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「も〜、えげつない〜」 現世へと戻ったプリムとシルビナ。道場の片隅で、プリムは悲鳴をあげる。 「だいたい女の子が蹴りとかパンチとか。可愛くな〜い〜」 「決闘者は結果が全て、なんでしょう」 「むう。もったいないよ、シルビナだって、元はいいんだから、ちゃんとした格好をすれば可愛いのに」 「えっ? わ、私が?」 「そうそう! こういう格好とか!」 プリムはくるりんと回ってみせる。アストラルサイドほどあざとい格好ではないが、やはり丈の短いスカートに、絶対のこだわりを持つニーソックス。髪をピンクのリボンで結わえ、ツインテールにした姿は、年齢以上に幼く見える。 「ぜ、絶対無理」 普段からズボンにシャツばかりを着ているシルビナにとって、スカートというだけでもハードルが高い。ましてや、そんな可愛い系の格好など……。 「いいじゃない。キュート系も。シルビナがそんなカッコしたら、普段のギャップもあって、絶対に男子たちも注目するって!」 「男子……」 ふと、シルビナは周囲を見渡した。休憩に入ったおかげで、周囲に人の姿はさほど多くない。 「あ、今、誰か探した? 誰のこと思い浮かべたのかな〜?」 「だ、誰のことも考えてないっ」 「またまた〜。シルビナってば、前より女の子っぽくなったよね。表情も豊かになったし。具体的にはなんたら君が奨励会に入ってから〜」 「ヴァ、ヴァンのことは関係ないでしょう!」 「あれあれ〜? あたし、ヴァン君なんて言ったかな〜」 「うぐっ……!!」 顔を赤くするシルビナに、プリムは嬉しそうに笑う。 「あ、そうだ、シルビナもたまにはデート服とか買ったらどう? 勝負服よ、勝負服!」 「勝負って、公式手合に出る時の……」 「それは礼服! そうじゃなく、男子を落とす格好に決まってるでしょ!」 「だ、男子って」 「いいじゃんいいじゃん? シルビナがそんな女の子の顔をするなんて思いもよらなかったし! どうせ学校に行ってるわけじゃないんだから平日の午後って暇でしょ? 明日、あたしが学校終わった後、一緒に行こうよ!」 「ちょ、ちょっと」 燃えるプリムから逃げ切るには、シルビナのコミュニケーション能力が足りなさ過ぎた。 致し方ないことだ。 翌日、ドムの日。 駅前で待ち合わせたシルビナは、いつも通りの黒っぽいジャケットにズボン。ショートヘアと相まって、中性的な印象を与える。 「まあ、今日のところはそんな格好でもよしとしましょう! これからか〜わいい格好をするんだし?」 同行するプリムは、学校帰りの制服姿だ。ブレザーに、大きな赤いリボンを巻いている。 「……絶対に似合わないから」 「そんなことないって! ねえ?」 「というか、なんで私まで!」 二人の後ろをついて歩くのは、アリス・ラフィーネ・ヴァイスラント。光輝のお嬢様だ。 「いいじゃない〜。一緒の方が楽しいし。というか、通りかかったのが運の尽き?」 「まったく……。私も決闘の修練が」 「私だって」 「二人とも、そんな年齢で決闘漬けの人生とか悲しくないの!? もっと華やかに生きなきゃ!」 無駄にきらきらと笑顔を振りまくプリム先導で入った店は、ティーンエイジ御用達の低価格で可愛い服が多いと評判の商店。 「ここ、学校でも評判なのよ〜。種類も豊富だし、キュート系もクール系もあるのがいいのよね!」 「じゃあ私はおとなしいので……」 「絶対ダメ。シルビナはスカートね、これ決定」 「む、無理っ」 「無理じゃない! ほら、アリスも一緒に!」 「だから、なんで私まで……」 引きずられるようにして、二人は服を見比べていく。 