|
翌日。 「おー……。すげえな」 都市の中心部に近い駅から降りて間近の建物。 こういうイベントごとを中心に行うための多目的ホールは、たくさんの人でごった返していた。 その中に、カンナ一門の姿もあった。 ヴァンは周囲をきょろきょろと見渡し、 「なあシルビナ、あれあれ、あの壁! 決闘が映ってるぞ、どうなってんだ!?」 「妖精の力を借りて、アストラルサイドでの出来事を現世に転送しているのよ。あれならば決闘に参加していない一般人でも、決闘の様子を見ることができるわ」 「すっげー。そんなこともできるのか!」 「力のある神から分かたれた妖精ならば可能でしょう。妖精の力は神の力に左右されますが、最上位の神々から力を得た妖精ならば、魔鉱石を利用して、様々な奇跡を起こすこともできます。さしずめ、あの妖精はブリギットの妖精でしょうか」 混雑したホールの中を歩くカンナ。その手をシルビナが握って先導し、後からヴァンやゼルがついて行く。 「てか、ヴァン。お前、奨励会はよかったのかよ。手合数、足りねえんだろ」 「それはそれ。これだって面白いじゃん。ゼルは面白くねえの?」 「……そりゃ、決闘は好きだけどさ」 周囲を見渡す。そこにいるのは、子供が多い。大人の姿ももちろんあるが、昔を懐かしむだけで、現役の決闘者とおぼしき人はそういない。おそらくは、子供たちの付き添いだろう。 やはりと言うべきか――ゼルたちの年頃で決闘をしている者は、そう多くないのだ。 「……」 そのことに、ゼルはもちろん気づいていたし――そんなゼルに、ヴァンも気づいていた。 「あ、カンナ六段」 そこに、壮年の男性が寄ってきた。腕にイベントスタッフを示す腕章を巻いている。 「先生、グレアム氏です」 「ええ、声でわかりました。グレアムさん、今日はよろしくお願いします」 「こちらこそ、どうぞお願いします。六段はこちらへ。シルビナちゃんも一緒に頼めるかい?」 「はい、わかりました。じゃあゼル、ヴァンのおもり、お願いね」 スタッフと共に、カンナとシルビナは立ち去る。残されたゼルは、 「だってよ、ヴァン。どうする?」 「いろんな奴が決闘してるんだろ? 見たい!」 「へいへい、そう言うだろうと思ったよ。そんじゃあ、とっときの決闘が見られる場所に行くか」 ゼルに連れられ、ヴァンも移動する。 イベントホールはあちこちに衝立が用意され、そこには決闘の様子が映し出されていた。昔を懐かしんで決闘をする大人、子供たちが行う決闘。特に子供の決闘にはプロ決闘者がアドバイスをしたりしているらしい。 一方では、プロ決闘者同士の決闘を上映している場所もある。脇では解説も行われているようだ。 そんなプロの決闘が上映されている中に二人はやって来た。 「お、始まるぜ」 そこには小さな舞台が作られており、大きな衝立が用意されている。舞台にはカンナと、何人かの子供が立っていた。 「それでは参りましょう!」 カンナと子供たちの姿が消える。アストラルサイドに移動したのだ。 同時、衝立にカンナたちの姿が映し出される。 カンナはゼルに近い、武道家スタイルだ。金属色の鋲がついたナックルに、額を覆うハチガネ。今日のワンピースは深いスリットが刻まれ、黒いスパッツが覗いている。 対戦相手の子供は全部で3人。それぞれ剣や槍といった近接武器を手にしている。 「あれ? 一人で三人も相手にするのか?」 「そうさ。多面決闘だ。師匠の得意技さ」 「多面決闘?」 「ああ。要するにハンデ戦だな。多面決闘の難しいところは、貸与魔力量が変わらねえってところにある。極端な話、相手はこっちの三倍多い魔力を持ってるのと同じってことだ。ガキ共は、単純に魔力をぶつけるだけでも師匠を倒せる」 「そうなると、カンナはすごく不利ってことになるな」 「もちろん、プロでも多面決闘に勝つのは非常に難しいって言われている。それだけ段位に差が必要ってことだが。けど、師匠の戦い方なら、プロ相手だって多面決闘ができると言われているくらいだ」 「へえ?」 二人が見守る中、画面の中で子供たちが動いた。 三人とも、剣や槍を手に、カンナに跳びかかる。対するカンナは薄く笑い、 『いけませんよ』 軽く左足を引き、半身で子供たちを迎えた。 最初の一人が突き出した槍を拳で弾き、続く子供が振り下ろす剣をかわして腕をつかむ。 『うわっ!?』 つかんだ子供を勢いそのまま反転させ、残る子供にぶつける。斧を持った子供は剣の子と衝突し、たたらを踏んだ。その間に、 『ふッ!』 『うわわわ!?』 槍を持った子供の武器をつかみ、引っ張る。バランスを崩したところで足払い。 『っ!?』 転んだ子供はそのまま、槍だけ奪うと、カンナはもつれあった少年たちに向かって投擲。 『うわあ!?』 慌てて逃げた二人。うちの一人をつかまえ、 『はい、まずは一人』 その首筋を叩く。気絶した少年を投げ、斧を振りかざした少年と向き合った。 『でえい!』 力任せに斧を振り下ろす少年。当然、そんな攻撃など当たるはずもなく、 『こちらです』 斧の表面をなでるようにして拳を振るった。手掌の突。少年の体が小さく浮き上がり、苦悶の表情を浮かべる。 一撃を加えた後もカンナは止まらない。スピードの落ちた少年は捨て置き、槍を再召喚した少年の攻撃を回避。蹴撃で槍を跳ね上げ、がら空きの懐にゼロ距離で魔法を放つ。 『炎!』 気合と共に放たれた炎が槍の少年を舐め、よろめいたところで首に手刀。 残った斧の少年が起き上る頃には、すでに仲間はおらず――。 『はい、残念でした』 残る少年も首筋への一撃で、あっさりと沈めてしまった。 |