……、私も体がうずいてしまいます。レリウス、相手をしてくれませんか?」 「ああ、いいよ。僕も体を動かしたくなっていたところだ。ついでに、ガリアもどうだい? バトルロイヤルルールで」 「……いいだろう。本物を見せてやる」 「誰にさ」 決闘者たちの姿がアストラルサイドへと消える。たぎる決闘を見たせいで、自分の中に宿る炎が消せないらしい。 その日。ヴァン・レクサスによるゴドウィン・ブルーノ撃破の情報は、決闘界を駆け巡った。 |