「あら、こんなに安いんですのね」 「そうそう、なのに手抜きしていない感じがいいのよね。ほら、シルビナにはこれなんてどう?」 「む、無理っ!」 「さっきから無理しか言ってないじゃない。ほらほら、試着するだけならタダだし! これ着てみて!」 数着の服を選んだプリムは、シルビナの手に押しつけると、そのまま試着室に放り込んだ。試着室の中で懊悩する気配が感じられるが、気にしない。 「あんなに強引なことをしてよかったんですの?」 「いいのいいの。これくらいきっかけがなきゃ、シルビナがああいう格好をするなんてありえないんだから」 「それはそうかもしれませんけれど。……あら」 試着室のカーテンが開かれる。出てきたのは、色合いからして変わったシルビナだった。 青を主体に、白いラインの入ったミニスカート。フリルのついたブラウスに、頭を飾るリボンまで。遠慮のないキュートファッション。 「こ、この格好で往来を歩けと言うの……?」 「なんで裸で歩かされるみたいな顔してんの。可愛いよ、すっごく似合ってる!」 「む、無理……」 シルビナは首を振るが、 「あら、悪くないと思うわ。少し幼すぎる印象ではあるけれど。リボンよりも、帽子か何かを合わせた方が……」 「えー。キュートいいじゃん!」 「む、無理だって……」 消え入りそうなシルビナの声は風に消え。 いつの間にかノリノリになっていたアリスと、最初からノリノリのプリムは止まりそうになかった。 一方その頃。 ヴァン・レクサスは両手で紙袋を抱え、大通りを歩いていた。 「すまないね、ヴァン。手伝ってもらっちゃって」 「いいっての。ライゼル一人じゃ、こんなに持てないだろ」 隣を歩くのはライゼル・アズール。奨励会での先輩決闘者だ。 二人の手には、多くの荷物がある。紙束やインク、それから茶葉など、事務職が消費するものが大半だ。 「てか、ライゼル、前からこんなことしてたんか?」 「ああ、まあね。ミーナさん一人じゃ買い出しは無理だし」 ライゼルは、以前からミーナに代わって、奨励会で使う事務用品の買い出しをしていた。女性のミーナが行くよりも遥かに効率的ではある、が。 「ライゼルも奨励会員だろ? 別に事務員でもなんでもなく」 「それはそうだけどね。手伝えることは手伝ってもいいんじゃないかな」 「おひとよし」 「ヴァンに言われるのは心外だね。君こそ随分とおひとよしに思えるけど」 「……んなことねえって。オレはみんなに決闘を楽しんで欲しいだけだからな」 「どうかな……、ん?」 ライゼルが足を止める。自然、ヴァンもそれにならう。 「どうしたんだよ」 「いや、あの人……。あ、やっぱりそうだ。レリウスさん!」 ライゼルの視線を追いかけると、一人の紳士が振り向いていた。 青年と呼ぶにはやや遅く、壮年と呼ぶにはまだ早い年齢。眼鏡の奥にあるまなざしは優しく細められている。 「ああ、ライゼル君。久しぶり」 「お久しぶりです、レリウスさん。王座防衛、おめでとうございます」 「実力じゃないさ。相手のミスに救われただけだよ。……おや、そっちの子は?」 「ああ、紹介します。ヴァン・レクサス。カンナさんの門下で、奨励会に入ったばかりの子です」 「ああ、カンナ君が弟子にしたっていう……。聞いているよ。僕はレリウス・クライムエッジ。一応はプロの決闘者さ」 「へえ、プロの。オレ、ヴァン・レクサス。よろしくな」 握手を交わす。決闘者としては非常に珍しいことに、レリウスは柔和な表情を浮かべ、人当たりもよい。 「レリウスさんは、これから奨励会館に?」 「ああ。普段、対局ばかりで、あまり顔を出せていないからね。そうだ、せっかくだし、二人からも色々と聞いてみたいな。最近の奨励会でのこととか、弟子のこととか」 「……弟子ぃ?」 |