「……早い」
 超高速の連撃。
 かろうじて目は追いつくが、一瞬の加速はあのヴァンすら上回るかもしれない。
 線で追いかけ、なんとか相手の突撃する先に剣を置いても、ナイフで防がれてしまう。しかも相手は二刀流だ。片手のナイフを抑え込んだところで、もう片方のナイフが自分を狙ってくる。
「ほらほらほらほら!! どうしたどうしたァ!!」
 とにかく早い。自分の剣では全く追いつかない。
 ならば、どうすれば。
「もう死ぬ!? それとも頑張ってから死ぬ!? どの道、あんたに勝利の目なんてありゃしないッ!!」
 吼えるエクレアは、そのままナイフの連撃でこちらの魔力をそぎ取っていく。
「くッ……!」
 こうなると、障壁によるガードは裏目になる。致命傷にはならないが、相手が消耗するよりも早く、こちらの魔力が削られてしまう。
 ガリガリと、やすりに乗せられているような気分。
「なら、ばッ!」
 シルビナは下腹に力を込め、一気に跳躍した。
「逃がすかッ!」
 追いかけてくるエクレア。その姿を視界に捉えつつ、シルビナは剣を握り直す。
 跳びあがれば……、追いかけるには、下から来るしかない道理!
「せぇい!!」
 剣を手に、全力回転。真下を狙った斬撃はエクレアのナイフと激突し、
「ばぁか」
 直後、腕を大きくひねられていた。空中での格闘技。
「なっ」
 驚く間もなく、
「おしまいだよ」
 ナイフを逆手に握ったエクレアは、大きく振りかぶっていた。
 そのまま上下が入れ替わり、落下する。地面に激突する寸前、振り下ろされるナイフ。
 落下の衝撃すら利用した刺突は、シルビナのガードも障壁も貫き、その胸をえぐっていた。

◇ ◇ ◇


「ふっふーん。あたしの勝ちー!」
 現世に戻り、拳を振り上げて快哉をあげるエクレア。その前で、シルビナは何も言えない。
「じゃあヴァン、デートしよっ」
「……おい。なんでそうなんだよ」
 心底から嫌そうに顔をゆがめるヴァンだが、エクレアはもちろんそんなことを気にしない。
「いいじゃんいいじゃん、決闘に勝ったゴホウビってことでー!」
「あ、おい!」
 エクレアはヴァンの腕をつかむと、そのまま引きずって行ってしまう。もちろん反論など通じない。
「なんていうか……、嵐みてえな女だな」
 あきれたゼルは肩をすくめる。
「だが、実際、彼女は強いよ。もし師匠がついて、奨励会に入ったら、きっともっと伸びる」
「あれよりか? 考えたくねえな……」
 話す男子勢を尻目に、プリムはシルビナの腕をつかむ。
「ほら、シルビナ」
「……何?」
「あたしにあれだけ言ったシルビナが何もしないなんて、そんなのありえないでしょ?」
「私は、別に……」
「そういうのはいいの! ほら、行こ!」
 プリムはシルビナを強引に立ち上がらせると、
「ほら、何してるの? アリスもよ!」
「なんで私まで!?」
「当然でしょ? こんなの放置するなんて女がすたる!」
「すたって結構……、ちょっとぉぉぉ!?」
 シルビナとアリス、二人の少女を引きずり、意外とパワフルなプリムは駆け去っていく。
 残されたゼルとライゼルは、
「……どうしよっか、先輩」
「心配ではあるけど、僕らができそうなこともないしね」
「じゃあ、決闘でもやる?」
「やろうか……」
 気持ちが乗らないまま、アストラルサイドへと転移した。

◇ ◇ ◇


 奨励会館から少し離れたところに、大きな河川が流れている。
 河原は広く、ジョギングしている人や、ペットの散歩がてら歩く人なども見かける。
 そんな河原に連れてこられたヴァン・レクサスは、深く嘆息した。
「ったく、なんなんだよ、エクレア。いきなりやってきて」
「いきなりって何よ。いきなりはヴァンの方でしょ? 何も言わずに出て行っちゃって」
「おっさんには言ったよ」
「えー!? だってゴドウィン、知らないって言ってたよ?」
「知るかよ……。てか、そうか、ゴドウィンか。やっと思い出した」
「……ヴァン、またゴドウィンの名前、忘れたの?」
「う、うるせえな。覚えにくいんだよ」
「どこがよ」
 ふふ、と笑ったエクレアは、ぎゅっとヴァンに抱きつく。
「でもま、いいんだ〜。ヴァンと会えたし! ねえ、これから一緒に、たくさん遊ぼうね」
「嫌だっての」
「またまたぁ。ヴァンは決闘、とっても好きでしょ」
「……」
「あたしがたくさん決闘してあげる。朝も晩も、いつでもいいよ。たくさんたくさん決闘しよう。いっぱい遊んでね。いっぱいだよ? ふふふ……」
 薄く笑うエクレア。その視線の先にいるヴァンは、何の表情も浮かべていなかった。

◇ ◇ ◇


 一方。少し離れた草むら。
「ちょっとアリス、狭い」
「あなたが連れてきたんでしょう!?」
「しっ、見つかるよ」
「ぐぬぬ……。てか、てかてか! なんでミーナさんまでいるの!?」
「え? だ、ダメでした?」
「ダメじゃないけど〜。意外っていうか」
「だって! あのヴァン君に婚約者よ!? こんな面白……、もとい、重要な案件、放置できるわけないじゃない!」
「そうよね、やっぱりそう思うよね!!」
「二人ともうるさいですわ!」
「ごめんなさい」
「ごめんね」
 がさがさと草を揺らす少女たち。その中で一人、沈黙を貫いているのは――シルビナだった。
「あの、シルビナ? 大丈夫?」
「大丈夫よ。私はとても冷静」
「その割に手、真っ白になってるけど大丈夫?」
 握りしめた拳を指して言うが、シルビナは首を横に振る。
「もちろん大丈夫よ。私は大丈夫」
「さっきから大丈夫しか言ってないけど?」
「大丈夫よ」
「……危ない」
「あ、見て、ヴァンが……」
 エクレアの方を見たヴァンに、一同ヒートアップ。一部寒冷化。
「……!!」
 四人がどきどきしながら見守る中で、ヴァン・レクサスの声が届く。