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選手控室に移動したヴァンとゼルは、カンナと対面していた。 「師匠、お疲れ様でした」 「いえ、指導対局にしてはやりすぎましたね」 ゼルから貰った水を飲みつつ、カンナは反省する。 「でも、すげーな、やっぱり。子供連中が魔力を使いこなせていなかったって言っても、あの斬撃とか喰らってたら、致命傷だったろ」 「ええ、その通りです。彼らは武器に魔力を割きすぎていました。そのぶん防御がおろそかになりがち。子供にはよくあることです。ですが反面、攻撃力は非常に高く、私の弱い防御ではガードしきれなかったでしょう」 「それだけじゃないだろ? カンナ、相手の魔力を奪ってなかったか」 「おや、そんなところまで見えていましたか。その通りです。物質化した魔力は奪取することが可能です。先ほどの決闘で言えば、相手の槍を奪ったり、斧の表面をまとっていた魔力を少しばかり頂戴して、私の攻撃力に上乗せしていました」 「そんなこともできんのか。やっぱすげー!」 楽しそうに笑うヴァン。その横で、ゼルは苦笑する。 「だから、師匠はすげえんだって。今年はタイトルまで取るんじゃないかってもっぱらの噂だし」 「噂ですよ、それは」 くすくすと笑うカンナ。だが、ゼルは首を横に振る。 「そんなことありませんて。ヴァンも見てたろ? 師匠は相手の魔力を使ったカウンターが上手いんだ。プロ同士での戦いだと、相手の魔力をいかにして削るかって勝負になってくる。そんな勝負で、相手の魔力を使って……、言い換えれば魔力の消費もないままにダメージを重ねれば、それだけ優位になるってことだ」 「ですが、カウンター戦法はそれなりにリスクもありますよ? 何より、タイミングを見誤ると、かえって大きなダメージを受けがちです。諸刃の剣ですね」 「師匠ならできますって!」 言うゼルに、カンナはにこりと笑む。 「ちょうどよい機会です。ゼル、シルビナ、ヴァン。あなたたちも決闘をしてみなさい。多面決闘を」 「お? やるやる!」 ヴァンは決闘と聞いただけで乗り気だが、ゼルとシルビナは互いに顔を見合わせる。 「あの、俺たち奨励会員ですよ? 普通の人と決闘しても……」 「ただの決闘ではありません。多面決闘……、それも、サバイバルでやってみなさい」 「サ、サバイバル?」 師の言葉に、ゼルは目を丸くした。 サバイバルルール。 奨励会で行われているスタンダードとは違い、同じフィールドに複数のプレイヤーが入ることが最大の特徴だ。 勝利条件は最後まで生き残ること。それまでは協力し合ってもいいし、相手を利用してもいい。とにかく生き残った者が勝者となる、乱取り戦だ。 カンナ一門の3人は、それぞれ師から課題を貰ったうえで、十人以上が参加するサバイバル決闘に参戦していた。 ――ヴァンの課題は、シルビナを守り抜くこと。 ――シルビナの課題は、自力で1人でも多くの相手を倒すこと。 ――ゼルの課題は、ノーダメージ。 それぞれの課題を胸に、開戦の合図を待つ。 「シルビナを守れって言ったってなぁ。シルビナ、もともと硬いじゃんか。そうそうやられねえだろ」 「そうでもないわ。私の課題は、1人でも多くの相手を倒すこと……。多面決闘で多くの相手を倒そうとすれば、魔力の消費は必然的に抑えざるをえないわ。攻撃のリソースを使おうとするほど、普段から使っている障壁は使えなくなる……。つまり、防御力は落とさなければいけないということよ」 「そっか。じゃあ、今日のシルビナは、殴られたらやられちまうってことなんだな」 「その通りよ。私を守り抜きたいなら、的確に攻撃を弾けるようにならなければいけないわね」 「かわしちゃダメってことか……」 相談するヴァンとシルビナを横目に、ゼルは首をかしげる。 「ノーダメージ、か。サバイバルで生き残るのにダメージ受けねえってなるとな……」 もともと、ゼルの決闘スタイルはバースト型。短期決戦を身上とする、超攻撃型のスタイルだ。だが、サバイバルルールでバーストすれば、最後には息切れすることが目に見えている。 バーストはできない。どころか、ダメージを受けないようにするには、かわし、受け、防御に魔力を使っていかなければいけない。 「いつもやらねえことをやれ、ってことだよな。ま、行くか!」 ガチン、とゼルが拳を打ち鳴らした直後、開戦の合図が鳴り響いた。 各地で戦いが始まる。銃持ちが乱射する中、シルビナは突貫。その後をヴァンが続く。 「はッ!」 縦横無尽に飛び回り、飛び交う弾丸を切り裂くヴァン。間隙を見切り、シルビナは遠距離攻撃ができるガンナーを狙う。 「ふッ!」 斬撃。ガンナーを沈めた直後、隅で控えていた決闘者が杖を掲げる。 「サモンゴーレム!!」 詠唱と共に地面が揺れ、せりあがる。生まれたのは巨大な石人形。 サモナー型。魔力を自己強化でも装備精製でもなく、自分の駒を増やすことに消費するタイプ。こと石人形型は、鈍重なゴーレムを魔法で強化し、とにかく暴れまわるサバイバル向きの型だ。 「行け行けぇ!!」 ゴーレムの肩に乗った青年が吼える。石人形は巨腕を振り上げ、周囲を囲む決闘者たちを弾き飛ばしていく。 「なんだありゃ、固そうだな、おい」 「確かに防御力は高い、けど……。なにもゴーレムを落とす必要はないわ。サモンモンスターは、召喚者がいなくなれば制御を失い瓦解する……。サモナーさえ落とせれば」 「無茶を言ってんなぁ、おい。あの腕をかいくぐるって、オレならともかく、シルビナにできんのかよ」 「それをやるのが、決闘者というものよ!!」 走るシルビナ。目立つ動きは注目を浴び、ゴーレムもシルビナを狙ってくる。 巨体に似合わない素早い動き。サモナーによる速力強化だろう。シルビナは振り下ろされる拳から目をそらさない。 「ッ!」 紙一重。まさに髪の毛をかする勢いで落下した石拳だが、直撃はしていない。爆風にも近い衝撃に乗っかり、シルビナはさらに加速する。 「せいやッ!!」 ゴーレムの腕を足場に跳躍。肩に乗った無防備な青年へと剣を突き立てる。 「ぬおっ!?」 敗北を喫した青年は現世へと帰還。残されたゴーレムは制御を失い、土くれへと還る。 「あっ!?」 足場を失ったシルビナはよろめくが、 「おいおい、バカか、お前」 すかさずヴァンが走った。 空中の魔力を踏み台に跳躍、シルビナを抱きかかえると、そのまま安全圏へとジャンプする。 「あ……、ありがとう」 「いいんだって。今日のオレはお前を守り抜くって使命があるからな」 にかっと太陽のように笑うヴァン。シルビナは頭を振り、次の敵へと向かう。 「行くわよ、ヴァン!」 「おう!」 |