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シルビナ・ノワールは、両手に紙袋を持たされていた。 その中身はおのずと知れた、衣服だ。 「プリム……。まだ行くの?」 「何を言ってるのよ。まだ2件しか行ってないじゃない」 「もう2件も行ったでしょう……」 すでにお疲れ気味のシルビナに対し、プリムとアリスはますます元気になってきている。 「やっぱりシルビナって元がいいよね〜。スレンダーだけど、逆にそれが合うっていうか」 「すらっとしているからスカートも合いますわね」 「そうそう、やっぱりそう思う!? いいよねー、上背もあるし!」 自分のスタイルについて自分以外が盛り上がるという謎の現象。 シルビナは、幼い頃から家族と共に特殊部隊に所属していた。特殊部隊を抜けてからというもの、決闘漬けの日々。つまるところ、友達とこうして遊び歩いた経験が全くないのだ。 誰しも経験のないことは戸惑うものだ。 「あ、じゃあ次はここ行こ、ここ!」 プリムが指したのは、あろうことか、下着の専門店。 「む、無理っ!?」 下着など3枚いくらで売っているものしか買ったことのないシルビナにとって、こういうきらきらした、無駄にカラフルな店は敷居が高い。 「大丈夫だって、取って食べられることなんてないから」 「そういう問題でなく……」 「見えないところに気を遣うのも淑女のたしなみよ?」 「む、無理だってば……」 シルビナの弱々しい否定が通るはずもなく。 無事、二人の悪鬼に拉致されることが確定した。 奨励会館へと向かう道すがら。 ヴァン・レクサスはレリウス・クライムエッジを見上げる。 「じゃあ、レリウスって、あのプリムの師匠なのか?」 「ああ、そうなるね」 レリウスはふわりと頷く。 「……なんていうか、あいつのスタイルと全く違う気がするんだけど」 「そうかな? まあ、プリムのスタイルは可愛い外見で相手を油断させていくスタイルだからね。初見には強いけれど、内実を知っていれば驚きは減るから、もっと内面を磨いたほうがいいと思うんだが」 「そういう問題じゃねえと思うけど……」 フリルたっぷりのキュート系ファッションが身上のプリム。なんとなくだが、本当になんとなくだが、師匠も同じような尖ったファッションセンスの人物を想像していた。そんな人間が歩いているはずもないのだが。 「ヴァン君は、田舎から出てきたんだってね。面白いスタイルで戦うと聞いているよ」 「面白いかどうかはわかんねえけど、田舎から出てきたのは本当だな」 「どうだい、奨励会は」 「面白ぇよ。いろんな奴がいるしな」 「はは、そうか。確かにね、決闘者は個性的な人が多い。それはね、みんな、自分のスタイルを貫いているからだ。他人の意見にいちいち左右されていては芯が通らない。確固たる芯があるからこそ、決闘者としてやっていけるとも言える」 「ま、変わり者は多いよな」 「君も大概だと聞くけどね。局所型なんだろう?」 「ああ、知ってるのか」 「カンナ君に聞いているからね。局所型なんてアマチュアでも珍しいのに、どこで覚えたんだい?」 「田舎だよ。おっさん……、そう呼んでた変なおやじがいてさ。そいつのスタイルを真似したのが始めだったな」 「へえ、局所型の使い手か」 「それに、オレだけじゃねえぜ? 都市から来たって奴も田舎にゃいるけど、そいつもオレと同じスタイルだしな。だからオレ、最初はこれが普通なのかと思ってた」 「ははは、局所型がそんなにいるのか。まあ狭いコミュニティだと、同じ戦型が流行することはよくあるね」 「そういうもんか?」 「ああ。友達同士、仲間同士のグループだと、せいぜい数パターンの戦型にしか出会わない。書物で見かけることはあっても、それを実践する者がいない。おのずから、最も強い人のスタイルが流行しがちさ」 「ああ、そういうもんかもな」 「そう、環境は大事だよ。周囲が強くなろうとすればするほど、グループの力は高められる。決闘は一人じゃできない。高め合うライバルがいて、初めて強くなれるんだ。そういう意味で、奨励会という場はすごくいい。同年代のライバルが簡単に見つけられて、互いに高め合うことができる。同じ目標を目指すから、衝突もするし、仲良くもなれる」 「同じ目標、か」 ヴァンは小さく頷く。 「オレは最強になるのが目標だ。他の連中は少し違うかもしれねえけど、強くなりたいのは同じだもんな」 「もちろんさ」 頷くレリウスを見上げ、ヴァンは言う。 「なんていうか、やっぱ、レリウスってプリムの師匠って感じしねえな。すっげー大人っていうか」 「そうかな?」 「ああ。でも、似ているとこもある。強いって感じじゃないのに、強いのがわかるっていうか……。気配が違うっていうのか?」 「……そうかな?」 小首を傾げるレリウスに対し、ライゼルは深く頷く。 「実際、レリウスさんは強いよ。ヴァン、王座ってわかるかい?」 「知らん」 「タイトルくらい覚えていてくれよ……。王座は7大タイトルのひとつさ。レリウスさんは、その王座戦で連覇している。一流決闘者だよ」 「へえ? ……なんだよ、レリウス。変な顔して」 目を丸くしていたレリウスは、ヴァンに問う。 「ヴァン君は、タイトルリーグも知らないのかい?」 「ああ、彼は田舎から出てきたせいか、決闘界に疎くて……」 ライゼルがこたえると、レリウスは笑い出した。 「はは、そうか、タイトルリーグも知らない子が奨励会にいるのか! それは面白い」 「な、なんだよ。笑うなよ」 「ははは、すまない。そういうつもりじゃないんだ。いやはや、本当に決闘者というのは面白いね……。色々な子がいる」 目尻に浮かんだ涙をぬぐったレリウスは、 「決闘者というのは本当に個性的でね。僕が決闘者を続けている理由でもある」 「そんなに変か、オレ?」 「ヴァンは十分に変わっていると思うけどね」 ライゼルも言うが、ヴァンにはいまいちピンとこない。 「うん、よかった。プリムにも楽しい仲間ができているようだ。……うん?」 レリウスは足を止めた。そこにあったのは、女性下着の専門店。 「なんだよ、レリウス。んなもの買うのか?」 「違うよ。ああ、やっぱりそうだ」 店員と会計を済ませ、出てきた少女たちを見て、レリウスはにこりと笑う。 「やあ、プリム」 「……!? せ、先生!」 驚くプリムだが、その後ろにいる人物はもっと驚いていた。 「ヴァ、ヴァン!?」 「お、シルビナじゃん。なんだ、お前も買い物に行ってたのか」 あっけらかんと言うヴァンだが、シルビナは顔を赤くしていいやら青くしていいやら。とりあえず袋の中身は見られまいと固く抱きしめる。 「あら、ライゼル。またミーナの手伝い?」 「アリスもか。友達と一緒なんて珍しいじゃないか」 「ひ、一言余計よ」 別にライゼルは揶揄するつもりなどないが、コミュニケーション能力が欠けている妹弟子としては反論の余地もない。 「僕たちはこれから奨励会館に行くところだけど、プリムたちは?」 「お、お買い物……、ですけど」 「ま、まだ買うの? いいかげん……」 視線をそらすプリムには、シルビナの弱々しい反論もとりあえず黙殺される。 「そうですわね、そろそろ休憩したいと思っていたところですし。ライゼル、まだ時間はあるんでしょう? お茶にでもしましょう」 代表するように言うアリスに反論できる者が、その場にいなかった。 |