すぐ近くにあった喫茶店のオープンテラス。
 ヴァンたち男3人と、シルビナたち女3人が向かい合って座る。
「どうだい、プリム。最近の調子は」
「……普通です」
 答えるプリムの表情は硬い。ヴァンは少しだけ眉をひそめつつ、
「レリウス、プリムの師匠なんだろ? 知らねえの?」
「ああ、僕の弟子はプリムだけじゃないんだ。僕の場合は門下というより研修会という形でね。弟子も、現役プロを含めて8人いる。普段の対局も多いから、あまり一人一人の面倒を看てあげられないんだ」
「そういうもんか?」
「ああ。研修手合に来てくれればアドバイスもできるんだけど、プリムはなかなか来てくれなくて。忙しいのかな?」
「そ、そうです。悪いですか?」
「いや。研修手合そのものは自由参加だからいいんだけど……」
 困ったように笑うレリウス。対するプリムは、つい、と顔をそむけてしまう。
「じゃあ、奨励会での成績はどうかな?」
「ミーナさんに聞いているんでしょう」
「勝敗の連絡は貰っているけど、対局の内容までは詳しく記録されないからね。そのあたりが知りたいんだが」
 問われたプリムだが、答える気配はない。仕方なし、レリウスの視線が男性陣に向く。
「まあ、なかなかの成績だと思いますが。遠距離タイプの宿命か、近接には少し弱いみたいですけどね」
「ああ、あのキラキラした攻撃なー。アリスみてえに弾幕ってほどじゃないし、威力もそこそこだから、我慢して突っ込むことはできるだろうな。オレには無理だけど」
「ヴァンは防御しなさすぎだからね。普通の決闘者なら堪えて近づくことは不可能じゃありませんし、近接格闘は今後の課題じゃないでしょうか」
「なるほどね。だ、そうだけど?」
「知りません」
 顔をそむけたままの弟子に、師匠も苦笑を浮かべる。
「でも、あの格好で格闘するのはいかがかと思いますわよ」
 停滞した空気を破ったのは、アリスだった。
「あの格好って?」
「王座はご存知ありません? 遠距離型とはいえスカートで決闘するのはどうかと思いますわよ」
「スカート……?」
 首をかしげるレリウス。と、バン、と机が叩かれる。
「そうですよ、スカートです。あたし、決闘衣装はいつもスカートで戦っています。悪いですか?」
「あ、いや、そういうわけではないけど……」
「じゃあいいじゃないですか! もう知りません!」
「あ、おい、プリム!」
 立ち上がったプリムは、そのまま駆け出して行ってしまった。みんなの視線がアリスに集中する。
「え、わ、私? 何か悪いこと言った?」
「……タイミングが悪かったと言うべきかな。アリス、追いかけてくれるか」
「な、なんで私が」
「僕らじゃきっとプリムは話を聞いてくれない。女の子同士のほうがうまくできると思う。頼むよ、アリス」
「……仕方ないわね。なんだか私が悪者のようで釈然としないし」
 遅れて立ち上がったアリスは、プリムが駆け去った方向へと様子を見に行く。
 残された面々の空気は重い。その中で、レリウスが口を開く。
「ごめんね、気難しい子で」
「気難しい?」
「ああ。昔はそうでもなかったんだけど、最近は僕の顔もろくに見てくれなくてね」
「……レリウスさん。プリムがスカートで決闘していること、知らなかったんですか?」
 シルビナだった。真剣なまなざしの少女に、レリウスは頷く。
「ああ。研修手合の時は……、なんというんだったか、半ズボンのような――」
「スパッツ?」
「ああ、そう、そんなのを着ていたと思うけど」
「そうですか」
 シルビナも立ち上がる。その目は、静かに燃えていた。
「レリウスさん。もう少し弟子のことを見てあげてください。ちゃんと向き合ってあげれば、プリムはあんなこと言わないし、やらないはずです」
「向き合う?」
「失礼します」
 頭を下げ、シルビナもアリスを追いかける。残された男性陣は互いに顔を見合わせた。
「ライゼル君、ヴァン君。なんだかわかるかい?」
「さあな」
「まあ……、その」
 あっさり言うヴァンと、言葉をにごすライゼル。だが、ヴァンはきっぱりと言う。
「でもさ、言いたいことがあるなら、方法は決まってんだろ」
「方法?」
「あんたもプリムも決闘者なんだろ」
 それが、ヴァンの答えだった。

◇ ◇ ◇


 アリスは路地裏でプリムに追いついていた。
「ちょっと、プリム。どうしたのよ、いきなり」
「いいじゃない、放して!」
 手をしっかりつかんでいなければ、そのまま逃げられてしまいそうだ。どうすべきか迷ったが、アリスはなんとなく、ここで放してはいけない気がしていた。
「ほら、戻りましょう。王座も心配しているわよ」
「心配なんかしてないに決まってるもん! どうせあたしのこと、子供にしか見ていないんだから!!」
 アリスは口をつぐむ。コミュニケーション能力の欠如した少女には、何を言うべきかわからなかった。
「……先生は忙しいし、他の弟子もいるから、あたしにかまけてられないのはわかってるよ。でも、イヤなんだもん、そんなの」
「タイトルホルダーともなれば仕方ないわ。私だってお父様と稽古するのは年に数えるほどよ」
「そうだけど! そんなのわかってるけど……」
 くちびるを噛むプリム。その前に、人影が立つ。
「……シルビナ」
「止めて欲しかったんでしょう」
 その怜悧な眼差しは、プリムをまっすぐ捉えていた。
「そんなはしたないことをするんじゃない、と。あえて見せびらかすようにして」
「……」
「技に無駄が多いのも、叱られたかったんでしょう。そうすることで、あなただけを見て欲しかった。あなたの、本当の願いは――」
「やめて!! 知った風な口を利かないで!!」
「そうね、私はあなたではない。でも、あなたも口にはできないようだったから」
「うるさいっ! わかってるもん、全部わかってる……」
 目元に涙を浮かべる少女に、シルビナは続ける。
「あなた、何を言っているの?」
「……え?」
「わかっていようがいまいが、口にしなければ伝わらない。欲するなら、思いは形にしなければ」
「それができたら……、苦労はないわよ」
「できるでしょう。あなたは何なの?」
 きょとん、とプリムはシルビナを見返す。
「何、って?」
 対するシルビナの答えは、決まっていた。
「あなたは決闘者でしょう。私たちには、これしかないわ」
 ひょい、とシルビナの肩に妖精が飛び乗る。猫型の妖精をなでるシルビナを前に、プリムはうつむいた。