アストラルサイド、スタンダードルール。
 障害物など何もない荒野に、二人の少女が対峙している。
 かたや、剣を構えた近接装備のシルビナ・ノワール。対するはプリム・ローゼンだ。
「……」
 プリムの装備を見て、シルビナは眉をひそめる。
「どうしたの、シルビナ? なんか面白い顔してるよ?」
「……プリム。その格好は、どうにかならないの?」
「え? 何か変?」
 プリムは己の格好を見返す。
 先端がハートマークになった短杖ロッドに、ピンクとフリルを主体としたドレス。足元はリボンをあしらった靴に、太ももまで覆い隠すソックスはスカート丈と合わせてこだわりの逸品。
「いつも通りじゃない」
「いつもおかしいのよ」
 決闘者の服装は自由だ。装備は自分でイメージする。そこに型はあれど決まりはなく、女の子は普段の自分と違う服装を楽しみたいがためにアストラルサイドへ来る者もいる。
 それはわかっている、わかっているが――決闘者としてはどうなのだろうか。
「あなた、周囲を見てみなさい。あなたみたいな服装の決闘者なんていないでしょう」
「みんながおかしいのよ」
「……」
 謎の自信。プリムはいつだって自信に満ち溢れすぎて、シルビナにはちょっとつらい。
「なら、せめてスカートはやめなさい」
「可愛いでしょ?」
「そういう問題でなく! ……決闘は格闘技よ? 跳ねたり、かわしたりする運動よ?」
「そうだね?」
「……どうしておかしいと思わないの」
 どう説得すべきか、シルビナは頭を抱える。
「もう、シルビナってば、なんでこの格好に反対するのよ〜」
「当然でしょう、だって……、その、色々と見えるのよ」
 スカートでジャンプしたりすれば、当然、見えてはいけないものが見える。そんなところまで毎回違うものを顕現しているところには頭が下がる思いだがそれはそれとして。
「はしたないわ」
「え〜? いいじゃな〜い、可愛いんだし〜」
「そういう問題でなく」
「それに、この格好でもちゃんと勝利数は稼いでいるじゃん? 問題ないない」
「男子にだけね……」
 やはりと言うべきか、未成年の男子が多い奨励会。プリムの、決闘者としてはあまりにあまりな格好は、健全な男子諸君の動きを一瞬だけでも不自然にさせることが多く……、結果的に、プリムの勝率を上げる要因となっている。
「決闘者は結果が全て、そーでしょ?」
「はしたないし不健全だし、何より決闘者の姿勢としてはどうなのかと……」
「そんなことないってば。あ、開戦だよ」
「っ……、仕方ないわね」
 きっさきを下げ、開戦と同時、シルビナは飛び込む。
「キラキラスプラ〜シュ!」
 無駄にキラキラと輝く光の奔流。飛び交う星は、それぞれが火炎弾のようなものだ。
 シルビナは冷静に見極め、それぞれを剣で弾きながら距離を詰める。
「やるわね! それなら、これでどう!? いらっしゃい、にゃーちゃん!!」
「ッ、サモンモンスター!」
 空から現れたのは、特大の猫。バカでかい三毛猫は、大きく飛び跳ね、シルビナを狙う。
「くッ!」
 前足による攻撃を剣で回避。懐に飛び込み、その腹を思い切り蹴り上げる。
「にゃあああああ!?」
 苦悶の叫びをあげる猫を尻目に、シルビナはプリムをにらむ。
「ドリームメロディ!!」
 振り回す杖、その先端から虹色の音符が飛び出す。音符状になっている意味はさておき、触れれば爆発する厄介なガードだ。
 プリムの戦闘スタイルは、見た目こそアレだが、内実はテクニカルな遠距離型。音符型爆弾を空中に浮かべて接近を阻み、星型の光線で遠距離攻撃を仕掛けてくる。小型のサモンモンスターを多数召喚し、こちらの注意をそらせたりもする。
 それぞれは致命傷にならない。だが、数を重ねられると、まず先に集中力が途切れる。そして、大技で致命傷を喰らう。
 外見に騙されがちだが、彼女とて奨励会に所属するプロの卵なのだ。
「いっくよー! ちゅー吉!!」
 続くサモンモンスター。今度は小型のまるまるしたネズミだ。
「邪魔、くさい!!」
 シルビナは切っ先に魔力を集約させると、全力で振り抜く。
 余波が小型のサモンモンスターを弾き、切り裂き、スペースを文字通り切り開く。
「ふッ!」
 生まれた余地に体を滑り込ませ、巨猫の前足を回避。そのまま、一挙に踏み込む。
「おーにさんこーちらー」
 音符の爆弾を切り裂いた直後、聞こえた声は上。
「ッ!」
 見上げれば、プリムがパラソルを手に浮かんでいる。杖を変化させた、これも意味があるのかはよくわからない、シールドだ。
「これでおしまいっ! キラキラスプラッシュ!」
 降り注ぐ流弾、けれど、シルビナの目には、その間隙もしっかり見えていた。
「甘く、見ないで!」
 星の間隙に向かって自ら突っ込む。
 シルビナの持ち味は全身を覆う障壁。少々の攻撃など物ともしない重量級の突撃!
「わわわっ!?」
 驚くプリムに肉薄、そのまま剣をぶつける。傘と剣が激突、火花が散る。
「せえい!!」
 力ずくで押し込んだシルビナ。その剛腕に、プリムは地面へと叩きつけられる。
「いった〜い!」
「そんなこと言っている暇はないわよ!!」
 追撃。
 空中に浮かんでいた音符爆弾を踏み台に、むしろ加速。剣を前に突進する。
「ッ!?」
 傘を広げてガードするが、爆風と共に突っ込んだシルビナの突進力は、その防御力を上回る。
「あっ!?」
「終わりよ!!」
 傘を貫いたシルビナは、己の剣と共に相手の傘をねじ伏せる。がら空きとなった体に拳で一発。
「せえ、のッ!!」
 続くかかと落とし。容赦ない格闘技は、プリム・ローゼンを沈めきった。