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7人で移動したのはこじんまりとした茶屋だった。 テーブルがいくつかあるだけ。だが、全体的に落ち着いた雰囲気で、居心地は良い。テーブルにはお茶のポットが運ばれ、爽やかな香りの漂うカップが皆の前に並んでいる。 「本来ならば親睦の場というとお酒を用意するものですが、奨励会員はほとんど未成年ですから、こういう店の方がいいかと」 招集をかけたカンナは、奥の席に座るヴァンの方に顔を向ける。 「では、ヴァン。まずは軽く自己紹介でも」 「何を言えばいいんだ?」 「では、あなたの好きなことや夢のことを話してみてください」 「夢か。夢ならあるぜ。オレはアルウェズと一緒に、最強の決闘者になる。みんなが憧れるような、すっげー決闘者になるんだ」 なあ、とヴァンが声をかけると、背中に隠れていた小さな少女が少しだけ顔を出す。 「それがあなたの妖精? かっわいー!」 プリムが大きな声を出すと、とたん、アルウェズはヴァンのかげに隠れた。そして再び、ちょこっとだけ顔を出す。 「何これ超可愛いんですけど!」 「プリム、落ち着いて。アルウェズが怖がってるから」 「ふふ、いいでしょう。では、みんな、ヴァンにならって夢を語りますか?」 そうなると、順番的には隣に座るゼルだ。 「お、俺の夢か? 夢ってほどじゃねえけど、やっぱプロになれたらなー、なんて思ってる」 「何それふつー」 「んだよ! じゃあプリム、お前はどうなんだ!」 「え、あたしー? あたしはねー、愛され系決闘者になること、かなっ」 きらりん、と輝く笑顔。堂々とそんなことを言える少女に、ゼルはもはや脱帽だ。 「ほんと、お前の根性だけはすげーよ……」 「ふっふーん。ほら、次はアリスだよ」 「わ、私? 私は、当然タイトルホルダーよ。お父様の名人は私が継ぐわ」 「アリスの場合、それが本気で出来そうなのがアレよねー」 「どれよ」 「ふふふ。あ、ライゼル先輩は?」 「僕? 僕は……、まあ、プロになること、かな」 「あ……」 ライゼルの回答に、プリムも少しだけおとなしくなった。 ゼルのプロになりたいという言葉とは意味合いが違う。もちろんゼルとて必ずプロになれるわけではないが、彼にはまだ猶予がある。 一方で、ライゼルには――。 「ね、ねえ、じゃあシルビナ! シルビナはどうなのー?」 「私? 私は……」 シルビナはちらりとヴァンを見やり、 「夢というほどのもの、ではないけれど。最近は前より決闘が楽しくなってきた気がする、わ」 「お? おおお? なんだか甘酸っぱい香りー! ねえねえ、実際のところ、ヴァンとシルビナってどうなのどうなの!?」 「ど、どうって何のことよ」 「どうはどうに決まってるじゃーん! だってシルビナ、ヴァンと手合をした後からぜんっぜん変わったじゃない! 具体的には笑うようになったし!」 「そ、そんなことないわ。ねえ、ゼル?」 「いや、実際に表情は柔らかくなったんじゃねーの?」 「ゼ、ゼル!」 「いやあ、熱い、熱いですなー。ねえアリスー?」 「だからなんで私に聞くの!? 知らないわよ!」 「シルビナ、何の話してんだ?」 「私に聞かないで……」 少しだけ頬の赤いシルビナに、ヴァンは首をかしげている。カンナはそんな様子が見えているわけでもないだろうが、実に楽しそうだった。 と、ヴァンの前に置かれたカップが空になっていることに気づいたシルビナが、ポットに手を伸ばす。 「注ぐ?」 「お、すまねえな」 コポコポと注がれる紅色のお茶。ヴァンはカップを手に取り、すする。 「なんというか、意外ね。あなたがこういうお茶を飲むなんて」 「そうかー? 田舎じゃこういうお茶は普通だぞ。オレも好きなんだ」 「そ、そうなの。好きなら、言ってくれればいくらでも淹れてあげるわ」 「お、本当か。ありがとな、シルビナ」 「ま、まだ実際に淹れたわけじゃないし……」 ヴァンとシルビナのやり取りに、プリムは実に楽しそうににまにまと笑う。 「いやあ、青春、青春ですなー。ねえアリスー?」 「だ、か、ら! なんで! 私に聞くの!!」 「わー、アリスが怒ったー」 きゃっきゃと楽しむ面々。その中で一人、鋭い眼差しを向けている人物がいる。 そのことに、ヴァンは気付いていた。 田舎と違い、都市は夜半でも完全には眠らない。 夜中でも営業している商店や、夜が本番の呑み屋。夜中まで仕事し、ようよう帰路につく者。 往来が減るとはいえ、完全になくなるわけではない。そんな中を、ライゼル・アズールは一人、歩いていた。 裏通りに入る。日がな一日、営業している薬局がそこにあった。 置いてある薬は、体調不良によく利く類が主だが、お茶や酒も売っている。 ライゼルが店に入った時、他に客の姿はなかった。深夜なのだから当然かもしれない。ライゼルは棚に並んだ商品の中から、茶葉と薬の小瓶を手に取った。 手の中に納まった小瓶を眺め、ライゼルはわずか、逡巡する。表書きをじっと見つめ、 「でも……、もう、僕には、これしか」 声を漏らしたライゼルは、意を決し、瓶を握りしめた。 店員に金を払い、店を出る。そして、嘆息した。 「よう」 瞬間、どきんと心臓が跳ねる。 振り返れば、そこには最も見たくなかった相手の顔。 「夜中に散歩か?」 「……ヴァン」 ヴァン・レクサス。奨励会に突如として現れた、天才級のルーキー。 終わった。頭の中に一瞬だけよぎった言葉は、続くヴァンの言葉にかき消される。 「散歩ならオレと一緒に行こうぜ」 返事も待たず、ヴァンはすたすたと行ってしまう。少しだけ逡巡したライゼルは、ついて行くことにした。 |