選手控室に移動したヴァンとゼルは、カンナと対面していた。
「師匠、お疲れ様でした」
「いえ、指導対局にしてはやりすぎましたね」
 ゼルから貰った水を飲みつつ、カンナは反省する。
「でも、すげーな、やっぱり。子供連中が魔力を使いこなせていなかったって言っても、あの斬撃とか喰らってたら、致命傷だったろ」
「ええ、その通りです。彼らは武器に魔力を割きすぎていました。そのぶん防御がおろそかになりがち。子供にはよくあることです。ですが反面、攻撃力は非常に高く、私の弱い防御ではガードしきれなかったでしょう」
「それだけじゃないだろ? カンナ、相手の魔力を奪ってなかったか」
「おや、そんなところまで見えていましたか。その通りです。物質化した魔力は奪取することが可能です。先ほどの決闘で言えば、相手の槍を奪ったり、斧の表面をまとっていた魔力を少しばかり頂戴して、私の攻撃力に上乗せしていました」
「そんなこともできんのか。やっぱすげー!」
 楽しそうに笑うヴァン。その横で、ゼルは苦笑する。
「だから、師匠はすげえんだって。今年はタイトルまで取るんじゃないかってもっぱらの噂だし」
「噂ですよ、それは」
 くすくすと笑うカンナ。だが、ゼルは首を横に振る。
「そんなことありませんて。ヴァンも見てたろ? 師匠は相手の魔力を使ったカウンターが上手いんだ。プロ同士での戦いだと、相手の魔力をいかにして削るかって勝負になってくる。そんな勝負で、相手の魔力を使って……、言い換えれば魔力の消費もないままにダメージを重ねれば、それだけ優位になるってことだ」
「ですが、カウンター戦法はそれなりにリスクもありますよ? 何より、タイミングを見誤ると、かえって大きなダメージを受けがちです。諸刃の剣ですね」
「師匠ならできますって!」
 言うゼルに、カンナはにこりと笑む。
「ちょうどよい機会です。ゼル、シルビナ、ヴァン。あなたたちも決闘をしてみなさい。多面決闘を」
「お? やるやる!」
 ヴァンは決闘と聞いただけで乗り気だが、ゼルとシルビナは互いに顔を見合わせる。
「あの、俺たち奨励会員ですよ? 普通の人と決闘しても……」
「ただの決闘ではありません。多面決闘……、それも、サバイバルでやってみなさい」
「サ、サバイバル?」
 師の言葉に、ゼルは目を丸くした。

◇ ◇ ◇


 サバイバルルール。
 奨励会で行われているスタンダードとは違い、同じフィールドに複数のプレイヤーが入ることが最大の特徴だ。
 勝利条件は最後まで生き残ること。それまでは協力し合ってもいいし、相手を利用してもいい。とにかく生き残った者が勝者となる、乱取り戦だ。
 カンナ一門の3人は、それぞれ師から課題を貰ったうえで、十人以上が参加するサバイバル決闘に参戦していた。
 ――ヴァンの課題は、シルビナを守り抜くこと。
 ――シルビナの課題は、自力で1人でも多くの相手を倒すこと。
 ――ゼルの課題は、ノーダメージ。
 それぞれの課題を胸に、開戦の合図を待つ。
「シルビナを守れって言ったってなぁ。シルビナ、もともと硬いじゃんか。そうそうやられねえだろ」
「そうでもないわ。私の課題は、1人でも多くの相手を倒すこと……。多面決闘で多くの相手を倒そうとすれば、魔力の消費は必然的に抑えざるをえないわ。攻撃のリソースを使おうとするほど、普段から使っている障壁は使えなくなる……。つまり、防御力は落とさなければいけないということよ」
「そっか。じゃあ、今日のシルビナは、殴られたらやられちまうってことなんだな」
「その通りよ。私を守り抜きたいなら、的確に攻撃を弾けるようにならなければいけないわね」
「かわしちゃダメってことか……」
 相談するヴァンとシルビナを横目に、ゼルは首をかしげる。
「ノーダメージ、か。サバイバルで生き残るのにダメージ受けねえってなるとな……」
 もともと、ゼルの決闘スタイルはバースト型。短期決戦を身上とする、超攻撃型のスタイルだ。だが、サバイバルルールでバーストすれば、最後には息切れすることが目に見えている。
 バーストはできない。どころか、ダメージを受けないようにするには、かわし、受け、防御に魔力を使っていかなければいけない。
「いつもやらねえことをやれ、ってことだよな。ま、行くか!」
 ガチン、とゼルが拳を打ち鳴らした直後、開戦の合図が鳴り響いた。
 各地で戦いが始まる。銃持ちが乱射する中、シルビナは突貫。その後をヴァンが続く。
「はッ!」
 縦横無尽に飛び回り、飛び交う弾丸を切り裂くヴァン。間隙を見切り、シルビナは遠距離攻撃ができるガンナーを狙う。
「ふッ!」
 斬撃。ガンナーを沈めた直後、隅で控えていた決闘者が杖を掲げる。
「サモンゴーレム!!」
 詠唱と共に地面が揺れ、せりあがる。生まれたのは巨大な石人形。
 サモナー型。魔力を自己強化でも装備精製でもなく、自分の駒を増やすことに消費するタイプ。こと石人形ゴーレム型は、鈍重なゴーレムを魔法で強化し、とにかく暴れまわるサバイバル向きの型だ。
「行け行けぇ!!」
 ゴーレムの肩に乗った青年が吼える。石人形は巨腕を振り上げ、周囲を囲む決闘者たちを弾き飛ばしていく。
「なんだありゃ、固そうだな、おい」
「確かに防御力は高い、けど……。なにもゴーレムを落とす必要はないわ。サモンモンスターは、召喚者がいなくなれば制御を失い瓦解する……。サモナーさえ落とせれば」
「無茶を言ってんなぁ、おい。あの腕をかいくぐるって、オレならともかく、シルビナにできんのかよ」
「それをやるのが、決闘者というものよ!!」
 走るシルビナ。目立つ動きは注目を浴び、ゴーレムもシルビナを狙ってくる。
 巨体に似合わない素早い動き。サモナーによる速力強化だろう。シルビナは振り下ろされる拳から目をそらさない。
「ッ!」
 紙一重。まさに髪の毛をかする勢いで落下した石拳だが、直撃はしていない。爆風にも近い衝撃に乗っかり、シルビナはさらに加速する。
「せいやッ!!」
 ゴーレムの腕を足場に跳躍。肩に乗った無防備な青年へと剣を突き立てる。
「ぬおっ!?」
 敗北を喫した青年は現世へと帰還。残されたゴーレムは制御を失い、土くれへと還る。
「あっ!?」
 足場を失ったシルビナはよろめくが、
「おいおい、バカか、お前」
 すかさずヴァンが走った。
 空中の魔力を踏み台に跳躍、シルビナを抱きかかえると、そのまま安全圏へとジャンプする。
「あ……、ありがとう」
「いいんだって。今日のオレはお前を守り抜くって使命があるからな」
 にかっと太陽のように笑うヴァン。シルビナは頭を振り、次の敵へと向かう。
「行くわよ、ヴァン!」
「おう!」